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人魚のイクラちゃん

「お兄さん! どうだい、酒の肴に! 新鮮だよ」
「……いや。あの。この人なんすか?」
「何だ、お兄さん。人魚を見るの初めてかい? 珍しい鮭の人魚だ」
 魚屋の親父はさも常識のように話すので、苦笑いしか出せない。いつから魚屋は人魚を売るようになったんだ?
「あら、いいわねぇ。息子に買っていこうかしら」
「え、買うの?」
 見知らぬ隣のおばちゃんが人魚に向かって、買うとかいうもんだから思わずを声をかけてしまった。
「あら、ごめんなさい。あなたが買う予定だったのね。残念だわ〜」
「え、いや。僕は……その」
 鮭の人魚と目があう。済んだ瞳で、吸い込まれそうな目をしている。僕がじっと見つめていると、人魚は僕に語りかけてきた。
「私、イクラ定期的に出せるわよ? なんせ鮭の人魚だからね。どう?」
 なんか、セールスポイント言ってきた!
 自分売られるんだよ? しかも食料としてだよ? この人魚わかってんのかね!
「人魚もお兄さんのこと気に入ったみたいだねぇ。仕方ねぇ。お兄さんには特別に二十%引にしちゃうよぉ」
「ほら、私、二十%引きだってよ! ほら、買い時!」
 だからなんでそんな売られる気満々なの?
 僕の気持ちを無視して、鮭の人魚は期待の眼差しで僕の見つめてくる。
「あ、あの。カード使えます?」
「へい、毎度!」
「毎度!」
  魚屋のおっさんも鮭の人魚も嬉しそうだった。なんか、勢いで買ってしまった。
「これからよろしくね〜」
「よ、よろしく」
 

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