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【読書感想】人生を問う哲学 - 『君のクイズ』

📚2023年本屋大賞ノミネート作品📚

『君のクイズ』

🔍クイズが問いかける人生の真理🔍

✴︎作品概要

小説『君のクイズ』(小川哲著)は、一見単純なクイズ番組の舞台裏を描いた物語に見えて、実はクイズの究極の問い「クイズとは何か」に挑んでいる。この小説は、エンターテインメントとしての面白さと、クイズに向き合う若者たちの人生観そのものを描いた稀有な作品といえる。

✴︎物語の導入が魅力的

物語は、クイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝戦から始まる。主人公の三島玲央と、その対戦相手である本庄絆ほんじょうきずな。二人のクイズプレイヤーが1000万円の賞金を懸けて激突する場面だ。

しかし、最後の問題で信じられない事が起こる。本庄絆が問題文を一文字も聞かずに正解してしまうのだ。この不可解な出来事が、物語全体を貫く謎となる。

果たして番組のヤラセなのか、魔法なのか

三島は過去の記憶や経験を掘り起こしながら真相に迫っていく。読者である私も、三島と共に「本庄がなぜクイズに回答することができたのか」というクイズに挑戦させられる感覚を味わった。

✴︎クイズと人生の交錯

本作の魅力の一つは、クイズを通してクイズプレーヤーの人生を回顧する構成にある。本書を読み終えた時、この構造が『スラムドッグ$ミリオネア』(映画)や『ザ・クイズショー』(ドラマ)に類似していると思った。しかし、本作はさらに一歩進んで、「クイズとは何か」を哲学している点がユニークである

三島の視点から語られるこの物語は、「クイズとは人生である」というメッセージを読者に投げかける。彼はクイズに正解することが、単に知識を披露することではなく、自分の過去や経験、そして人生と向き合い、それらを肯定することに結びつける。この観点は、クイズという身近な題材を通じて、クイズの本質に言及するといった小川哲氏の哲学的な手腕を感じさせる。

✴︎物語の構成と技法

既存の作品を振り返ってみると、クイズをテーマにした物語には、クイズの答えがその人物の経験や人生と紐づくように設計されている構成が多い。先ほど挙げた『スラムドッグ$ミリオネア』や『ザ・クイズショー』はその最たる例だ。

しかしながら、私は本作を読んでいる時、「クイズ≒人生経験を問う」仕組みに気づけなかった。これは小川哲氏の技量によるところも大きいと考える。本作は主人公の三島の視点を通して語られている。三島の視点からでは、クイズの断片的な情報が順番に語られるに過ぎない。最後の問題に近づかなければ、読者が真相にたどり着くことができないように小川哲氏は巧妙に構成している

✴︎キャラクターの描写と対比

本作のように、クイズと人生を絡めることのメリットは、キャラクターの造形を物語全体を通して行える点にある。最後まで読み切ることで、三島の過去の経験や思い出がクイズの答えと結びつき、彼の人物像が浮き彫りになる。クイズを通じて彼の人生が明らかになっていく過程は、小説を書く人にとっては参考になるプロセスだろう。

物語は主に三島の視点から語られるが、本庄絆という対照的な人物の存在も重要だ。三島がクイズに正解していくのを過去の自分の肯定として捉えるのに対し、本庄はクイズの勝利以上に、クイズを自己実現の手段として捉えている側面がある。

本庄絆は、「クイズで生きていく」「クイズで金を稼いでいく」ことをクイズの目標としていたのだ。この対比は、「クイズが人生である」ことと照らし合わせると、人生観の違いとしても捉えることができる。クイズとは人生であるが故に、その捉え方は人それぞれ違っていることを暗示しているのだと感じた。

✴︎クイズとは人生である

この一言に、物語全体のエッセンスが凝縮されている。私たちの人生は、常に新しい問いかけに満ちている。そして、その問いに真摯に向き合い、自分なりの答えを探し続けることこそが、生きることの本質なのかもしれない

✴︎まとめ

『君のクイズ』は、エンターテインメントとしての面白さと、人生の真理を探求する側面を兼ね備えた稀有な作品だ。クイズ番組という身近な題材を通じて、人間の本質や生き方を問いかけている。本作を通じて、どんな人生を送るかというクイズを出された気さえする。読み終えた後、私は自分の人生を振り返り、自分の「クイズ」に思いを巡らせずにはいられなかった。それこそが、この小説の真の魅力なのかもしれない。『君が手にするはずだった黄金について』に続き、小川哲氏の表現する世界に魅了された。

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