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裏話

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創作文章に登場する人物、舞台設定など、あれこれ書き綴ったものを集めました。
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記事一覧

人物裏話——車折と弟の会話篇。

人物裏話——車折と弟の会話篇。

(チャイムの音)
「はい」
「ぼく」
「衛か。どうした」
「ご飯、もう食べた?」
「これからだよ」
「よかった。これ、お土産」
「なんだ」
「蛇」
「…………」
「冗談だよ、落とすことないだろ」
「おまえが云うと冗談に聞こえない。それに動いたような気がした」
「動かないよ、死んでるんだから」
「ほんとに蛇なのか」
「蛇なんか持ってくる訳ないだろ、魚だよ」
「結構、重かったけど」
「黒鯛だから。遠藤

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人物裏話——亮二と牧田篇。

人物裏話——亮二と牧田篇。

 彼らは最初から仲が良かった。バンドを始めた時から晩年に至るまで、その仲は変わらなかった。牧田の裏話に、「彼が生涯妻帯しなかったのは亮二が居たから——違うか」と書いたが、そうだったのかも知れない。
 だからと謂って、牧田が亮二を友人以上に思っていたと云っている訳ではない。
 亮二も、子供が出来ていたことを牧田にだけ打ち明けている。親にも云わず、他の人間にはタネが弱かったとか誤魔化しているのに、牧田

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人物裏話——白い鳥篇。

人物裏話——白い鳥篇。

 白鳥は悲しからずや 空の青海のあをにも 染まずただよふ

 若山牧水の短歌である。この「白鳥」は、「はくちょう」ではない。しらとりと読む。白い鳥が世の中の色に染まらずひとり淋しく飛んでいる、と謂う意味になるだろうか。これはそのままの解釈である。しかし短歌などと謂うものは、読んだひとがそれぞれに解釈すればいいだろう。
 仮名が振られていないのだから、白鳥と思ったっていいのだし、海から連想して鴎だと

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人物裏話——モデル篇。

人物裏話——モデル篇。

 なんだか世間では、顔の分類が細分化しているみたいだ。
 醤油顔、ソース顔と謂うのは知っていたが、今では「塩」「酢」「ケチャップ」「マヨネーズ」「味噌」等々あるらしい。台所か?
 基本的に男女問わずあっさりした顔が好きなので、濃い顔は苦手。これまで好きになった芸能人は、
 笠智衆、天本英世、舟木一夫、キャンディーズのランちゃん、りょう、シャルロット・ゲンズブール、嶺川貴子。
 原田知世は云うまでも

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人物裏話——ドライブ篇。

人物裏話——ドライブ篇。

「シートベルトしたか」
「しました」
「エンジンの掛け方は判るか」
「それくらいは判ります」
「凄い音がしたぞ」
「しましたね」
「新車を壊すなよ」
「壊しませんよ」
「サイドミラーはどうだ」
「ちゃんと見えています」
「バックミラーは」
「これはあまり見ないんですけど」
「嘘だろ。それ見ないでどうやって運転するんだよ」
「見なければいけませんか」
「当たり前だよ。後ろの状況が判らずに運転は出来ん

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人物裏話——小牧真紀子篇。

人物裏話——小牧真紀子篇。

 小牧真紀子という名前を考えた時、最初は漢字ではなく片仮名だった為、回文みたいだな、と感じたので江木澤にそう思わせた。亮二は彼女を殆ど名前で呼ばず、呼んでも苗字だった。ナニ故? 他の女は先輩とかじゃなきゃ名前にちゃんづけで呼ぶのに。一要にはいい年してちゃんとか云ってんじゃねえよ、って云ってるけど。
 真紀子の方が亮二にひとめ惚れして、同じクラスになったら勇気を出して声を掛けた。亮二の方は、最初はな

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人物裏話——亮二と真紀子の会話篇、2。

人物裏話——亮二と真紀子の会話篇、2。

「私服の姿、はじめて見た」
「ああ、そうか。いつも制服だったな」
「普通の恰好なんだね」
「当たり前だろ、どんな身装してると思ってたんだ」
「もっとロックっぽいのとか」
「革ジャンとかリストバンドか」
「そうそう」
「そんな馬鹿っぽい身装、するかよ」
「そうかな、似合いそうだけど」
「趣味じゃねえ」
「背が高くて細いから、なんでも似合うと思うけどね」
「おまえはジーパンをよく穿くな」
「楽だもん。

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亮二と姉ちゃんの会話篇。

亮二と姉ちゃんの会話篇。

「りょう君、髪の毛伸びたねー」
「散髪してませんから」
「似合ってるよ」
「そうですか」
「でも、鬱陶しくない?」
「前髪は適当に切ってますけど」
「後ろ、後ろ」
「志村」
「は?」
「いえ」
「縛ってあげる」
「SMですか」
「違うよー。髪の毛を縛るって云ってるの」
「髪の毛を緊縛して面白いんですか」
「おかしな表現しないの。きれいなうなじだねえ」
「くすぐったい」
「あ、感じるんだ」
「感度は

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人物裏話——牧田の姉篇。

人物裏話——牧田の姉篇。

「俊介、ちょっといい? あ、お友達が来てたの」
「ああ、軽音部の。前に話しただろ、木下」
「あー、ボーカルになった子ね」
「どうも」
「ハンサムねえ。誰かに似てる」
「誰かっつーか、狐だろ」
「狐って。誰だっけ、俳優で。あっ、りょうだ」
「亮二だよ」
「違う違う。モデルのりょう」
「誰だ、それ」
「待ってて、雑誌持ってくる」

「……姉ちゃんか」
「そう」
「仲、良いんだな」
「まあな」
「幾つ上

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解説。

解説。

 惣一は奈津子がまだ三才の頃から結婚したいと考えていた。それからずっと思い続けて二十一才で想いを遂げた。駆け落ちした末に結婚し、幸せに暮らしている。
 このふたりの怒涛の恋愛劇は、亮二の娘と江木澤の息子の物語として考えていた。が、亮二は子供が出来ないという設定だったので、此方の話になったのである。
 という訳で、もし亮二に子供が居たら、と会話を書いてみた。
 こんな親子、傍迷惑だろうなあ。清世も大

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人物裏話——木下亮二篇、2。

人物裏話——木下亮二篇、2。

 改めて亮二のことを書いておく。
 新市西地区生まれ。父親は出版社勤務。ジャズが好きで、若い頃はバンドを組み、ギターの演奏をしていた。名前は孝一。母親は秋子と謂う名で岐阜出身。大学生の時に孝一と知り合う。卒業後、就職するものの亮二が生まれてから専業主婦になる。
 秋子の実家は神道だが、孝一は仏教徒で曹洞宗西本願寺派。末の弟はプロテスタントの牧師。亮二は完璧な無宗教。
 このふたりは大学在学中に同棲

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人物裏話——亮二と真紀子の会話篇。

人物裏話——亮二と真紀子の会話篇。

「シャワー、浴びようか」
「一緒に?」
「だって、今更」
「今更ではあるな」
「こんなことになるとは思わなかったけど」
「つい、勢いで」
「こういうことはしないひとかと思ってた」
「なんで」
「なんでって、そんな気なさそうだったから」
「まあ、なかったけど」
「でしょ」
「でも、おれも男だから」
「それは判ってるけど、なんとなく他の子と違うし」
「違うか?」
「なんとなくだけど」
「小さい頃からそ

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人物裏話——クラスメイト篇、2。

人物裏話——クラスメイト篇、2。

「また進路指導か」
「水野が頼むから受験してくれってうるせえんだよ」
「しょうがないよ。おまえが箸にも棒にも掛からないくるくるパーだったらほかっとくけどさ、毎回テストで全教科、学年十位以内に入る奴は教師としても進学させたいって」
「大学行ってしてえことなんかない」
「みんなたいして考えてないよ」
「金の無駄だろ」
「じゃあさ、就職するにしても何処に入りたいとかあんのか」
「ねえんだよな、これが」

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人物裏話——クラスメイト篇。

人物裏話——クラスメイト篇。

「おまえさあ、コンビニでバイトしてるんだよな」
「ああ」
「だったらさ、アレ買ってきてくれないか」
「あれって何」
「ゴム」
「輪ゴム」
「違うよ、馬鹿。コンドーさん」
「近藤さんは売ってない」
「判ってて云ってんだろ」
「判んない」
「コンドームだよ」
「ついに云ったな」
「この野郎、判ってたんだな」
「判らいでか」
「買ってきて」
「てめえで買え」
「恥ずかしいじゃん」
「自分が働いてる店でそ

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