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第104回 海軍横須賀刑務所(1973 東映)

 さて、今日は5月15日、5.15事件の日です。2.26事件ばかりが有名ですが、結局のところ2.26は5.15の後追いです。そして、これはつまり海軍が不満を爆発させた日なのです。

 というわけで今回は勝新唯一の東映出演作である『海軍横須賀刑務所』でお送りします。

 勝新演じるヤクザの水兵志村が海軍で大暴れし、刑務所に送られてもやっぱり大暴れという、概ね想像通りの映画です。山下耕作監督、石井輝男脚本なので健さんの任侠映画と『網走番外地』のテイストが入り、予想も期待も裏切らない上質な東映娯楽映画です。

 そして、陸軍と比べて好意的に描かれがちな日本海軍の暗部が余すことなく描かれているのも注目すべき点で、『兵隊やくざ』とはその実全く違った味わいがあり、意外な発見を提供してくれます。

 「上等兵殿の居ない兵隊やくざ」という悪意混じりの評もありますがそれは見識不足というもので、上等兵殿の役割は何人もが分担します。上等兵殿が何人も居るのでBL的にはハーレムもいいところで、勝新のBL力が余すことなく堪能できるので腐女子腐男子には強く勧めたい一本です。

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真面目に解説

陸軍としては、海軍の提案に反対である

 本作の前半の舞台になるのは横須賀海兵団。これは海軍に入隊してきた新兵を鍛える所謂ブートキャンプです。本作において軍艦は時代考証をぶん投げた海自か在日米軍のそれが風景として映るだけです。

 当然ながら過酷なしごきが横行しています。衣嚢を担いでの走り込み、手旗信号、ソーフ(海軍式の雑巾)がけ、カッター(短艇)漕ぎなど、海軍独自の訓練がOPのうちにまとめて描かれます。

 そして本編ともなれば当然私的制裁の観艦式状態になるわけですが、『兵隊やくざ』を観た人は本作を観たら気付くはずです。こっちの方が陰湿だと。

 これは大映と東映のカラーの違いだけで片付くものではありません。これは日本陸軍と海軍の体質が根本的に違うのです。

 陸軍の方が汗臭くて厳しそうだと世間の人は信じていますが、こと私的制裁にかけては陸軍より海軍の方がずっとハードなのです。

 というのも、陸軍は直接敵と向き合って殺し合うのが任務です。戦闘中に背中に弾が当たっても戦場では「事故」で片付けられてしまいます。何も考えず兵隊をぶん殴っていると仕返しが来るわけです。

 これが海軍だと仕返しの機会がありません。従って海軍の私的制裁はサディズムの赴くままです。

紳士はスパンキングがお好き

 海軍の私的制裁を象徴するのがご存知海軍精神注入棒です。本作でもこいつが乱れ飛びます。これが無い日本海軍の映画など去勢されているも同然です。

 何の事はない棍棒ですがこれは海軍独自の物です。陸軍の私的制裁はビンタが原則で凶器は御法度とされていました。これを徹底させたのが兵隊思いの東条英機であったのは学校の先生は絶対に教えてくれない事実です。

 この定番アイテムの存在は日本海軍が英国海軍に範を取った事に由来すると言われています。なにしろ範に取ったのは明治初期の話です。当時の英国海軍は強勢徴募と言って、水兵を港や他の船から誘拐する事で揃えていました。

 当然士気は低く、士官は誘拐してきた水兵を棍棒でぶん殴って服従させていました。これが特に何も考えずに輸入され、昭和20年まで海軍精神注入棒として残ったわけです。

マザコン志村

 大宮の行動原理は第一に上等兵殿で第二に己の欲望ですが、本作の主人公である志村兼次郎は全く違います。むしろ志村は大変に我慢強い男です。

 その根幹にはおでん屋の屋台を営む母ふさ(赤木春恵)の存在があります。ふさの軍隊で何があっても怒ってはいけないという教えを志村はギリギリまで守ろうとするのです。

 腐りきった上官の自分や仲間への陰湿な仕打ちにひたすら耐えて最後に爆発する様は大宮よりもむしろ健さんのノリに近く、任侠映画が衰退しても任侠道を映画に残そうと努めてきた山下耕作の哲学が窺えます。

 そういう志村なので大宮に輪をかけて義侠心が過剰であり、また喧嘩も無敵の強さなのでたちまちのうちに仲間を魅了していきます。

 そもそもが、本作は最初は健さん主演で作られる予定だったのですが、複雑な政治の末に勝新が招かれた経緯があるのです。

上等兵殿が一杯

 大宮と上等兵殿は二人で一人の事実婚状態であり、大宮の暴力を一筋縄ではいかない上等兵殿がコントロールすることで映画が進むわけですが、本作には上等兵殿が存在しません。

 上等兵殿の果たす役割は分担され、志村の行く先々で起こるイベントはそれぞれ違う男がキーになって動いて行きます。『兵隊やくざ』は二人だけの世界が続く純度200%のロマンスですが、本作はハーレム物なのです。

 中でも前半の正妻というべきポジションに居るのが同年兵で関西弁の谷口(松方弘樹)です。弟分として一緒に女を買いに行ったりといつもの松方弘樹で絶好調です。

 若い頃の松方弘樹は役が付かないので大映に貸し出されていた時期があり、勝新に薫陶を受けていたので志村と谷口のタッグは決まっています。普段からあんなノリで付き合っていたのではないかと想像すると楽しいのです。

守ってあげたい上等兵殿

 上等兵殿は戦闘力はほぼゼロであり、大宮は上等兵殿を守るためにランボー並みの大暴れも辞さない姿勢です。

 この守るべき盟友ポジションを担当するのがこれまた同年兵の西山(長谷川明男)です。長谷川明男は大映出身なので、恐らく勝新のプッシュがあっての起用でしょう。

 悪役のイメージが強い長谷川明男には珍しく、典型的戦争映画のどんくさい新兵ポジションですが、善良でやさしい奴で志村や谷口と気が合い、何しろ長谷川明男なので女にモテます。

 どんくさいので連帯責任で周りの者も一緒に殴られてしまうわけです。しかし、親を早くに失って妹(山田圭子)と二人きりで懸命に生きる西山を志村はその義侠心で守るのです。

何でも知ってる上等兵殿

 上等兵殿はカビの生えた古参兵なので若手の下士官にはおいそれと手出しできない権力を持ち、また軍隊の裏表を知り尽くしています。

 この軍隊の暗黒面への水先案内人役カラスの異名をとる不良兵の井出(三上真一郎)です。何故カラスかというと、海軍刑務所帰りで残りの兵役期間を務めている身の上で、階級章が無地の真っ黒だからです。

 軍隊というのは階級とは別に年功序列が物を言うというのはまさに『兵隊やくざ』でも説明しましたが、ムショ帰りの上に髭もじゃの三上真一郎なので治外法権の存在として恐れられています。

 軍隊の裏の裏まで身を持って知っているこの井出が志村を意外な形で救うのです。

やんごとなき上等兵殿

 上等兵殿は久留米の殿様の家系で華族ですが、日本軍には時として家紋が菊の人達が居る事があります。兵役は大日本帝国憲法の定めるところの国民の義務なれば、皇族の男子は率先して軍務に就かねばならないのです。

 映画になるような手柄を立てちゃう人から芸者遊びばかりしていた人までピンキリですが、本作には世間知らずの久邇宮朝融王(太田博之)が登場します。

 二人のやり取りは落語の『妾馬』その物で、世間も知らなきゃ女も知らない殿下と志村は意気投合していちゃつくのですが、驚くべき事にこの朝融王は実在します。上皇の伯父さんです。

 映画では志村に「スケ」だの「ハクい」だの「バシタ」だの悪い言葉を教わって感心していましたが、本物の朝融王はバシタ選びを巡って大揉めになったり、侍女がハクいスケだったので手を付けてハラボテにしたりとかなりの問題児でした。

 もっとも、不敬罪は嫌なので深い話は避けます。

悪友上等兵殿

 上等兵殿は決して清廉潔白な人物ではなく、大宮といちゃつくことによって各種の特権を一緒に享受しちゃうくらいのノリは持ち合わせています。

 腐りきった上官をぶちのめした結果海軍刑務所に送られた志村を出迎える同房の水兵達がこれに当たります。

 牢名主の山本麟一を筆頭に、青鬼(伊達三郎)、海坊主(関山耕司)、勝新と同行の志の桑原(潮健児)と、網走番外地以来お馴染みになったマッドマックス並みの悪人面が揃えられ、殴り合いで友情しちゃうのです。

 こんな連中が勝新と友情すれば収拾がつかなくなるのは当然の流れで、後半は前半の任侠テイストは鳴りを潜め、限りなく不良性感度路線に傾斜して収拾がつかなくなっていくのです。

親愛なる上等兵殿

 上等兵殿はインテリであり、大宮に暴れるべきタイミング、止めるべきタイミングを支持することで大宮と持ちつ持たれつで軍隊生活を送ります。

 志村の後ろ盾としてこの役割を担うのが井出に紹介された終身懲役の滝川少佐(菅原文太)です。

 少佐で終身懲役ともなれば5・15事件に連座していたに違いありません。それで文太兄ぃなんですからこれはもう反則です。

 少佐は法律を熟知している上に囚人でも少佐なので、志村への法を逸脱した懲罰を止めることが出来、また案の定反乱を起こした志村達を適当な所で止める事も出来ます。

 勝新太郎と菅原文太が顔を合わせる。それだけでもこの映画は一見の価値ありです。

腐った上官たち

 こんな映画なので上官は腐りきっている外道です。一人も尊敬できる人が出てこない潔さ(開き直り)は大映にはない魅力と言えましょう。

 一番悪辣なのが志村たちの直接の上官である黒川(藤岡重慶)で、西部署の取り調べより過酷で理不尽な私的制裁は、石井輝男の変態ぶり(誉め言葉)が最も強烈に出ているシーンです。

 そしてその更に上司である寺坂大尉(室田日出夫)は大した出番もなく志村にぶちのめされるだけですが、何しろ室田日出夫なので会心の顔芸でやられます。こういう権力の犬に強いのが室田日出夫なのです。

 刑務所でも看守長(名和宏)だの所長(須賀不二男)だの、悪代官の集会かと思うようなえげつないメンバーが揃えられています。

 やられぶりが見事なのも東映の持ち味であり、最後は悪はぶった切られるべきという山下耕作の哲学と、とにかく変態的な暴力を重要視する石井輝男の職人芸の融合です。

今回の褌シーン

 さて、日本軍をテーマにした映画なので、ゲイが大喜びしちゃう褌のシーンがあります。そう、女郎買いです。

 何しろ中国の田舎ではなく横須賀なので、安っぽい慰安所ではなく普通の遊郭です。谷口の案内で志村と西山は三人連れだって遊びに行きます。

 いつも通りのマジカルチンポで女をメロメロにする志村、きつーい一発でコミカルに印象を残す谷口、そして童貞の西山と褌姿で躍動します。

 勝新は自分が褌が似合う自覚があるようで、しょっちゅう披露してくれますが、松方弘樹の褌というのはあまり見れるものではありません。無駄に良い身体しているのがポイントです。

 西山は童貞のくせにいい男なので牛若(森秋子)なる女と良い仲になってしまい、事態が凄まじく混迷していくのですが、他の戦争映画に輪をかけて本作では彼女達女郎はコンドーム扱いです。殆ど男だけの映画なのです。

BL的に解説

日本海軍はホモ

 軍隊がいかにホモであるか事あるごとに本noteでは力説してきました。しかし、日本海軍の登場した今、それらは前戯でしかなかったという事になってしまいます。

 というのも、日本の軍隊の成り立ちを見ると、陸軍は長州が、海軍は薩摩が仕切って来た経緯があります。

 長州は藩法で衆道NGですが、薩摩ではノンケは変態で女は産む機械です。そんなガチホモバーサーカーが狭い艦で男ばかりで何日も、これで何も起きないはずがありません。

 何しろ海軍は人数が少ないので陸軍より食べ物が良い反面、艦隊勤務ともなれば女は買いに行けません。薩摩閥で威張り散らしている士官の海軍精神注入棒が東北育ちのよかにせ水兵の尻に飛ぶのは避けがたい運命です。

 士官教育にもえらい違いがあります。陸軍士官学校は今の市谷駐屯地の場所にあり、女を買おうと思えば不可能ではない環境でしたが、それでもハッテン場同然の様相を呈していました。

 一方海軍兵学校は広島の江田島にあります。文字通り島で周りには何もない辺鄙な所です。そして偉い人は皆ホモの英才教育を受けた薩摩隼人とくれば、もうこの近くを女性が泳げば妊娠してもおかしくありません。

 その他軍隊と男色については実例も踏まえた面白い話が掘り起こせば無限にあるのですが、長くなりすぎるので本題に移りましょう。

志村×西山

 本作が勝新ハーレムだとすると、最も重い愛を展開している相手はやはり西山です。

 開始早々カッター訓練でオールをぶつけたというしょうもない罪で藤岡重慶に海軍精神棒を叩き込まれる西山を、志村は守りました。

 飯をひっくり返して自分が殴られる事によって、志村は西山への制裁を途中で切り上げさせたのです。

 強きをくじき弱きを助ける侠客精神フルスロットルの勝新、そりゃあ惚れます。長州の撃ち殺されて当然の腐れノンケでも脱藩します。

 就寝になってもほったらかしにされている志村を介抱し、尻をさすってやる西山。そこが殴られた部位と言われればそれまでですが、にしたって尻ですよ?石井輝夫がその程度の事が分からぬはずがないのです。

 勿論、BL的にはこのまま厠に言って前の方も頼むという事になります。西山は秤に乗りきらない恩があるのですから、童貞の前に処女を捨てるとしてもやぶさかではないでしょう。

 あるいは、志村の方にも打算があった可能性があります。というのも、入営前の最後の昼休みで、志村は西山の妹と会っているのです。

 志村が実質大宮だとすれば、これは是非あの妹が欲しいという流れになります。そして、BLとして考えた場合、兄と妹は等価です。まさに命がけの愛です。

 そして、志村はやはり大物ヤクザなので、じきに分隊内で親分的な立場になっていきます。

 その最たるものが、下士官が水兵相手に行う明らかに不公平なオイチョカブで、水兵たちが雀の涙の給料を巻き上げられる中、志村が出動して逆に下士官をすっからかんにしてしまうのは実に爽快です。

 勿論、金を取り返して貰った仲間達は志村に身体で利息を払う必要があります。支払い能力のいかんを問わず、借りは身体で返すのがこの世界の作法です。

 一方、谷口の案内で女を買いに行こうとする志村が、西山が童貞だと知って尚の事強く誘うのは、日本古来の美しき衆道の伝統に則った行動です。

 つまり、ただ掘って気持ち良くなるだけは三流で、掘った相手の人生にも責任を持つのが衆道のあるべき姿です。だからこそ、志村は西山の童貞をいち早く捨てさせるべきだと思ったのです。

 一番良い女を西山に回すというのも、明らかにこの崇高な世界観に従った行動です。初めての女には上等な女を。やはり海軍には薩摩の美しき伝統が内包されています。そこでは女は道具でしかありません。

 その道具である牛若は西山の懐中から妹に宛てた仕送り入りの手紙を発見して読み上げますが、志村が何かと庇ってくれると書いてあります。何と美しき愛でしょうか。

 牛若はそれに感激して最高の筆下ろしを提供したようですが、これはもはや西山は牛若を介して志村とヤっているという事です。

 しかし、藤岡重慶が客としてやってきて嫉妬に狂い、三人組を下士官仲間と殴りまくるのです。これは複雑なNTRを感じます。商売女にマジになってしまうとは、藤岡重慶は海軍下士官としての覚悟の足らない男です。

 藤岡重慶の醜いジェラシーは、西山が牛若に手紙を出した事でピークに達します。軍隊では手紙は検閲されるので、これは明らかに西山が迂闊だったのですが、にしてもやる事があまりに陰湿です。

 泣き言を垂れる手紙を読み上げる藤岡重慶。更には西山が牛若から下の毛まで貰ったと聞いて藤岡重慶は怒り狂い、テーブルの上で谷口相手にエアセックスを強要するという、吐き気を催すレベルの邪悪な制裁に至ります。

 それを見て壁に吊ってある剣に視線を走らせる志村。これは逆NTRです。まるでGOTのごときアブノーマルの世界観です。

 そこへ室田日出夫がやって来て、外出禁止で沙汰やみになったのは、残念ではありますが、不幸中の幸いでもあります。

 便所で褌に血がついているのを見て、仲間の蔭口まで聞かされて涙を流す西山の姿は、明らかに事後シーンです。何しろケツから血を流しながら泣いているのですから。

 そして、西山はそれを苦にして首を吊ってしまいます。言うまでもなく、これは藤岡重慶の責任です。西山は心のケツをガン掘られ、直腸破裂で死んだのです。

 志村はついにはブチ切れてカラスのケツ持ちで下士官室を襲撃し、海軍精神注入棒で下士官を全員制裁します。流石に高倉健主演を想定していただけあって、任侠映画と同じパターンです。

 それでは収まらない志村はおおもとの室田日出夫を襲撃しますが、何をしに来たという室田日出夫に、志村が「こんな時間に黙って入ってきたなら決まってるじゃねえか」と言ってしまうのは、個人的には重要なシーンです。

 つまり、夜這いに来たと取る事が出来るのです。何しろ室田日出夫は海軍士官である以上、兵学校を出ています。そういうシチュエーションの当事者になる機会は誰よりも多いのです。

 いきなり軍刀で切りつけたのも、若い頃のトラウマだとすれば合点がいきます。先輩によかちごされてしまったトラウマが、室田日出夫の中に潜むメスのヒステリーを爆発させてしまったのです。

 しかし、室田日出夫が勝新に勝てる法は無いので、あえなく刺されてしまいます。志村が2回刺したのは、西山の為に殺したいが、殺すわけにもいかないというギリギリの感情を物語っています。

 いずれにしても、志村は100%やり遂げました。これは愛の勝利なのです。

志村×谷口

 原作では谷口は志村の弟分なので、やはり正妻と見るべきでしょう。

 どういうわけか互いによく知らない段階から志村にちょっかいをかけがちな谷口の姿は、明らかに気になる女の子に意地悪しちゃう11歳男子ムーブです。男は、ましてや松方弘樹は永遠に少年の部分と決別できないのです。

 更には、志村は西山に代わって制裁を受けるという漢気を見せます。血を吐きながら海軍精神棒を受け止める志村の姿に谷口の海軍精神注入棒はもうギンギンです。

 貰い事故とは言え、西山にオールをぶつけられた谷口も同罪扱いだったので、助かったのも西山と同じです。

 それで、谷口は残飯でおにぎりを作って志村と谷口にプレゼントします。これは一歩間違うと営倉モノなので、かなりの愛情表現です。

 谷口は「カムチャッカの兼」なる伝説のヤクザの兄貴分を自称し、志村に盃をやると言いますが、実は志村こそがそのカムチャッカの兼なのです。

 これは重大な社会的リバあり、ヤクザ社会における大罪です。勿論、谷口は身体で払わなければいけません。それを証拠に、それ以降谷口は志村の弟分として西山と三人でいちゃいちゃしながら行動を共にするようになります。

 谷口の案内で三人そろって女を買いに行くのに至っては、もはや関節ホモセックスです。女郎たちはコンドーム、もとい突撃一番、もといゴム兜でしかありません。

 谷口の志村への忠誠心は群を抜いていて、西山とのエアセックスにも我慢します。妙に目がギラギラしていて意味深ですが。

 三か月の外出禁止を言い渡されても、他の連中と違って谷口は嫌な顔一つしません。これは同じ兄貴分を持つ者同士、助け合うべきというヤクザBLの美しい側面の発露です。

 この美学の境地は、西山の自殺を受けて谷口が報復しようとした事でピークに達します。

 「わしも漢にしてくれ」と願う谷口を志村が殴り倒していくのは、BL的に見れば最尊シーンの一つです。可愛い弟分を巻き込むわけにはいかない。まさに漢が求める究極の美学です。

志村×カラス

 カラスは何しろムショ帰りですから、男を覚えているというのはごく自然な発想であり、熊系の王様のごときルックスの志村に興味を持つのもまた驚くべき事ではありません。

 開幕早々の志村の制裁を丁度良い所で止めたのもカラスでした。これは死なれては面倒なのは当然ですが、下心があったとしてもおかしい事ではありません。愛とはえてしてこんな物です。

 これはあくまで私の推測ですが、室田日出夫が良いタイミングでやって来たのは、カラスが何かしら手を回したからではないでしょうか?あのまま放っておくと本当にホモセックスしろとか言い出す勢いだったので、この推測が事実だとすれば稀代のファインプレーです。

 志村の仕返しに際しても、殺すと死刑になるから死なない程度にしろと忠告し、見届け人を買って出たのは、やはり愛です。

 カラスは志村と一緒に下士官室を襲撃し、8年軍隊の飯を食った事を盾に突っ張り、外相さえつけなければ転んだで済むし、内臓が無茶苦茶でも腹下しで済むという怖いアドバイスをします。この辺は完全に上等兵殿です

 そして、「軍隊の抜け穴は隅から隅まで覚えた」という言葉はなんとなく意味深です。ヌけ穴を隅から隅まで覚えたんですから。

 室田日出夫もヤると宣言した志村をカラスは強く止めようとせず、滝川少佐を頼れという助言まで授け、志村は礼を言って殴り込みに臨みます。

 恐らく、あの後下士官どもは全員順番にカラスに掘られます。何しろ、腹下しで済むのですから。

滝川少佐×志村

 さて、見事本懐を遂げた志村は、海軍刑務所の札付き揃いの房に放り込まれます。

 入って早々通過儀礼のリンチを食らった志村は、案の定反撃して囚人を叩きのめし、牢名主のヤマリンとのタイマンになります。個人的にはかなりのドリームマッチです。

 とは言えヤマリンはこういう時には強そうに見えて弱いのが芸なので半殺しの目に遭い、滝川少佐が仲裁してレフリーストップになり、志村が新牢名主に就任します。

 志村は一番の上座を滝沢少佐に勧めますが、少佐はこれを固辞します。既に志村は少佐に堕ちています。高学歴にモテる漢、勝新であります。

 志村を煙たがる所長の陰謀で看守と喧嘩になっても、志村は「滝沢さんが言うなら」で止まってしまいます。大宮と上等兵殿にも程があります。愛と青春のホモ達です。

 志村は変態拷問の数々を受けます。桶に入れられて転がされる「回転焼き」に、電話ボックスの立ちっぱなし独房、そして最後は例の鉄球付き鎖を足に付けての行進です。石井輝夫の趣味が丸出しです。これはもはやデブ専SMです。

 そこへ少佐が颯爽と割って入り、海軍刑法を盾に海軍大臣にチクると脅しをかけて解放します。これには志村だけではなく、同房の連中もメス顔です。

 しかし代償は重く、少佐は部屋替えで志村と引き離されます。少佐のおかげで命拾いしたと心から感謝する志村。

 そして、話の流れで少佐がカラスを「心のきれいな男だった」と回想するのが物凄くBLです。絶対ヤったに違いありません。少佐はああいうのがタイプなのです。

 志村が暴動を起こしても、まず頼るのは少佐です。またも自分一人で殴りこもうとする志村を制止し、俺は終身刑だからと一緒に先頭で出て行くのは上官の特権の濫用です。

 少佐のジゴロぶりは留まるところを知らず、仲裁に来た殿下の兵学校の上級生である事まで判明します。

 これはもう何を言わんやです。宮様も志村も、少佐の前には等しくハクいスケに過ぎなかったわけです。

 殿下は皆を上海に出動させたいと言ったので、恐らく少佐が隊長なのでしょう。こうなればもう、志村が少佐の従兵になるのは当然の選択です。そして、従兵とは小姓であると相場が決まっているのです。

志村×ムショ仲間

 個人的意見を言えば、一番おいしい部分はここです。東映大部屋軍団は、単純に勝新のカリスマに心のケツを掘られてしまったフシがあります。

 特に、大部屋のボスであったと伝わるヤマリンが率先して志村の補佐に回るのは、私の仮説を裏付けています。

 確かに彼らは慣習に従って志村をリンチしましたが、上官を半殺しにしたという罪状もあるので、志村をある程度評価していました。ただ、想像以上に志村が強かったのです。

 滝沢少佐の裏技で志村が解放されて戻ってきた時には「兄弟」呼びになっているのが、この房がホモソーシャルの楽園である事を物語っています。完全にサムソンの世界観です。

 しかし、それを面白く思わないのが悪徳所長の須賀不二男です。あろうことか、房の囚人である桑原(潮健児)を妻子との面会を餌に買収し、志村の飯に毒を盛るという悪魔的手段に出ます。

 しかし、悪い薬仲間の勝新と地獄大使が毒薬対決とは、東映はやはり預言者を雇っているとしか思えません。

 まずは房の全員に下剤を盛って下痢祭りにして、薬として志村に毒を与えるという二段構えです。これが本当の臭い仲。まさかのスカトロ2部編成です。

 しかし、桑原だけ無傷なうえに志村が無茶苦茶苦しんだのでバレてしまい、ヤマリンが「こいつにもゲロ吐かせてやれ」とリンチを加えます。ヤマリンが勝新に正妻面してるんです。こりゃたまりません。

 水飲んでゲロ吐くという原始的な方法で蘇生した志村は、マザコンだけに桑原の母親に免じて許し、おおもとに落とし前を付ける方向で話が進んでいきます。

 志村は死んだふりをして看守長の名和宏を房に引きずり込んで鍵を奪い、お待ちかねの暴動の始まりです。

 「兵隊やくざ」に「網走番外地」を接ぎ木して、「暴動島根刑務所」までまぶすとは、欲張りな映画です。

 もうここからは東映大部屋魂の炸裂で、暴動は完全勝利。看守たちを首だけ出して生き埋めにして一斉射撃をして遊び、絶好調です。常にヤマリンが一番良い位置に居るのは、やはりあからさまな正妻アピールです。

 そして全てが終わり、暴動を起こした面々は海軍陸戦隊の弾よけとして上海事変へと意気揚々と出陣するシーンで映画が終わりますが、こいつらが容易に死ぬとは思えません。

 恐らく大半は生き延びてしまい、横浜で志村組を作ってホモソーシャルを突き詰めていくはずです。勿論、ホモソーシャルを突き詰めればホモセクシャルになります。男が男に惚れる世界です。

志村×殿下

 毒を食らわば皿まで。禁断のインペリアルBLでお送りします。もしこのnoteの更新がこれで止まったら、私は街宣車乗り回してる人たちに暗殺されたと思ってください。

 そもそものきっかけが、殿下が陛下から賜った懐中時計を便所に落したので、志村が糞壺の中に潜って探し出し、殿下の知遇を得る事から始まりました。

 とんでもないスカトロプレイです。何しろそこにあるのは女人禁制、純度100%の野郎糞ですから。天下の勝新はアブノーマルプレイだってお手の物というわけです。

 何かお礼をやろうと言う殿下ですが、無欲な志村は何も要らないと言い切り、それで却って気に入られてしまいます。

 殿下は女遊びという物を知らないので、恐らく童貞なのでしょう。何しろ、学習院から海軍兵学校とくれば、ホモにかけては超エリートコースです。え?陸軍士官学校ならノンケなのか?海軍さんはジョークがお得意でらっしゃる。

 つまり、殿下にとってセックスとは男同士でやるものであり、そこに女が介在するという発想自体が存在しないのです。

 だとすれば、殿下が志村を自宅デートに誘ったのは、明らかに下心があっての事です。学習院OBにモテモテの漢勝新であります。

 作法が分からずおろおろする志村、それを面白がる殿下。これは家に奇怪な美少女が転がり込むとかのアニメ的萌えの世界観を感じさせます。

 更には殿下は人払いをして庭で勝新といちゃいちゃ散歩し、女郎遊びやヤクザスラングについて質問してウキウキです。

 この調子だと、カメラの回っていない所では「アンコ」と「カッパ」についても志村が講義するのは明白です。「おお、それは知っているぞ」と殿下が言うのも間違いありません。きっと有馬伯の御子息から教わったんです。

 そして殿下は志村と兄弟分になりたいと申し出て、志村はヤクザ史上初の宮様の兄弟分になってしまいます。恐ろしいホモジゴロぶりです。道鏡を超えました。

 とすれば、あの後はやはりヤったのでしょう。何しろ宮様ですから、止める事が出来るのは天ちゃんだけです。それどころか、相撲大好きの天ちゃんが志村という極上の熊系野郎に興味を持つというコースさえワンチャンあります。

 刑務所で暴動を起こした志村をわざわざ止めに来たのも、そういう惚れた情があったからでしょう。きっと侍従は止めたはずですから。

 そして、弾除けにされると言いつつも「俺の分も頑張ってくれ」と志村を激励する殿下の言葉には、偽りなき感情が覗きます。

 皇族男子は軍務に就くのが義務ではありますが、余程戦況がひっ迫しない限りは前線に立つ機会が無いのも確かです。だからこそ、殿下は兄弟分に期待をかけているのです。

 
 事によっては、殿下が手を回して志村たちを後方に下げてしまう事さえ考えられます。そうなればもう復員後の志村は殿下の兄弟分として右翼結社か何か結成して大暴れになるに決まっています。

 そう、スーパー右翼の誕生です。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

木曜は脱獄
谷口がムショで大暴れ

『脱獄広島殺人囚』
『暴動島根刑務所』
『強盗放火殺人囚』

『兵隊やくざ』(1965 大映)
『続・兵隊やくざ』(1965 大映)

『女囚701号/さそり』(1972 東映)(1980 米)(★★★★)(女の子バージョン)
『人斬り』(1969 大映)(★★★)(毒では殺せない勝新)
『大脱走』(1963 米)(2013 米)(★★)(アメリカ人の考えた脱獄)

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