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第83回 続・兵隊やくざ(1965 大映)

 さて、本日12月8日は太平洋戦争が始まった日であります。ということで、BL的映画レビューも奇襲を敢行します。事前予告なしでの投下です。

 ここは当然戦争映画でありましょう。というわけで、初期にレビューしたきりで温存しておいた『兵隊やくざ』の続編『続・兵隊やくざ』でお送りします。

 前作で駆け落ちに成功した勝新太郎演じる大宮と、田村高廣演じる有田上等兵殿ラブラブ夫夫が結局軍隊にとっ捕まり、腐った軍隊で暴れるだけ暴れてまた逃げる。いつものブロマンスを数歩踏み越えた何かです。

監督はシリーズ9作中6本を担当した田中徳三に交代。兵隊に行った様子が無く、色恋に強みを見せた増村保造と違って1年捕虜暮らしをしただけあって、女の扱いが雑になった代わりに軍隊の嫌なリアルが強調されていています。

何より、大宮と有田のラブラブ度はターボがかかり、もはや軍隊に収まる事を放棄してしまっています。しかし、これでもまだ序の口なのです。9作もあるうちの2作目に過ぎません。

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真面目に解説

盗んだ汽車で走り出す

 前作のラストで見事機関車ジャックをして駆け落ちした大宮一等兵(勝新太郎)と有田上等兵(田村高廣)ですが、その機関車が敵の仕掛けた爆弾でひっくり返って病院送りになってストーリーが始まります。

 これで帰れると大喜びする有田ですが、大宮ときたら看護婦の恭子(小山明子)にメロメロになって戻るのをちょっと渋ってしまう有様です。

確かに先日日本アカデミー賞をもらったばかりの小山明子の全盛期は凄く美しいですが、結局のところ大宮は上等兵殿の物であり、女は突撃一番に過ぎないのです。


超・軍隊リアル

 ところが、事務手続きの問題から二人の除隊は反故にされ、最前線に飛ばされてしまいます。この辺りから兵隊経験の豊富な田中徳三が生で見て来たと思しき軍隊リアルがえげつなく描かれ始めます。

 第一に、最前線なので部隊の連中が威張っています。これがまさにリアルで、実戦経験の有無は軍隊における実質的上下関係に大きく作用するのです。これは国や時代を問いません。

 第二に、軍紀が乱れています。これも考えてみれば当然の話で、明日死ぬかもしれないと思えば行儀よく振舞う気などなくなります。

ともすれば、大宮が軍隊の理不尽に怒って暴れ、上等兵殿が止めるという型田中徳三の実体験に担保されているのです。つまり、この交代は正解だったのです。

お守り

 勝新の天才性を語る上で決して外せない、象徴的なシーンがこの映画にはあります。

 大宮は恭子に最前線へ行くのでお守りが欲しいとねだります。毛が欲しいというのです。

 髪の毛と思った恭子ですが、そこは大宮です。下の毛が欲しいのです。そして恭子は結局くれます。

 これは当初は下の毛ではなく石鹸だったそうですが、勝新の発案によって変更になったものです。そりゃあどっちが欲しいかと言われれば後者に決まっています。

 これがガチホモでも後者を選ぶ可能性があります。というのも、ご婦人の下の毛は本当に弾避けのお守りとして珍重されていたのです。もっとも、男の毛を貰った軍人さんも腐る程いたと思いますが。

 処女の物が良い、あるいは手近に嫁さんや妹から、寅年の女性の物(虎は千里行って千里帰るので縁起が良い)が効くなど、バリエーションは色々ですが、これは当時を知る人からまだ言質が取れます。

 とにかく、人間は死に直面すると神頼みをするものであり、勝新は神がかった役者だったという事です。

裸ゲイ者

 大宮は元浪曲師であり、天下の勝新なので、毎回見事な浪曲を披露します。例の浪曲師の友人は、勝新の浪曲を聞くたび面目を失うような気がするとぼやく程です。

 風呂屋で浪曲を唸る爺さんというのはもはや絶滅しましたが、大宮も風呂で見事な森の石松を披露し、その貫禄に二人の下士官(芦屋雁之助&小雁!)に上官と勘違いされ、その結果制裁を受ける羽目になります。

 大宮をビンタしても手の方を痛めるというので連れてこられたのが元十両の兵隊(阿部脩)で、これには大宮もさすがに苦戦します。

この阿部脩というのは本物の元力士で、プロレスラーであり、当時は国際プロレスのレフリーをしていました。見るからに強そうです。

 彼に限らず、国際プロレスのレフリーは何故か選手より強そうな人ばかりです。

 2メートル近いマンモス鈴木、ボクシング日本王者で野球とボウリングのプロもやった前溝隆男、テレビで腕相撲大会となると必ず審判として出て来る遠藤光男

 レスラーの方もご存知剛竜馬や、ストロング金剛姐さんらBL的精鋭が揃っていますが、これはいいでしょう。別の機会にとっておきます。

相撲と戦争

 ただ、相撲取りが軍隊に居るという点についてミリタリーの観点から語りたいので語ります。

 野球用語を日本語に言い換えるというのは戦時中のスポーツシーンを象徴する定番エピソードです。多くの敵性スポーツの選手が靖国へ行きました。

 反面、そんな事をしなくてもいい相撲は大変に優遇されていました。当時の相撲協会は陸軍の将軍が会長を務めるのが慣例だった程です。

そもそも力士は徴兵したところで大きすぎて軍服のサイズが無く、また兵隊に取るより慰問巡業をさせた方が有益というのであまり兵隊にとられませんでした。

 それでも戦況がひっ迫してくると十両までは取るということになったので、この設定は決して間違いとは言えません。田中徳三の名人芸です。

 ちなみに、軍隊に優遇されたという点では浪曲も同様でした。今では酷く衰退していますが、当時は芸能の王者と言われていたのです。

 例の浪曲師の友人によると、浪曲師は徴兵されてもあちこち口演に回るばかりであまり戦闘には出されないのが普通であったそうです。

 また、軍のご機嫌を取る為に作った英雄譚的ネタが今でも若手に受け継がれています。軍神広瀬中佐と杉野兵曹長の美談がその筆頭で、この二人はデキていたとされていますが、これは安売りできない大ネタなのでやっぱりとっておきます。

恐怖の後ろ弾

 大宮はこの一件で身の危険が生じ、上等兵殿の計らい八木曹長(上野山功一)と岩波軍曹(睦五郎)の当番兵にしてもらって身を守ります。

当番兵というのはとどのつまり将校下士官の身の回りの世話をする小姓で、速い話が『ダウントンアビー』のベイツさんです。常に下士官が居れば闇討ちはされないだろうというわけです。

 しかし、八木曹長は芸者の染子(二代目水谷八重子)と良い仲で、横恋慕している岩波軍曹に大宮も噛んで四角関係に陥り、嫉妬に狂った岩波軍曹は八木曹長を戦闘のどさくさに拳銃で始末します。

 これぞ軍隊リアルの真骨頂です。日本軍名物「後ろ弾」という奴ですが、これは多くの国にある話で、ベトナム戦争でもアホな指揮官を交代させる手っ取り早い手段として流行り、社会問題化しました。

 大宮もこうなる事を恐れて上等兵殿は当番兵にねじ込んだのです。この辺りは『独立愚連隊』でも描かれた話であり、軍隊を知る人間にとってはありふれた話だったわけです。

 こういう軍隊の理不尽や残酷さを生徒に吹き込むのが我が国の教師の仕事の一部という側面がありますが、こういう事態を恐れて私的制裁を戒めたのが時の総理大臣の東条英機であったことは、学校の先生は絶対に教えてくれない事実です。

拳銃に気を付けろ

 しかし、岩波軍曹は拳銃を使った為にこの陰謀を二人に暴かれて破滅します。これも軍隊リアルです。

というのも、日本軍において将校下士官の拳銃は基本的に自前であり、また当時は普通に銃砲店で拳銃が買えたので、種類は好みや予算に応じてまちまちでした。

 弾も当然まちまちなので、岩波軍曹は拳銃を盗まれて弾を照合され、犯行が露見してしまったわけです。男のジェラシーは身を滅ぼすという事ですね。

 しかし、『嵐を呼ぶ男』で裕ちゃんのドラムを吹き替え、あの暴力ジャズメンの師匠でもあり、男Metooをしまくって嫌われて、晩年はオカマバーでオネエをしていたという白木英雄と結婚し、母親である初代が三島先生も狂わせた中村歌右衛門から男を寝取った水谷八重子とて、やっぱり突撃一番です。

 勿論、これらの美味しいネタについては後の機会にたっぷり尺を取ってやります。

戦とはかく残虐なり

 田中徳三という人は極めて安定した秀才型の監督であり、軍隊の本当に汚い部分もちゃんと描いています。

その最たる物が二人の上官である黒住兵長(五味龍太郎)の非人道的行為です。

村に敵の軍資金が隠されているというので行ってみたものの、残っていたのは病気の爺さんと孫娘だけ。

そこで黒住は爺さんを兵隊に刺し殺すよう命令し、孫娘を美味しく頂いてしまおうとします。これぞ学校の先生の求める日本軍であり、また現実です。

これに上等兵殿が怒り、ヒューマニズムに訴えて阻止した上で大宮が二人を逃がします。このせいで軍法会議だなんだと話がややこしくなります。

 更に問題なのが大宮が二人を逃がしたものの、警備に当たっていた恭子の弟(酒井修三)が上等兵共々重営倉にぶち込まれてしまった事です。

 恭子が面会に行きますが、中隊長の多久島(須賀不二男)が弟は軍法会議かも知れないと脅しをかけて恭子を強姦しようとします。これぞ学校の先生の求める日本軍であり、また現実です。

 結局これも大宮が阻止し、上等兵殿と今度はトラックで駆け落ちします。もはや二人は天皇陛下にも阻止できないのです。

BL的に解説

煙草は性器である

 何度か書いた気もしますし、これは腐の方なら賛同して頂けると思います。如何に世間が煙草を拒絶しようと、精神的ホモの境地において煙草は欠かせざる小道具なのです。

 大宮と上等兵殿は事あるごとに煙草でセックスします。相手の煙草に火をつけてやるのも、連れ煙草も、シガーキスもいずれ劣らぬ実質セックスですが、田中徳三になってからというものこれが進化します。

 つまり回し喫みです。実質セックスである以前に間接キスであり、精神的ホモの領域を踏み越えてしまうのです。ホモ臭さが倍加したように見えるのはこれも無関係とは言えません。

 ここに私は田中徳三という監督ではなく、人間としての側面を見ます。実際に兵隊に行き、捕虜生活を送った氏にとって、これは紛れもないリアルなのです。

 捕虜の身の上では煙草は貴重であり、いきおい一本手に入れたら皆で回す事になります。大宮と上等兵殿の絆云々以前に、貴重な煙草の扱いとしてこれが正しいのです。

 とすれば、煙草セックスは煙草が貴重である程ホモと言い換えることが出来ます。

 その最たる物が我が国独特の菊の御紋が入った恩賜の煙草です。文化という物を解さない愚か者がごねて廃止になりましたが、天皇陛下から下賜される途方もない貴重品です。

 多くの将兵は吸わずに大事にとっておき、最後の最後に皆で吸って死地に赴いたとされます。あるいは、死ぬ前に味わおうと貰うなりすぐ吸ってしまったそうです。

 その死地から生還した人の多くは、後生大事にとっておいたせいで湿気って不味かったと証言します。しかし、それは味覚だけの問題ではないのでしょう。

 自分を残して靖国へ行ってしまった戦友の思い出が、一人生き残ってしまった自分の業が苦いのです。しかし、これは戦争を知らない私がみだりに踏み込んではいけない領域です。

 とにかく、私は例え煙草が違法になろうとも、煙草は性器であるという美学に基づいてこれを推し進め、煙草を吸い続ける覚悟であります。

大宮×有田(同軸リバ)

 汽車がひっくり返ったおかげで二人は酷く負傷しまいます。以外にも大宮の方が傷が重く、先に意識を回復した上等兵殿から腰椎をやられているから女の方は無理だろうと宣告されます。

 妙に上等兵殿が嬉しそうです。ここに私は上等兵殿の愛を見ます。上等兵殿としては愛する大宮が女を求めるのを止めることが出来ません。ところが、腰椎をやられて不能になれば大チャンスです。

 こうなれば上等兵殿の独り占めです。大宮が他の男に身体を許す事など例外はあっても(本当に1回あった)普通は有り得ません。

 しかし、大宮は恭子に看護されて「捧げ筒(ママ)」します。大宮の股間の三八式歩兵銃殿は無敵なのです。

 それを聞いてそれはそれでいいかと言わんばかりの表情の上等兵殿。良き夫夫です。

 前作では明らかに上等兵殿の優位受けでしたが、この二人が相互手コキしてもいいというのは勝新が自ら認めた事実なので、二人はここに至って掘ったり掘られたりの同軸リバにハッテンしたのです。

 読み書きの下手な大宮の為に恭子への手紙を代筆してやるシーンも相当です。

 貴重な酒を仕入れて頼み込む大宮にほだされ、最初は嫌がっていた上等兵殿も結局目一杯艶っぽく書いてやると心強く宣言します。

 何しろ上等兵殿は後の直木賞作家です。この上となると、誰あろう勝新と本郷功次郎が褌で暴れる『鯨神』で芥川賞を取り、後に官能小説の大家となった宇能鴻一郎先生しか居ません。三島先生は女へのラブレターなど書かないのです。

 これはもうそういうプレイです。恭子はあくまで突撃一番でしかありません。日本軍は戦わずして兵隊を弱らせる性病を殊更に恐れたので、看護婦が突撃一番なのは理に適っています。

 とすれば、大宮を守るために八木曹長に頼み込んで大宮を小姓に差し出すというの今トレンドのNTRプレイです。2作目にして二人の夫夫生活はアブノーマルの境地に達しています。

 当番兵になった途端ナレーターが上等兵殿から大宮にチェンジするのもそう考えると何か意味があるように思えてなりません。

 この寝取らせ相手の八木曹長に「軍隊は逃げようと思えば簡単」とこぼしたのも意味深です。なら逃げろと八木曹長は言いますが、大宮は都合があるからと返します。

 都合とは上等兵殿を置いて他なりません。上等兵殿が居なければ大宮はとっくに馬賊になって荒木軍曹といちゃいちゃしています。しかし、自由より上等兵殿なのです。

 岩波軍曹の謀殺の捜査に至ってはもはや探偵ごっこです。シャーロックとジョンです。この場合上等兵殿が勿論シャーロックであり、誘い受けです。

 ただし、どの作品でもゲイの人がやるマイクロフトや、ヤンホモモリアーティー、ましてオメコ芸者のアイリーンなど立ち入る余地は有りません。これについて江戸川乱歩は賛同してくれると私は確信しています。

 大体二人で知能犯の陰謀を暴くなど、ホモフォビアでもホモに走る強烈な実質セックスです。それをこの二人がやるなど、大宮が身ごもってもおかしくないレベルです。

 まるで勝新の弟子の上様に刃向かう連中のように、大宮をリンチして強引にもみ消そうとする岩波でしたが、上等兵殿が止めない大宮などガメラでも勝てません。

 だというのに岩波は軍刀を持ち出しみっともない抵抗を試みますが、大宮は盗んだ拳銃をぶっ放して「手前なんぞ殺すのわけねえんだぞ」と鬼の迫力で言い放ちます。

 こりゃあ惚れます。私はケツを差し出してもいいと思いました。上様はそうしたはずです。

 そしてその隙にトラックを盗み出し、恭子も連れて逃げていくのです。まるでマカロニウエスタンです。恭子を途中で捨てて行ってしまうのも含めて。

 もはやトラック野郎となった二人には突撃一番など必要ないのです。すぐ外してしまう褌さえあればいいのです。

大宮×緒形一等兵

 さて、NTRもした事ですし、多少の浮気は上等兵殿も許すでしょう。この組み合わせは外せません。

二人の行った中隊には恭子の弟の緒形一等兵が居ました。姉に似て美青年ですが、この男はちょっとおっちょこちょいです。

 その為銃口蓋(小銃のキャップ)を無くして途方に暮れてしまいます。これも嫌な軍隊リアルです。甚だしいと紛失しないために紙屑で自作して代用し、本物は隠しておく程よくなくなる代物でした。

 そして、戦闘では突撃一番が代用品として重宝されました。撃とうと思えばそのまま撃てるので便利なのです。

 これを追及されて死ぬほど殴られた挙句便所で首を吊るのが学校の先生の求める日本軍ですが、そこは大宮が付いているので都合よく行きません。

 大宮は恭子に惚れているので緒形を放っておけません。そこでどこかで調達(盗難)した自分の予備をプレゼントします。『拝啓天皇陛下様』で描かれた員数合わせという奴です。

 これも初年兵と教育を担当する古兵の絆を物語るエピソードとしてはよくある物で、自衛隊にも引き継がれた我が国の国防と不可分の文化ですが、どこまで行ってもリアルです。

 しかし、大宮は性欲の化け物である事が事態を都合の良いものにします。そんな男が愛する女の弟に恩を着せた。BL的には行き着く先は一つです。

 ふとした瞬間緒形に恭子の面影を見てしまった大宮。押し倒された緒形も大宮という極上の雄の前に逆らえようはずがありません。

 大宮は恭子の毛を眺めながら、「毛も姉さんそっくりだな」とでも呟けば、緒形は倒錯した興奮に叫び、日本軍のお家芸と称された夜戦は大盛り上がりとなる事は必定です。

 そこへ後ろから上等兵殿が大宮に突撃して夜のちんちん電車ごっこも一興でしょう。二人の愛の満州鉄道は無限にどこまでも続くのです。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

『兵隊やくざ』(1965 大映)(★★★★★)(前作)
『独立愚連隊』(1959 東宝)(★★★★)(東宝風)
『拝啓天皇陛下様』(1963 松竹)(★★★★)(松竹風)
『さすらいの用心棒/暁のガンマン』(1968 伊)(★★★)(マカロニ風)

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 銃口蓋を分けてくれる仲間が欲しいのです


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