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第35回 さすらいの用心棒/暁のガンマン(1968 伊)

 60年代から70年代がイタリア映画の黄金時代でした。マカロニウエスタンに限らず、安っぽくて下品な、しかし予想も期待も裏切らない安定した作品群が世界中で飛ぶように売れたのです。

 モリコーネはそういう時代の人でした。当時のイタリア映画はかなりの割合でモリコーネが音楽を手掛けています。年何本作っていたのかと驚くほどのペースです。

 モリコーネの音楽を最も活かした監督は言うまでもなくレオーネですが、今回紹介する『暁のガンマン/さすらいの用心棒』はレオーネ作品以外では特にモリコーネを有効活用している一本です。

 マカロニウエスタンを代表するスターであるジュリアーノ・ジェンマ演じる詐欺師で凄腕のガンマンのティムと、『ブリキの太鼓』で知られたマリオ・アドルフ演じる力持ちでお人好しのハリーが詐欺師と被害者の関係から珍道中を経て相棒になっていく話です。

 イケメンで運動神経抜群のトリックスタージェンマ、強面なのに悪役でもどこかお人好しな所が透けてしまうアドルフ、モリコーネの音楽にのせて両者の魅力が十二分に引き出された一本です。そしてとんでもないBL映画です。

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真面目に解説

マカロニ式邦題
 本作は日本では劇場未公開ですが、邦題が二つあります。混乱を避ける為に今ではこのように併記される事が多くなっています。

 テレビで放送される時とビデオでリリースされた時で配給会社が違うため、別々の邦題を付けたのです。これはマカロニウエスタンに限らず当時の映画業界ではよくある事でした。

 そして、マカロニウエスタンで特筆すべきは邦題のいい加減さです。「夕陽」「暁」「荒野」「復讐」など、ウエスタンっぽい枕詞に「ガンマン」「用心棒」「賞金稼ぎ」など、ウエスタンっぽい肩書が付く。このパターンばかりです。

 明らかに『夕陽のガンマン』『荒野の用心棒』といった最初に当たった作品群との混同を狙っています。よほどの西部劇マニアでないと間違える事は必定です。私も自信ありません。

 そして、殆どの作品で邦題と内容と一致しません。ジェンマは確かにさすらいのガンマンですが、用心棒はしないし暁の場面もありません。淀川先生が中身がないからマカロニと言うのも無理からぬ話です。

 しかし大丈夫です。『夕陽のガンマン』でも言いましたが、中身は無いけど穴があります。腐女子諸氏はBS等で放送しているの見つけたら、どれがどれだか確認する必要はないので観て下さい。損はさせません。

 ちなみに原題は『A Sky Full of Stars for a Roof』、訳すれば『屋根一杯の星空』といったところでしょうか?ロマンチックなタイトルですが、星空も出てきません。当時のイタリア映画がそもそもそういうノリで作られていたのです。


ジュリアーノ・ジェンマという役者
 西部劇がテレビで盛んに放送されていた時代を知る人にとって、ジュリアーノ・ジェンマと言えば西部劇は嫌いでも顔と名前は知っている程のスターでした。

 しかし、マカロニウエスタン以外の代表作が少ないので、若い世代には忘れられつつあります。まことに勿体ない話です。

 イーストウッド以下男性ホルモン爆発の男臭い役者が多いマカロニウエスタンにあって、ジェンマは際立ったイケメンです。女性が好むタイプの顔です。

 そしてその割に正義の味方はあまりやらないのがこの人の特徴です。人を食ったような二枚目半のキャラクターがこの人の真骨頂です。何しろ今作では詐欺師ですから。

 しかし、何と言ってもジェンマの強みはアクションです。兵役と消防士を経験して役者の世界に入っただけに抜群の運動神経の持ち主で、イケメンにも関わらず身体を張ります。今作でもかなり頑張っています。

 吹替は野沢那智と決まっていました。これで察しが付く人もあろうかと思います。そういう役者です。


西部の人達
 西部=無法地帯というのが映画のお約束ですが、これはちゃんと根拠のある話です。考えて見て下さい。あんなに広いアメリカで、ぽつぽつとある町に保安官が数人ずつ居るだけです。これで治安を維持できるわけがないのです。

 そして西部には手つかずの大自然があり、鉱夫や木こり、猟師といった荒っぽい人種が集います。

 そして、そういう連中を相手に商売をする人間が集まります。酒屋、娼婦、ギャンブラーといった怪しい面々です。そりゃあ無法地帯にもなります。

 ティムはそういう連中を相手にしのぐ詐欺師であり、ハリーは砂金採りです。そんな二人がたまたま駅馬車強盗に遭遇し、殺された乗客を二人で葬ってやるところから物語が始まるのです。


ジェンマ大暴れ
 そして二人は近くの町で再会します。町の酒場は鉱夫が来るというので大騒ぎです。ピアノ弾きがラグタイムを奏で、娼婦が大急ぎで身支度をして酒を準備し、鉱夫がなだれ込んできて酒池肉林です。

 昔筑豊の炭鉱で働いていたという人に話を聞いたことがありますが、まさにこんな感じだったそうです。金は有るが明日の保証はない、穴を掘る男達は穴に群がるのです。

 ハリーもそんな中でポーカーに興じていますが、イカサマでカモられています。そして一緒に掘った仲のティムがそれを見咎めて大喧嘩になります。

 酒場のセットをぶっ壊し、香港映画並みにイスやテーブルを振り回して大暴れです。ジェンマの運動神経がこういうシーンでいかんなく発揮されるのです。

 こんな状態になってもピアノ弾きが演奏を止めないのが笑いどころです。これも西部劇のお約束の一つです。


西部の経済
 ティムは撃とうとすると手が震えるというので銃を持っていないため、奮闘空しく二人は酒場から叩き出されてしまいます。

 西部で銃を持っていないというのは誰かれ構わず撃つよりもっと危険です。この慣習が今でもアメリカに暗い影を落としているのはご存知の通りです。

 一緒に外で酒を酌み交わし、ハリーの酒を使った火炎放射の芸なども飛び出して二人はなんか仲良くなります。

 ハリーは自ら採った大量の砂金を隠し持っています。それでは物騒だと銀行をティムが紹介してくれますが、ハリーは乗り気ではありません。

 実際西部では証券や紙幣はあまり信用されなかったのです。金その物を持ち歩くというハリーのやり方は物騒ですが一定の根拠があるのです。


お代は観てのお帰り
 ティムはハリーを説得するため、たまたま町で興行している見世物小屋の人魚姫を観に連れていきます。

 綺麗な姉ちゃんが作り物のヒレを付けてプールに入っています。ハリーは本物と信じています。悪人面なのにピュアボーイなのです。

 そしてティムは人魚に水が必要なように砂金を銀行に預けるのも必要という分かったような分からないような理屈でハリーを説得してしまうのです。

 こんな見世物が昔は商売として成立したのです。もっとも、実態はこんなクリーンな物ではありません。

 例えば、私の母が子供の頃はまだ田舎の祭りでは見世物が出ました。一番人気だったのはタコ女。タコの脚は隠れていて見えません。おっぱい丸出しでグネグネ踊っていたのです。

 ようは見世物とはそういう物なのです。残念ながら今作のお姉ちゃんはおっぱいを隠していますが、看板はおっぱい丸出しです。然るべき金額を払えばヒレなど脱ぎ捨ててお相手してくれたのは言うまでもないでしょう。

 しかし、本物の奇形を持った人達も見世物の世界には居ました。まともな職業に就くのが困難なそういう人達にとって見世物小屋は貴重な働き口であり、ビッグマネーが稼げる場所でもあったのです。

 そういう本物のスターを集めて作られたのがかのカルト映画『フリークス』です。

詐欺師ジェンマ
 ティムはさびれた街にハリーを案内し、胡散臭い銀行に砂金を預けさせます。金額は13オンス(400g少し)で675ドル。当時は本当に一人でこんなに金が採れたのです。

 ところがハリーは預かり証を落としてしまい、慌てて街に戻るともぬけの殻です。まんまと騙されたわけです。

 人魚姫の所に行ったと睨んでようやくハリーはティムを発見します。ティムからだまし取った金で人魚姫のセットが豪華になっています。木戸銭が20セントなので675ドルは途方もない大金です。

 ジェンマの運動神経が炸裂の喧嘩になり、ハリーはせっかく投資したセットを破壊し尽くします。

 ハリーは父から受け継いだ牧場の再興資金の為に危険な鉱山労働に身を投じて稼いでいたのです。

 ティムも泣いちゃったハリーが流石にかわいそうになり、再興したらウサギを飼おうと執拗に提案しつつ弁償の為に二人で旅に出ます。ここから映画はバディ物の側面が濃厚になっていきます。

 二人は適当な街で1文字20セントでインチキの臨時電報局を開設します。当時これは本当によくあった詐欺だそうです。文字数を増やす様に執拗に誘導する当たり、ティムはかなり腕利きの詐欺師です。

 こうして二人は牧場と人魚姫一座の再興の資金を稼いでいくのです。


マカロニと悪役俳優
 ハリーと同時進行でいかにもワルそうな連中がティムを探しに来ます。ハリーに銃を突き付けてティムの居場所を尋ねますが、ハリーだって知りません。ティムの本名はビリーだそうです。

 リーダーのロジャーを演じるのはフェデリコ・ボイド。多分ジェンマより数段モテるタイプのいい男で、悪役としてマカロニウエスタンではお馴染みの役者です。

 マカロニウエスタンはむしろこういう悪役俳優が肝でした。見るからに悪そうで凄味がないといけません。

 当然現場では重視され、人気者は取り合いになる程でした。日本でもそれは同じです。悪役サイドに成田三樹夫が居るだけで何か起こりそうな気がするでしょう?

 インチキ電報局で荒稼ぎしつつ町で姉ちゃんをナンパしてご機嫌のティムでしたが、ロジャーに見つかって慌てて逃げ出します。


スケコマシジェンマ
 ジェンマはたまたま近くを通った葬式の列に紛れてロジャーをまきます。美人な未亡人のドロシー(マグダ・コノプカ)に興味津々です。

 コノプカはポーランドの女優です。当時のイタリア映画界はヨーロッパ中から役者が集まっていたのです。

 スペイン人やドイツ人が多数派でしたが、探せばどの国の役者も居ました。当然言語の問題もあるわけですが、そこはイタリアです。適当にやって後から吹き替えちゃえばいいという大雑把な方法で解決です。

 かくしてイタリア映画は世界にマーケットを広げたのです。なにしろイーストウッドもイタリア語はしゃべれないのですから。吹替にかけては世界一の我が国でイタリア映画がウケたのは当然の帰結なのです。

 命の危機があるというのにジェンマはどうにかドロシーをモノにしようと画策し、ハリーにドロシーの亭主は銀行強盗のジャックという男で、大量の隠し金を持っているという大嘘をでっち上げ、ドロシーにはジャックの弟分と嘘をついて取り入ります。

 最愛の夫を失った直後にジェンマに迫られれば、偽装結婚のレズビアンでもセクシャリティを曲げかねません。胡散臭いムードのモリコーネサウンドに乗せ、酔ったドロシーは喪服を脱いでおっぱいを大胆に露出した姿になってエロい表情になっちゃいます。

 ハリーがいちいち確認に来ますが、金の隠し場所がわかったから穴掘ってろと適当にあしらい、いよいよ大詰めです。完全にメスの表情のドロシーを押し倒すジェンマ。

 物凄い勢いで穴を掘るハリーをしり目にドロシーは「挿入して」と完全に穴を掘らせにかかります。

 あともう少しとティムも観客も臨戦態勢になった所で通行人の話から嘘を悟ったハリーが窓をぶち破ってやって来て、再び家を破壊しながら喧嘩です。

 レオーネは硬派なのかホミンテルンなのか手を出しませんが、本来マカロニウエスタンにお色気シーンが必要不可欠です。こういうシーンで『ニューシネマパラダイス』では子供たちがおっぱじめるし、ナポリ野郎は儲かるという仕組みです。神父さんはアルフレードにカットを命じます。

 また、ジェンマがスターになれたのはこういうお色気シーンに都合の良いキャラクターだったというのも無関係ではありません。イーストウッドにこれをやらせるのは無理があります。

 そうなるとお色気は悪役に頼むしかないわけですが、そうなると好き嫌いが分かれてしまいます。ジェンマは得難い人物だったのです。


タイマン張ったらマブダチ理論
 喧嘩騒ぎを起こしたので二人は留置所にぶち込まれてしまいます。保安官曰く、保釈金を払うか「共に白髪の生えるまで」出られないそうです。

 これは字幕担当者のファインプレーです。もはやティムとハリーは事実上の夫婦です。昔の映画の吹替や字幕はこういう所に面白みがありました。

 ハリーは幸い金を持っているので自分だけ保釈金を払って出ようとしますが、寂しそうにするティムにほだされて結局ティムの分も払って一緒に出ます。かくして二人の腐れ縁はどんどん進んでいくのです。

 人魚姫一座はあの失敗以来酷い不入りです。そこでティムは火炎放射が特技のハリーに被り物をさせてサラマンダーという呼び込みで出演させて大当たりを取ります。

 その間に人魚に迫るティム。ジェンマ主演作はお色気多めでお送りできるのです。ナポリ野郎の懐もサラマンダーの炎同様温かくなるのです。

 ところが、ハリーは熱くなりすぎて火事を出してしまい、客として来ていたロジャーの子分に見つかって、テントが燃えて途方に暮れる座長のファットマン(クリス・フエルタ)を捨てて二人で逃避行です。


早撃ちジェンマ
 ところが二人はロジャーに寝込みを襲われて捕まってしまいます。ボカスカ殴られる二人。

 ジェンマは特にひどくやられます。ジェンマはよく拷問されるのです。ご婦人並びに淀川先生向けのお色気シーンであるのは言うまでもありません。これが本当の男女同権です。

 ロジャーは父親の命令でティムことビリーを探しに来たそうです。ティムは父親自ら殺したいという事で、とりあえずハリーだけ絞首刑になる運びになります。

 馬に乗った状態で首に縄をかけられ、馬を走らせて吊るすという西部劇定番のスタイルです。

 ハリーは生き延びたら牧場でウサギを育ててくれとティムに遺言を残して吊るされますが、ティムは後で銃を突き付けていた子分にドロップキックを食らわせて銃を奪い取り、ハリーのロープを撃って切り、残りの弾でたちまち子分を始末してしまいます。

 このアクションこそジェンマです。男の子はみんなこれに憧れたのです。

 ロジャーは逃げてしまいましたが、どうにか二人は助かりました。手が震えて撃てないというのは大嘘で、自分が撃てばたちまち死体の山になるから封印していたのです。

 本名はビリー・ボーイで、バージニアでロジャーの父親の一味に居ましたが、ロジャーの兄弟を二人殺して逃げて来たという重い過去が語られます。ジェンマに正義の味方は似合いません。


愛の貧乏脱出大作戦

 命拾いした二人は牧場を目指します。ティムは「俺たちの牧場」でウサギを飼おうと完全にハリーと一緒にやっていく気満々です。命の危険を通じて二人は完全に夫婦になったのです。

 立ち寄った街で金鉱から金を輸送する馬車を見かけます。ティムは俺なら簡単に盗めると詐欺師らしい事を言いますが、ブレント(フランコ・バルドゥッチ)なる地元のワルが狙っていると知り手を引きます。得体のしれない奴と関わるのは危険というわけです。

 しかし、今度はハリーが山っ気を出し、偽の馬車を仕立てて先に金を受け取って逃げるという手口を聞き出し、ブレントを誘ってまんまと成功させます。

 しかし、この金は軍に納める物だったので、騎兵隊のお目付けが付いてきます。ブレントは騎兵隊を馬車から全員撃ち殺して片付けますが、こうなると強盗殺人です。

 ブレントは怒るハリーも撃ち殺して始末しようとしますが、タッチの差でティムがブレントを撃ち殺し、ブレントに罪を被せて金を置いて二人は逃げ出します。ティムの愛です。


愛を育む俺たちの牧場
 ようやく着いた牧場は荒れ果てています。しかし、二人はいちゃいちゃしながら再興を決意します。

 望み通りウサギを育て、ティムが雑貨屋で店番の姉ちゃんを誘惑している間に万引きをして家財を揃えたりと牧場は段々と整備されていきますが、ここにロジャーの父親のサミュエルがバージニアから到着します。

 演じるのはアンソニー・ドーソン。マカロニウエスタンには珍しい大物の出演です。流石に凄味が息子のロジャーとは全然違います。

 大ボスを迎えて元気いっぱいの一味は人魚姫一座を襲撃し、サミュエルは人魚姫に釘を突き刺すという恐ろしい拷問で二人の牧場の場所を聞き出します。流石はやる事が違います。


最後はガンファイト
 二人を撃ち殺して一味は牧場を目指します。万引きでティーカップを揃えてハリーはご機嫌ですが、そこへついに一味が襲ってきます。

 モリコーネ入魂の勇ましいBGMに乗せて西部劇の華、籠城戦のスタートです。ここで手を抜いてはお客さんが許してくれません。盛大に弾が飛び交います。

 ジェンマ相手に正攻法で勝てるわけがないので、サミュエルは子分にダイナマイトを持たせて投げ込む浸透戦術に訴えます。

 試みは失敗しますが、ティムはダイナマイトで逆に自ら家を爆破して一味を引き寄せ、残ったダイナマイトで一気に始末します。しかし、ハリーがウサギを助けようとして爆発に巻き込まれてしまいました。

 ハリーが心配で思わず飛び出してしまったティムにサミュエルが無茶苦茶悪い笑顔で迫ります。もっとも、息子の敵討ちなので当然ですが。

 サミュエルはロジャーにティムを切り刻むよう命じますが、ティムは詐欺師としても一流なのを忘れていました。

 うまいことロジャーを誘導した先にはトラバサミが。文字通りロジャーが罠にかかった隙に二人を射殺して勝利です。

 ハリーは幸い生きていました。物凄く嬉しそうなティムですが、ハリーの牧場を台無しにした罪悪感から旅立つ決意をします。

 馬で去っていくティムを追いかけ、「旅は道連れと」一緒に旅に出るハリー。なんだかんださわやかに映画は終わります。

BL的に解説

そもそもジェンマが…
 ジェンマというとマカロニウエスタンになりがちですが、若い頃の代表作はイタリアの上品な映画代表であるヴィスコンティの『山猫』です。しかも美味しいガリバルディ将軍役です。

 ヘルムート・バーガーを内縁の妻とし、顔に対して芝居が上手いとは言えないアラン・ドロンを寵愛し、実家の財力をアテにして採算度外視で映画を撮り続けたたのホミンテルン伯爵の映画で駆け出しの二枚目が良い役を貰う、それがどういうことか?

 ジェンマは身体を差し出さないわけにはいかないのです。Metooで騒いでいる方達もビビる生臭い現実がそこにはあるのです。

 そしてヴィスコンティは女もイケる口です。バイセクシャルは多くの場合タチ(攻め)です。ここから今作の攻め受けは決める事が出来ます。そもそもイケメンは掘るより掘られる方が美しいのです。

 しかもジェンマは晩年映画にほとんど出ずに彫刻家として活動していました。彼はゲイ術に目覚めてしまったのです。


ハリー×ティム
 ヴィスコンティに飛び火したところで本題に入りましょう。言っておきますが、私は決して氏の作品が嫌いではありません。私が大金持ちで映画を撮るなら、ああいう風に撮りたいですから。

 ちょっとでもBLの素養がある人なら悶絶するはずです。小汚いガチムチ野郎と気まぐれなイケメンの夫婦ですよ。これは王道です。

 二人の出会いが運命的です。ロジャーのしでかした駅馬車強盗に出くわし、一緒に死人を葬ってやるのです。二人は出会った時から掘りつ掘られつの仲だったわけです。

 そして酒場での喧嘩で二人の仲は決定的なものになります。しかし、ティムは最初はこれを利用して金もうけをしようとしました。

 金を騙し取られたハリーの熱い涙と志にティムはほだされ、二人の仲は抜き差しならぬものになっていきます、人魚も未亡人も二人の前にはコンドームでしかありません。

 ティムがウサギを飼う事に執着したのも意味深です。ウサギが性欲が強いのは気の利いた動物図鑑にさえ載っています。ティムの性欲の顕れであり、ハリーへ水を向けるためのなぞかけです。

 最初はウサギを嫌がっていたハリーでしたが、死に際してウサギを飼えと遺言しました。この優しさにティムは惚れたのです。

 しかし、二人の仲は金塊強奪で一旦ひびが入ってしまいます。ティムにしてみれば俺のハリーが別の男に走ったという構図です。面白いはずがありません。

 ブレントの眉間を撃ち抜いてティムは俺のハリーを守り、取り返しました。こりゃあハリーも惚れます。二人が真の意味で夫婦になったのはこの直後でしょう。

 そして牧場で誰はばかることなく夫婦生活をおっぱじめます。40年代のワイオミングなら近隣住民に処刑されるところです。

 しかし、そんな甘い新婚生活をティムの昔の男がぶち壊します。そしてダイナマイト戦術でウサギをあっさり諦めたティムに対し、ハリーは危険も厭わず俺のティムのウサギを守ろうとして死にかけるのです。

 勝負は勝ったものの、ティムはハリーの夢を壊した罪悪感から身を引こうと決意しました。しかし、ハリーはティムと一緒に旅に出る道を選びました。

 この優しさにティムは惚れ直すのです。その夜、屋根一杯の星空の下、二人はウサギのように愛に耽るのです。二人の旅路はお前百までわしゃ九十九まで、共に白髪の生えるまで続くのです。


サミュエル一味ホモ説
 基本的に西部劇の悪役一味なんてものはBL的にはホモですが、サミュエル一味は群を抜いています。

 サミュエルは人魚姫を拷問してティムの居場所を聞き出したらさっさと殺してしまいます。これは西部劇の型から外れた行為です。

 あれだけジェンマにお色気シーンをやらせておきながらおかしいじゃないですか?殺す前にお楽しみするのが型というものです。ナポリ野郎もそれを求めるはずです。

 つまりそうしなかったサミュエルはゲイのサディストなのです。ティムを執拗に追うのは息子の仇でもあるのは当然として、ティムへの愛があるのです。

 そしてアンソニー・ドーソンもなかなかに怪しいキャリアを歩んでいます。初期の『007』でお馴染みでした。『ドクターノオ』のデント教授は有名です。そして、ノークレジット(?で秘密扱い)で顔も出ませんが、初期のブロフェルドはドーソンが演じていました。

 そして007と言えばドーソンは出ていませんが『007は二度死ぬ』で興味深いエピソードがあります。

 初の有色人種ボンドガールの栄誉を得た浜美枝子は、スタッフに手を出されるのを恐れてニンニクを食いまくり大和撫子の名誉を守ろうとしたのです。

 しかし、結果は「ニンニクちゃん」というあだ名を付けられただけで全くの杞憂に終わりました。どいつもこいつもゲイだったのです。むしろ丹波哲郎が危険だったのです。

 しかし、ドーソンの代表作を一本選ぶなら、ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』でしょう。

 ヒッチコックと言えば『ロープ』でいち早くゲイ映画にチャレンジしたBL映画のパイオニアです。奥さんをとても大切にしたのでも有名ですが、ゲイにはむしろ愛妻家が少なくないのは『イップ・マン』でお伝えしたとおりです。

 方々に飛び火してきましたが、これ以上安売りすると後々ネタに困りそうなので、この辺でヒッチコック劇場を終わります。

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