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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙

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ある日突然、〝弟〟から〝私〟に手紙が届いた。30年以上音信不通だった〝弟〟はカトリックに改宗し、山中の無言の行を行う修道院にいると言う。 弟はなぜ、修道士の道を選んだのだろうか?…
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#告白

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第5章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第5章

 戻りました。再び、僕は始めなければなりません。朝のミサに行ってきたので、だいぶ心が静まりました。聖歌は心も魂も清めてくれるのです。では、始めましょう。
 お姉さんが裕人兄さんと結婚することになっていると告げられてから、僕の生活は一変してしまいました。何をしていても頭のなかにそのことがちらつき、何も手につかなくなりました。僕は注意散漫なまま大学を卒業し、心ここにあらずの状態のまま商社に就職しました

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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第6章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第6章

 その次の言葉は、別の紙から始まっていた。恐る恐る、私は便箋を繰った。


 厳密には、いままで僕たちが思っていたような、姉と弟の関係ではなかった、ということです。いいですか。これから僕が書く話を、どうか冷静に受け止めて下さい。そして、これが遥か昔に起こったことで、いまとなっては誰にも、どんなことをしても、もう取り返しのつかないことだということを、肝に銘じておいて下さい。

 僕は5年ほど前に、

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【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第7章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第7章

 急に話の風向きが変わったので、好奇心に駆られて僕はつい聞いてしまいました。
「そうです。人の噂によると、彼女は彼女のすぐ下の弟に溺愛されていた。年の近い間柄だったから、幼いころからくっつき合って育ったのは皆が知っていました。私は彼女が彼女の弟を、きょうだいじゅうで一番愛しているのも知っていました。ところが」
「ところが、何です?」
 伯爵の顔色が少し変わった。
「おぞましいことです」
「何でしょ

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