見出し画像

2020年に地球の衰退が始まる。本当だった?【ハーバード大・最新論文より】

「地球は2020年に衰退し始める」

そんな衝撃的な発表が行われたのは、今から50年前の1972年。

ドネラ H.メドウズの書籍『成長の限界』は、世界中で累計3000万部売れ20世紀に最も論争を巻き起こしたベストセラーの一つとなった。京都議定書、今のSDGsに至る環境問題の取り組みは、元をたどれば、ここから始まっていると言っても過言でない。

この著者は、衝撃的な発表から35年間にわたり「本当に衰退の軌跡をたどるのか?」観測を続けてきた。そして、2012年からハーバード大のHerrington(ハリントン)氏が研究を引き継ぎ、2019年にアップデート結果を発表した。

世界がほころび始めると予測された、2020年を迎える目前の、研究結果というわけだ。

「果たして、成長の限界の予測は正しかったのか?」

先取りで研究結果をお伝えしたい。今年中に書籍(英語版)が販売予定だそうだが、すでにネット上に公開されている論文を元にした。

もしかしたら書籍発売後に、世界中で一大ムーブメントとなるかもしれない(ならないかもしれない)。

それほど、これから数十年以内に起こりうる未来が険しい道となるかを、結果は示していた

論文はこちらから。

では、始めよう。

特筆しておきたいが、この記事で、読者を不安に陥れたい訳でも、煽りたい訳でもない。私自身が「成長の限界」を初めて知り、地球の寿命に目を向けたらニュースの見方が大きく変わったため、読者の方々にも紹介したいと思った次第だ。

結論「成長の限界」は正しかった

単刀直入に言うと、「成長の限界」は、当初(1972年当時)の予測通り、事態は確実に進行していることが証明された。

事実、成長を測る指標となる「人口」や「食料の生産量」「経済成長」「汚染」なども予想通りの推移を見せた。

一方、生命・経済活動を続ける上で源となる「資源」は減り始め、成長の限界点に着実に近づいているとのことであった。

約50年前に描かれたこの筋書きは、最新のデータと突き合わせても、精度が非常に高かったということになる。

半世紀前という、テクノロジーが今ほど発達していなかった時代に、遠い未来である現在の状態を、確度高く予測できていたことに感銘を受ける。

最も起こりうる未来は2つ:経済や環境の急激な衰退か、ロボットだらけで緩やかな衰退か

詳細を見ていく。今後は極端で、厳しい道しか残されていないことが明らかとなった。

予測される未来① 経済や環境の急激な衰退

過去の実績データをもとに、このまま現状維持で推移した場合を予測した未来では、経済や環境の急激な衰退が示唆された。

出典:Gaya Herrington氏の論文

経済成長(緑)は2040年台を境に急降下。
人口(青)は減少していき、80年後には、現時点の半分以下にまで落ち込む。
食料の生産量(黄色)も世界大戦時代(1900年前半)のレベルに落ち込む予測だ。
さらに、環境汚染(オレンジ)は悪化の一途をたどり、資源(紫)は底をついてしまう。

そう、まるで『風の谷のナウシカ』の世界である。地球は砂漠だらけで、特殊なマスクをしてしか生きられないような、荒廃した世界が現実になるのだ。

出典:スタジオジブリ 場面写真

これは私の想像だが、食料や資源がなくなるにつれて、それらを奪い合うような戦争が各地で勃発するだろう。感染症などの病気で死者が大量に出ることもあるだろう。生き残りをかけた時代になると予想される。

身震いしてしまうほど恐ろしいシナリオであるが、これが私たちに残された道2つのうちの1つだ。

近年、すでに洪水、台風・火事などの異常気象を目の当たりにする機会が増えてきており、世界が良い方向に向かっていないことは、実感値としてあるのではないだろうか。しかし、このようなグラフを見せつけられると、首にナイフを突きつけられたような切迫感を抱いてしまうのは私だけでないだろう。

予測される未来②ロボットだらけで緩やかな衰退

そして、もう一つの筋書きは、「劇的なイノベーションが起きた世界=ロボットだらけの世界」ということだ。馬車から車へシフトしたような、飛躍的な技術イノベーションが続いた未来を仮定したものだ。

こちらは、全体的にポジティブな筋書きだ。

出典:Gaya Herrington氏の論文

人口(青)は、2040年あたりで成長が止まり、安定するようになる。
食料(黄色)も一度、下りはするが、大幅に回復する。
経済成長(緑)は、2040年ごろをピークに、2100年には2000年初頭の水準に戻るが緩やかな減退だ。
資源(紫)の目減りもゆるやかで枯渇することはない。
同様に、汚染(オレンジ)は2050年を潮目に、改善に向かっていく。

「①に比べれば、全然悪くない」と思われるかもしれないが、一つだけ懸念点がある。

このシナリオで、必要とされる”テクノロジーの進化”とは、極めて近未来的で"人間離れしたレベル”なのだ。

例えば、蜂の代わりにロボット花粉交配者を作ったり、ドローンを使用して新しい木を植えるといったような。

今を生きる私たちには実感が湧きづらいかもしれないが、将来、行き過ぎた森林伐採により、蜂が花粉を交配できる環境を含め自然が消滅している状況になっている、ということなのだ。

これはある意味、22世紀のドラえもんのような世界、と言えるかもしれない。

こんな人工物であふれた世界(自然のない世界)を回避するために「社会的な優先順位を見直せないのか」と研究者のハリントン氏は言う。

しかし、今のままの経済活動を続けていくのであれば、ロボットだらけのテクノロジーで、消費活動、生活水準を維持していくしか道がない。

その他の予測未来

他にも2つシナリオが紹介されている。これらのシナリオは、幸か不幸か、前述のシナリオ2つに比べて、起こる確率が低いと予測されている

それが、「安定的で、理想的な未来(物心豊かなまま)」と「2020年あたりから経済成長が止まり始める未来」である。

私は、怠け者心理から、ラクをして今のままの安定した未来が続いてくれないか?と願ってしまうが、どうやらそんな未来は、努力をしなければ来ないフェーズに来てしまっているようだ。

「私たちはどんな世界に住みたいのか?」

私たちは、今一度、どんな世界に住みたいのかを問い直す必要がある、とハリントン氏は言う。

経済や環境が急激に衰退した未来なのか、それともロボットだらけでゆるやかな衰退を守る未来なのか。

現代のように、物心両面が豊かで平穏な生活を維持したいのであれば「社会レベルの方策」と「個人レベルの方策」をとる必要がある。

一つは、国や国を超えた政策・枠組みなどにより、社会的優先順位を見直し、再規定していくこと。

もう一つは、私たち一人ひとりが持続可能な手段を選択していくこと。

そうすれば、地球を守ることも、自分たちの生活水準も限りなくそのままで、維持していくことができるのではないか、と氏は推測する。

あとがき

この研究結果が正しいかは、今後、実際に時を経ることで明らかになっていくだろう。

そして、それが判明してきたときには、地球がもう後戻りできない状況に直面しているかも知れない。

世界中で環境問題について訴える活動を行う人は増え続けている。海外にいると、それをより顕著に感じる。

しかし、どれだけ草の根活動で訴えても、資本主義が生み出した今の世界が続く以上、大きな価値観変動が起こらない限りは簡単に変わらないと考えている。

歴史を振り返っても、政治家や大企業を動かしていかないことには、この世界は変わっていかない。

『成長の限界』著者は、1972年当時からすでに5つの救済策を提示していた。

①ビジョンを描く
②ネットワークを作る
③真実を語る
④学ぶ
⑤慈しむ

非常に抽象的な指針ではあるが、私もそれしか無いように思う。

SDGs先進国のオランダでは、すでにそれを実行し始めている組織がある

以前の記事で書いたのだが、NGO、NPOといった市民団体が、大企業・大型組織に行動変革を訴え、実際に行動を変えさせていっているのだ。

とあるNGOの代表は、「化石燃料利用をゼロにする」というビジョンの元、年金基金を動かした。年金基金が行う、何兆円もの化石燃料使用の会社への投資を断念させたのだ。市民活動が社会全体に大きなインパクトをもたらしている、素晴らしい実例であった。

日本では、NGO、NPOの慈善活動は広く知られていても、大企業や大型組織の汚染活動をやめさせるという実績はまだないのではないだろうか。(私が知らないだけかもしれない。知っていればぜひ教えて欲しい)

だからと言って諦める必要はない、と私は思う。

幸いなことに、すでに世界中には仲間がいる。あなたが環境問題に取り組みたいと思ったなら、大企業・組織に変革を起こさせた先例たちに倣って仲間と始めるか、すでにある活動自体に参加すればよい。今の時代は、オンラインでほとんどの活動に参加が可能だ。

私はまだ、地球のこと、そして、私たちの子供の未来を諦めたくない。

環境問題は一過性・局所的なものではなく、持続的かつ地球全体で取り組まねば「時すでに遅し」となる局面にきている。

未来を握っているのは、今を生きる大人たちである。

ぜひ、読んでくださった方と意見交換がしたい。コメントをお待ちしています。

おしまい。

p.s. スキ、コメント喜びます!さらに「サポートしてもいい」と思った方がいらっしゃれば、下の「気に入ったらサポート」機能より投げ銭いただけると大変嬉しいです!


(参考)
https://advisory.kpmg.us/articles/2021/limits-to-growth.html
https://interestingengineering.com/we-will-never-run-out-of-oil
http://www.kanbun.org/kaze/0506.html
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/d-nnovation-perspectives/2022/think-about-the-future-of-spaceship-earth.html


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

こんにちは、ニケです^^ もし記事を気に入っていただけたら...100円でもサポートいただけると嬉しいです。今後の欧州研究のために使用させていただきます!