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ショートショート「ターミナルケア」
インターネットの登場というのは、人類史上、産業革命以来の歴史的な出来事なのだという。また、「情報革命」という観点からいえば、グーテンベルクによる印刷技術の発明にも比することができるかもしれない。人類がこれまで蓄積してきた知識と情報を比類ない早さと利便性をもって幅広く提供してくれるのだから。そして、印刷物と異なり、音や映像まで伴い、さまざまな角度から知識と情報を伝えることができることを考えると、イ
もっとみるボブ・ディラン When the Deal Goes Down
この曲の歌詞は内容のあることを何も述べていない。内容がないことを意図して歌っている。曲名の<When the deal goes down>「取引が下される時」というのも、どうとでもとれる言い回しである。それはこの曲の感傷的なメロディが、意味のない歌詞に聴き手が勝手に意味を与えてくれるのをディランは見越しているから。ディランはどこかのインタビューで「おれの歌詞には騎士的な高貴さがある」と言ってい
もっとみるボブ・ディラン Po' Boy
最後の節の“Freddy or not, here I come”は、かくれんぼで使われる決まり文句“Ready or not, here I come”をもじったもの。ここで、映画「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーが登場するのは、この曲が、悪夢のように「可哀そうな子」についてユーモラスに歌われているからだろう。
ボブ・ディラン What Was It You Wanted?
歌詞の最後にある<Are you talking to me?>は、映画「タクシー・ドライバー」のロバート・デ・ニーロの科白が引用されているようだ。あの映画のなかで拡大自殺に失敗した主人公が「ヒーロー」に祭り上げられるのに、自らを重ね合わせているのか。ただ、わたしがこの曲から思い起こされる映画は、フランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」のラストシーンだ。あの少年の目はまさに<What
もっとみるボブ・ディラン Tight Connection to My Heart (Has Anyone Seen My Love)
この曲は「Empire Burlesque(帝国のバーレスク)」という一九八五年発売のアルバムに収録されている。「帝国」は「アメリカ」を指す思われる。「バーレスク」はヨーロッパでは高尚な題材をパロディにした寸劇、アメリカではストリップショーなどをふくむボードビルと呼ばれる出し物のこと。いずれにしても、ディランは「パロディ」といった意味合いをもたせて使っているようだ。だから、このアルバムでは、歌詞
もっとみるショートショート「2×2=4」
「世の中ってほんと馬鹿が多いよな」
「ほんとバカばっかり。もうヤバくない?」
「ヤバい。マジ、ヤバいよ。もー、終わってるっしょ」
「なんで、みんな自分がバカだって気づかないのかな?チョー不思議じゃない?」
「馬鹿だな。自分が馬鹿だって気づかないから、馬鹿なんだよ」
「あ、あたしのことバカって言った―」
「シャレだよ。シャレ。シャレも分からないほど馬鹿じゃないだろ」
「もームカつくー」
「でも、マジ
ボブ・ディラン&ザ・バンド This Wheel’s On Fire
1975年に発表された2枚組のアルバム「The Basement Tapes」の最後を飾る一曲。ディランの歌詞にザ・バンドのリック・ダンコが曲をつけている。リードボーカルもリック自身が務め、哀調をはらんだ声で切々と歌い上げている。
その歌詞は、なにやら謎めいていて、旧約の預言書や新約の黙示録のような雰囲気がある。
では、この曲の歌詞の内容を要約してみよう。
「目の前で回転しているこのレコー
ボブ・ディラン Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again
最近、バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」という映画を観た。エンディングのクレジットでこの曲を使えば面白いのにと思った。おまけ映像としてなごやかな撮影風景でも画面の隅に流しながら。なぜなら、わたしはこの曲は「ショービジネスのいかがわしさ」について歌われているものと思っているからだ。ディランは残酷なショービジネスの世界で生きながら埋葬されてしまうような窒息感に苛まれているというのが、この曲のタイトル
もっとみるボブ・ディラン&ザ・バンド Tears of Rage
この歌は父親の立場から娘に語りかけている形式になっている。
曲の冒頭の「独立記念日にわたしたちはその腕の中にあなたを抱えた」という歌詞は、7月4日に生まれたわが娘を両親が抱いている姿を描写しているとみられる。daughterという単語には「娘」という意味の他にも「所産」という意味がある。以下に続く歌詞の流れから考えると、冒頭の歌詞は「娘の誕生」を「アメリカの建国」になぞらえて表現したものと受け
ボブ・ディラン Like a Rolling Stone
<She Belongs to Me>というディランの曲は、ディランという男性の中に内在する「女性」についての曲だとわたしは思っている。ディランの半生を描いた映画「I'm not there」で、当時のディランを女優のケイト・ブランシェットが演じているのもそれに通ずる。そして、歌詞の中で自身のことを歌う場合でも、女性に仮託して歌っていると思われることがある。
この<Like a Rolling