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ショートショート「ターミナルケア」

 インターネットの登場というのは、人類史上、産業革命以来の歴史的な出来事なのだという。また、「情報革命」という観点からいえば、グーテンベルクによる印刷技術の発明…

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2週間前

パターソン

 ジム・ジャームッシュ監督による2016年の作品。  この映画はパターソンという町に住む一組のカップルを描いたもの。その町が、アレン・ギンズバーグやウィリアム・カー…

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3週間前

ボブ・ディラン Jolene

 ドリー・パートンの同名の曲があるが、それと同じモチーフがこの曲でも扱われている。同じ曲名でモチーフまで同じなのだから、彼女への敬意の表れなのだろう。ディランの…

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1か月前

ボブ・ディラン When the Deal Goes Down

 この曲の歌詞は内容のあることを何も述べていない。内容がないことを意図して歌っている。曲名の<When the deal goes down>「取引が下される時」というのも、どうとでも…

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2か月前

ショートショート「ゆるキャラ」

「これが最終候補かね」 「はい。市民の一般公募のなかから、観光振興課のものたちで会議をして決めました。あとは市長のご判断をもって決定したいと思います」 「まーいま…

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2か月前
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ボブ・ディラン Po' Boy

 最後の節の“Freddy or not, here I come”は、かくれんぼで使われる決まり文句“Ready or not, here I come”をもじったもの。ここで、映画「エルム街の悪夢」のフレデ…

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3か月前

ボブ・ディラン What Was It You Wanted?

 歌詞の最後にある<Are you talking to me?>は、映画「タクシー・ドライバー」のロバート・デ・ニーロの科白が引用されているようだ。あの映画のなかで拡大自殺に失敗し…

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8か月前
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ボブ・ディラン Death Is Not the End

 一九八八年発売の「Down In Groove」収録。このアルバムにはカバー曲六曲と自作共作四曲の計十曲が収められている。そして、そのすべてが「死」を扱ったものとなっている…

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8か月前
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ボブ・ディラン Tight Connection to My Heart (Has Anyone Seen My Love)

 この曲は「Empire Burlesque(帝国のバーレスク)」という一九八五年発売のアルバムに収録されている。「帝国」は「アメリカ」を指す思われる。「バーレスク」はヨーロッ…

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9か月前
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ボブ・ディラン Jokerman

 この曲のJokermanという題名はjokerとmanという二つの単語を繋げたディランの造語である。jokerもmanもどちらも一般的には「人」を指す単語だから、jokermanの語感として…

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10か月前
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ショートショート「2×2=4」

「世の中ってほんと馬鹿が多いよな」 「ほんとバカばっかり。もうヤバくない?」 「ヤバい。マジ、ヤバいよ。もー、終わってるっしょ」 「なんで、みんな自分がバカだって…

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1年前
1

ボブ・ディラン Señor (Tales of Yankee Power)

 この曲で、「Señor」というスペイン語が使われているのは、かつてスペインの植民地であった今のニューメキシコ州を舞台として想定しているようだ。そして「セニョール」…

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1年前
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ボブ・ディラン&ザ・バンド This Wheel’s On Fire

 1975年に発表された2枚組のアルバム「The Basement Tapes」の最後を飾る一曲。ディランの歌詞にザ・バンドのリック・ダンコが曲をつけている。リードボーカルもリック自…

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1年前
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ボブ・ディラン Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again

 最近、バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」という映画を観た。エンディングのクレジットでこの曲を使えば面白いのにと思った。おまけ映像としてなごやかな撮影風景でも画…

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1年前
1

ボブ・ディラン&ザ・バンド Tears of Rage

 この歌は父親の立場から娘に語りかけている形式になっている。  曲の冒頭の「独立記念日にわたしたちはその腕の中にあなたを抱えた」という歌詞は、7月4日に生まれた…

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1年前
1

ボブ・ディラン Like a Rolling Stone

 <She Belongs to Me>というディランの曲は、ディランという男性の中に内在する「女性」についての曲だとわたしは思っている。ディランの半生を描いた映画「I'm not the…

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1年前
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ショートショート「ターミナルケア」

 インターネットの登場というのは、人類史上、産業革命以来の歴史的な出来事なのだという。また、「情報革命」という観点からいえば、グーテンベルクによる印刷技術の発明にも比することができるかもしれない。人類がこれまで蓄積してきた知識と情報を比類ない早さと利便性をもって幅広く提供してくれるのだから。そして、印刷物と異なり、音や映像まで伴い、さまざまな角度から知識と情報を伝えることができることを考えると、イ

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パターソン

 ジム・ジャームッシュ監督による2016年の作品。
 この映画はパターソンという町に住む一組のカップルを描いたもの。その町が、アレン・ギンズバーグやウィリアム・カーロス・ウィリアムズといった詩人ゆかりの地であることが物語の背景となっている。そして、町と同じ名前のパータソンという男性とそのパートナーの女性であるローラとペットのブルドッグ、この二人と一匹の一週間の生活がユーモアを交えながら淡々と綴られ

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ボブ・ディラン Jolene

 ドリー・パートンの同名の曲があるが、それと同じモチーフがこの曲でも扱われている。同じ曲名でモチーフまで同じなのだから、彼女への敬意の表れなのだろう。ディランのこの曲の方がモチーフがより明示的なのは、共作者のロバート・ハンターのどこか俳句的で簡潔な語法によるものか。
 冒頭でHigh Street(町の目抜き通り)というイギリス英語の用語がある。これはアメリカ音楽の象徴であるhighwayに対比す

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ボブ・ディラン When the Deal Goes Down

 この曲の歌詞は内容のあることを何も述べていない。内容がないことを意図して歌っている。曲名の<When the deal goes down>「取引が下される時」というのも、どうとでもとれる言い回しである。それはこの曲の感傷的なメロディが、意味のない歌詞に聴き手が勝手に意味を与えてくれるのをディランは見越しているから。ディランはどこかのインタビューで「おれの歌詞には騎士的な高貴さがある」と言ってい

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ショートショート「ゆるキャラ」

「これが最終候補かね」
「はい。市民の一般公募のなかから、観光振興課のものたちで会議をして決めました。あとは市長のご判断をもって決定したいと思います」
「まーいまどきゆるキャラのない町なんて珍しいくらいだから、うちも早く決めないとな」
「はい。ゆるキャラがあることでSNSの発信力も違うと思います」
「そんなもんかな。まーいい。どれどれ」
「地元在住のデザイナーの作品でわが市の特産物と観光名所がモチ

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ボブ・ディラン Po' Boy

 最後の節の“Freddy or not, here I come”は、かくれんぼで使われる決まり文句“Ready or not, here I come”をもじったもの。ここで、映画「エルム街の悪夢」のフレディ・クルーガーが登場するのは、この曲が、悪夢のように「可哀そうな子」についてユーモラスに歌われているからだろう。

ボブ・ディラン What Was It You Wanted?

 歌詞の最後にある<Are you talking to me?>は、映画「タクシー・ドライバー」のロバート・デ・ニーロの科白が引用されているようだ。あの映画のなかで拡大自殺に失敗した主人公が「ヒーロー」に祭り上げられるのに、自らを重ね合わせているのか。ただ、わたしがこの曲から思い起こされる映画は、フランソワ・トリュフォーの「大人は判ってくれない」のラストシーンだ。あの少年の目はまさに<What

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ボブ・ディラン Death Is Not the End

 一九八八年発売の「Down In Groove」収録。このアルバムにはカバー曲六曲と自作共作四曲の計十曲が収められている。そして、そのすべてが「死」を扱ったものとなっている。ディランのデビューアルバムも「死」を扱った曲がいくつか含まれているが、二十代と四十代では「死」に対する態度も同じではないだろう。ただ、この自作曲はデビュー当時のようなストレートな歌詞で歌われている。

ボブ・ディラン Tight Connection to My Heart (Has Anyone Seen My Love)

 この曲は「Empire Burlesque(帝国のバーレスク)」という一九八五年発売のアルバムに収録されている。「帝国」は「アメリカ」を指す思われる。「バーレスク」はヨーロッパでは高尚な題材をパロディにした寸劇、アメリカではストリップショーなどをふくむボードビルと呼ばれる出し物のこと。いずれにしても、ディランは「パロディ」といった意味合いをもたせて使っているようだ。だから、このアルバムでは、歌詞

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ボブ・ディラン Jokerman

 この曲のJokermanという題名はjokerとmanという二つの単語を繋げたディランの造語である。jokerもmanもどちらも一般的には「人」を指す単語だから、jokermanの語感としては「冗談好きな人にみえる人」といったような感じになる。この奇妙な語感は「ボブ・ディラン」というペルソナをよく表しているとわたしは感じている。
 ロバート・アレン・ジママンとして生まれた青年は、プロとしてのデビ

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ショートショート「2×2=4」

「世の中ってほんと馬鹿が多いよな」
「ほんとバカばっかり。もうヤバくない?」
「ヤバい。マジ、ヤバいよ。もー、終わってるっしょ」
「なんで、みんな自分がバカだって気づかないのかな?チョー不思議じゃない?」
「馬鹿だな。自分が馬鹿だって気づかないから、馬鹿なんだよ」
「あ、あたしのことバカって言った―」
「シャレだよ。シャレ。シャレも分からないほど馬鹿じゃないだろ」
「もームカつくー」
「でも、マジ

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ボブ・ディラン Señor (Tales of Yankee Power)

 この曲で、「Señor」というスペイン語が使われているのは、かつてスペインの植民地であった今のニューメキシコ州を舞台として想定しているようだ。そして「セニョール」(スペイン語で「旦那様」)と呼びかけているのは、かつてスペイン人に支配されていたアメリカ原住民ということになる。
 第一節に出てくる「リンカーン郡道路」は、ニューメキシコ州がまだ準州であったころ、リンカーン郡でおきた戦争の舞台となった場

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ボブ・ディラン&ザ・バンド This Wheel’s On Fire

 1975年に発表された2枚組のアルバム「The Basement Tapes」の最後を飾る一曲。ディランの歌詞にザ・バンドのリック・ダンコが曲をつけている。リードボーカルもリック自身が務め、哀調をはらんだ声で切々と歌い上げている。
 その歌詞は、なにやら謎めいていて、旧約の預言書や新約の黙示録のような雰囲気がある。
 では、この曲の歌詞の内容を要約してみよう。
 「目の前で回転しているこのレコー

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ボブ・ディラン Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again

 最近、バズ・ラーマン監督の「エルヴィス」という映画を観た。エンディングのクレジットでこの曲を使えば面白いのにと思った。おまけ映像としてなごやかな撮影風景でも画面の隅に流しながら。なぜなら、わたしはこの曲は「ショービジネスのいかがわしさ」について歌われているものと思っているからだ。ディランは残酷なショービジネスの世界で生きながら埋葬されてしまうような窒息感に苛まれているというのが、この曲のタイトル

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ボブ・ディラン&ザ・バンド Tears of Rage

 この歌は父親の立場から娘に語りかけている形式になっている。
 曲の冒頭の「独立記念日にわたしたちはその腕の中にあなたを抱えた」という歌詞は、7月4日に生まれたわが娘を両親が抱いている姿を描写しているとみられる。daughterという単語には「娘」という意味の他にも「所産」という意味がある。以下に続く歌詞の流れから考えると、冒頭の歌詞は「娘の誕生」を「アメリカの建国」になぞらえて表現したものと受け

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ボブ・ディラン Like a Rolling Stone

 <She Belongs to Me>というディランの曲は、ディランという男性の中に内在する「女性」についての曲だとわたしは思っている。ディランの半生を描いた映画「I'm not there」で、当時のディランを女優のケイト・ブランシェットが演じているのもそれに通ずる。そして、歌詞の中で自身のことを歌う場合でも、女性に仮託して歌っていると思われることがある。
 この<Like a Rolling

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