ハル

バギズム

ハル

バギズム

    マガジン

    • ショートショート

      • ショートショート

    最近の記事

    レディオヘッド Knives out

     英語には《The knives are out.》という言い回しがあり、直訳すれば「刃物を持ち出す」といった意味になる。ただ、実物の話ではなく、相手に対して不快感や悪意を抱いた状態のことを表している。つまり、人間関係に致命傷を与えかねない感情が言葉や態度の中にナイフのように出ている様子のことだ。では、この曲は誰か気に入らない人物との関係を始末しろと言っているのだろうか。曲の冒頭で「彼は戻らないだろう」と語り手は言う。「彼」との関係が終わってしまうような何かがあったことが分か

      • ボブ・ディラン Mozambique

         この曲が録音された1975年7月に先立つ、6月25日にモザンビークはポルトガルとの15年に及ぶ植民地解放戦争が停戦となり、モザンビーク解放戦線は独立宣言を果たした。それまで、モザンビークの原住民はポルトガル政府の管理会社によって奴隷以上の強制労働を強いられた。彼らは生まれながらにポルトガル語を公用語とする中で、自分達の言語は失われ、95%は文盲だったという。  この曲の中では、モザンビークが楽園のようなリゾートとして描写されている。実際、ポルトガルの海外州時代は、ロレンソ・

        • 「愛の不時着」ラスト考(※ネタばれ注意)

           「愛の不時着」のラストについてはさまざまな意見がネット上にあがっていますが、ここでは、私なりの解釈を少し綴ってみたいと思います。結論から申しますと、このラストはハッピー・エンドとバッド・エンドのどちらにも解釈できるオルタナティブな演出になっていると私は思っています。基本的には、ハッピー・エンドだけれども、バッド・エンドとしても解釈できる含みがあるということです。ハッピー・エンドの解釈については多く語られていますので、以下は、バッド・エンドの側に立った場合の解釈について述べて

          • ショートショート「挨拶」

             地区の小学生の登校の時間帯だった。昨夜来の雨はきれいに上がっていて、色とりどりのランドセルが歩道の大きな水溜まりに映え、行き交う小学生の顔はどれも、すがすがしい朝の陽射しと同じくらい眩しかった。  「おはようございますっ」  通学途中の小学生が何人かが同時に一人の年配の男性に元気よく挨拶をして通り過ぎた。快晴の日の朝の光が男の頭のべとついた整髪料をギラギラと輝かせていていた。男は自分の経営する会社へ向かうところだった。  男は口元を緩めると、満足気に頷きながら思った。  実

            スキ
            1

          マガジン

          マガジンをすべて見る すべて見る
          • ショートショート
            ハル

          記事

          記事をすべて見る すべて見る

            ショートショート「飼い主の右手」

             彼はベッドの上でスマホの動画を見ていた。猫の動画だった。 「ふふふ」  彼は笑みをもらすと、両手を上に挙げて大きく伸びをした。 「あー疲れた」  彼は約三〇分ほど、似たような猫の動画をずっと見ていた。 「ちょっと休憩するか」  彼はベッドから起き上がった。そのベッドは有名なブランドのベッドだった。人生の三分の一は寝ているからという理由で、いいベッドを購入したのだが、眠る時だけではもったいないと思い、ベッドの上で本を読んだり、スマホをいじったりもしている。  彼はコーヒーを入

            ショートショート「リミッター」

             少年がテレビでドラマを見ていた。韓国のドラマだった。韓国の女性と北朝鮮の男性との恋愛ドラマで、内容が大人向けの上にカットバック多いので、少年では話についていくのが大変だったが、それは少年の母が好きなドラマだった。すると突然誰かが少年の目の前にあらわれた。 「お前は誰だい?」少年は不機嫌そうにたずねた。 「死神だよ」 「ちょっとテレビの邪魔だからどいてくれないかな」 「そんなこと言わずに、大事なはなしがあるから聞いておくれ」 「大事なはなし?」 「大事なはなしだ」 「何のはな

            スキ
            3

            ショートショート 「思い出」

            「ねえどおかしら。ちょっと知り合いの紹介で美容室をかえてみたの」 「あら、お義母さん、素敵じゃないですか」 「ニューヨークで修行をしてきたカリスマ美容師なんですって」 「カリスマ…」 「カリスマって言葉はご存じよね」 「ええ、ええ、すみません。よくお似合いですわ」 「お客さんはベリーショートの方が若く見えていいと思いますよって言われちゃってねえ」 「ええ、見違えましたわ」 「でも、ここまで短くするの初めてだから変じゃないかしら」 「とんでもない。若々しい上に品がありますわ」

            スキ
            3

            ショートショート「都市伝説」

             都心のとあるビルのロビーで二人の男女が会話をしていた。 「ねえ、今度の連休どこ行く?」 「連休?」 「もうっ、言ったじゃない。近場でいいからちょっと遠く行こうって」 「あれ、言ってた?」 「あ、むかつくぅ。いろいろ調べてたんだからねぇ。ほら、見て」  彼女はスマートフォンを彼の方に差し出した。 「ほら、ここなんかよくない?」 「どこ?」 「ほらこの…。あれ、ごめん。違うとこいっちゃった」 「ばか」 「もおぉ、ほら、ここ。おすすめ穴場スポットって」 「え、穴場・スポット?」

            スキ
            2

            ショートショート「ユリイカ」

            ユリイカ 「おかしいな」  教授はつぶやいた。 「そんなはずはないんだが」  なにやら落ち着かないそぶりで自分の研究室の中を行き来してから、ため息とともに椅子に腰をおろした。ぎぃと椅子が鳴った。  しばらくは何も考えられないといった茫然とした表情をしたまま、遠くを眺めるようなうつろな視線を宙にむけていた。  研究室の中は書棚に入りきらない書物がうずたかく積み上げられ、今にも崩れ落ちそうに思われた。それらの本は専門書ゆえか分からないが、誰だか聞いたこともない著者による、一般の

            ショートショート「魔法」

            魔法  少年がテレビでワイドショーを見ていると、突然誰かが話しかけてきた。 「お前の夢は何だい?」 「夢?」 「そう夢」 「お前は一体誰だい?」 「そんなことはどうでもいい。お前の夢を聞いているんだ」 「夢はワイドショーのコメンテイターになることさ」 「コメンテイター?」 「そうコメンテイター」 「どうしてコメンテイターになりたいんだい?」 「だって、ああして、座ってしゃべってればお金がもらえるんだろ。楽なもんだよ」 「いやいや、ああいう人たちは本業でひとかどの人物だから、あ

            スキ
            1