ボブ・ディラン Señor (Tales of Yankee Power)

 この曲で、「Señor」というスペイン語が使われているのは、かつてスペインの植民地であった今のニューメキシコ州を舞台として想定しているようだ。そして「セニョール」(スペイン語で「旦那様」)と呼びかけているのは、かつてスペイン人に支配されていたアメリカ原住民ということになる。
 第一節に出てくる「リンカーン郡道路」は、ニューメキシコ州がまだ準州であったころ、リンカーン郡でおきた戦争の舞台となった場所。ディランも出演した映画「ビリー・ザ・キッド」の歴史的背景でもある。ここで、原住民が「主人」に問いかける。この国(アメリカ)の未来は、リンカーン郡戦争のように資本家同士の戦場となるのかそれとも滅亡への道なのかと。
 第二節で、「彼女」が現れる。これは、自由の女神像に象徴される「理想のアメリカ像」のことなのだろうが、その「彼女」もまた、歴史の流れには抗えない存在である。以下、建国の理想を置き去りにして、資本主義という欲望の磁場と化した国の姿に幻滅する様子が描かれていく。最後の救いを新たな「主人(セニョール)」となる「神」への帰依の中に求めながら。

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