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文学関係

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#哲学

風景はどこにあるのか?

風景はどこにあるのか?

 風景はどこにあるのだろうか。この問い自体、極めて現代的な意識によって初めて可能になるものだろう。そういう意味ではこの問い自体が既にして答えを内包しており、立論は不適切なことのようにも思われる。しかし私はあえてこの問いを発しよう。世界の美しさのために。
 風景はかつて存在しなかった。風景は近代において初めて発見された、わたしの内面において。そしてついには再び見失われてしまう。それに気づいているかは

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ヘルダーリンのエンペドクレス観

ヘルダーリンのエンペドクレス観

 ヘルダーリンの戯曲『エムペ―ドクレス』を読んだ。それは日頃から哲学に関する学説や独自の解釈をyoutubeで動画にして公開されているネオ高等遊民さんに触発されてのことだった。

 正直エンペドクレスについては、高校の教科書に載っている「四元素」のひととしか知らなかった。それをネオ高等遊民さんは、それまでの自然哲学の議論を根本的に揺るがすパルメニデスという巨人の登場というギリシア哲学の文脈から、

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二重思考(Doublethink)のススメ

二重思考(Doublethink)のススメ

 「二重思考(Doublethink)」という言葉をご存じだろうか。SFファンや読書家、あるいは政治談議が好きな人なんかはもしかしたらご存じかもしれない。そう、全体主義への警鐘を鳴らす『動物農場』や『カタロニア賛歌』などの本を書いたイギリスの作家ジョージ・オーウェルの代表作『1984年』という作品の中で登場した言葉だ。

 この言葉をご存じの方からすれば、おそらくこの記事のタイトルは訝しいものと思

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「野蛮」ではない文学のために:H.E.ノサック『滅亡』について

「野蛮」ではない文学のために:H.E.ノサック『滅亡』について

 第二次世界大戦のあとのドイツの文壇では、ひとつの大問題が共通認識として抱かれていた。あのような惨憺たる戦禍のあとで、いかに文学はあるべきか。それはアドルノの「アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である」という有名な命題によく表れている。

 ギュンター・グラスが「アウシュヴィッツ以降の時代に創作しようとする作家はそれまでとは異なった小説を書かなければならない」と考えたように、アドルノのこの言

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