たそがれに寄せて(36)「クレッシェンド」
旧のお盆の少し前、I町に戻り例によってT君を訪ねた。西瓜の収穫期は峠を越したようだが、それでも見事な大きな玉が軒先にゴロゴロしていた。奥さんが裏の井戸で程よく冷やした西瓜を持って現れた。
「これは今しがた取った玉なんです。白い皮のところが厚いでしょう。これが都会に出荷されて数日たって皆さんのお口に入る頃には赤いところと甘みが徐々に表の方にしみだして白い皮のところが薄くなり、味も薄まってしまうんです。ですから、こんな白い皮の厚い西瓜こそ本当に美味いんです。何のお構いも出来ま