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2019年6月の記事一覧

「閉じた輪」解説

理由ははっきりとはわからないのですが、生まれ変わり、いわゆる輪廻転生と言う考え方が苦手です。
どうも永遠に続くと言うのがダメなようで、生まれ変わって未来永劫自分の生が続くと思うと頭がクラクラしてしまいます。
カミさんにも話したことがあるのですが、カミさんには、
「生まれ変わったとしても、自分はそれに気付かないんだし、いいんじゃないの?」
と、簡単にかわされてしまいました。
この作品は、それをさらに

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「夜の冒険」解説

前回投稿した「治療とその効果」が一番最初に書いた小説作品なら、「夜の冒険」は一番新しい小説作品になります。

この作品は単純に、女の子が闇に消えるシーンと、マンションを登るシーンを描きたくて書きました。シーンから、そのシーンに至る理由を考えていきました。
個人的には、理由のないシーンには説得力がなく、読んでも入って行きにくいのかなと思っていますので、理由付けは非常に重要な作業です。

しば

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閉じた輪

仕事場でパソコンとにらめっこしていると、ケータイがけたたましい音を立てた。
ケータイが鳴っているのはぼくだけじゃない。そのフロアにいる全員のケータイが鳴っていた。まるで音の洪水のようだ。
「ミサイルが来てる!」
男の叫び声が聞こえた。
ぼくはケータイの画面に目を走らせた。
画面には、レーダーが日本全土に降りそそぐミサイルを感知して警報を発しているとだけ書いてあった。
逃げなければ。あと時間はどれ

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「治療とその効果」解説

前書きにも書いたように、この作品は誰かに読んでもらうために書いたはじめての小説作品です。
もともとのアイデアの段階では、主人公は女性でした。その主人公が家に帰ったら、そこにはもうひとりの自分が居て…というシーンが頭に浮かんで、そこから発展させました。

主人公の性別を変えたのは特に意味はなく、某文書講座の先生から、主人公の性別は作者の性別に準じるべきだ、とアドバイスをもらったからです。
結果的

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夜の冒険

学校に行く前、わたしは窓の外を見ながら食パンをかじっていた。マンションの窓から見える空は、雲ひとつなかった。
窓の外を、わたしの母が落ちていったのが見えた。
きっと、わたしはまだ夢を見ているんだ。

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ぼくは、通っている塾のビルの階段を下りて、通りに出た。夕暮れ時になっていた。カバンからスマホを取り出しイヤホンを

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治療とその効果 第9話(最終話)

暗闇の中で、彼は泣きそうな顔で笑っていた。
「彼女はいい人だ。一日過ごしてみて分かった。お前は、そんな彼女の人生を台なしにしようって言うんだな」
ぼくは彼を見た。
「彼女にはぼくの未来を告げるよ。治らないってことも。きっと向こうから離れていくだろう」
ぼくは噛みしめるように続けた。
「ぼくは、ぼくが死んで彼女が泣くと思うほうが辛いんだ」
彼は立ち上がり、寝ているぼくの頭の横をを手で叩いた。ベッドは

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治療とその効果 第8話

男は、病室の入り口横の壁に立てかけてあった見舞客用のパイプイスを、ベッドの横のぼくの視線が届きやすい場所に広げ、そこに腰を下ろした。長いため息をつきながら足を組む。
10秒ほど沈黙が続いただろうか、ぼくの方から口を開いた。
「お前、知ってたんだろ?」
彼は答えなかった。反対に彼はぼくに質問した。
「おれ、いくつだと思う?」
改めて彼の顔を見つめる。3日間一緒にいたが、彼の本当の年齢はまだ聞いてなか

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治療とその効果 第7話

ぼくは白い壁の病室のベッドの上で寝ていた。4m四方程度の広さの白い壁の個室だ。左手にははめ込みの大きな窓がある。太陽の光が差し込み、茶色の床を照らしている。病院特有の消毒液の匂いがほのかに匂ってきた。嫌なものだ。さっきまでここで説明していた医師の説明では、ぼくの症状は、今までに症例のない病気の可能性が高いということだ。全力は尽くすが今のところ治療法の目処は立っていないらしい。2、3日中に詳しい検査

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治療とその効果 第6話

枕元で目覚まし時計が鳴った。彼が来てから3日目。今日彼は未来に帰る予定のはずだ。窓の外はまだ暗い。目覚ましの音が鳴り続けている。止めようと手を伸ばす。手に力が入らない。おかしい。手は揺れるだけだった。目覚ましは鳴り続けたが、すぐそばで人の気配を感じたと同時に鳴りやんだ。
ぼくと同じ顔が上から覗きこんだ。目覚ましは彼が止めたようだ。会ってからずっと、自信たっぷりの表情を崩さなかった彼が、口をへの字に

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治療とその効果 第5話

ぼくは暗闇の中ベッドの上で膝を抱えていた。突然鍵の回る音がし玄関のドアの開く音も聞こえた。玄関の照明がついた気配も感じる。靴を脱ぐ音が聞こえる。足音が近づき部屋のドアが開いた。昨夜と同じ様にぼくと同じ顔が笑顔を作っていた。彼はまだ部屋の外に立ち、ぼくにのんきな声をかけた。
「どうした?こんなに暗くして」
ぼくの中が弾けた。気がつくと立ち上がり右こぶしで彼に殴りかかろうとしていた。突然ドアが閉まった

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治療とその効果 第4話

ベッドの上で目が覚めた。光を顔に感じた。ベッドの左側にある、窓のカーテン越しに差し込んだ日の光だった。ぼくはバネ仕掛けの人形のように飛び起きた。顔から血の気が引いているのを感じる。
「遅刻!?」
暗いうちに起きないと会社の始業時刻には間に合わない。視線を枕元に向ける。昨夜セットしたはずの目覚まし時計は、もう昼前の時間を指していた。昨日の帰り際の、先輩の責めるような顔が頭に浮かんだ。
「どうしよう、

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治療とその効果 第3話

気がつくと、ぼくは自室のベッドの上に寝ていた。天井の照明の光が目に入った。スーツのまま寝ていることに気づき慌てて上半身を起こす。自分と同じ顔の男との対面を思い出した。ベッドの左の窓はカーテン越しに暗い。夜は明けていないようだ。部屋を見まわした。男は床でベッドの横にもたれていた。先程は気がつかなかったが男は部屋に干して有ったスエットの上下を身につけていた。
男はぼくが起きたのに気がついたのか顔を上げ

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治療とその効果 第2話

マンションのオートロックの番号を押すと自動ドアが開く。入って左手にある管理人室の電気は既に消えていた。ぼくは管理人の顔を思い出そうとしたができなかった。
土日の休みもなく毎日仕事、仕事だ。管理人に会ったことなど、住んでいる3年の間、1、2度しかないことに気づいた。自分のことがバカに思え、思わず口角が上がる。目は笑っていないだろう。
玄関ホールを入り目の前にあるエレベーターのボタンを押す。エレベータ

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「治療とその効果」前口上

次回から投稿する作品、「治療とその効果」は、何年か前に、ぼくが生まれて初めて人に読んでもらうために書いた小説作品です。
知り合い数人に読んでいただいたあと、発表する機会がないままになっていました。
そこで、昨年10月よりキャプロア出版で定期刊行されている「月刊ふみふみ」に分割して連載として掲載いただくことにしました。
6月10日発売の「ふみふみ9号」に最終回を掲載いただきます。
いわゆる処女作品で

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