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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(24)量産型ひまわりの七日間

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19) (20) (21) (22) (23)
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 緊急の艦内放送に耳を疑った。
「グリロット中尉、逃走中。レイターを人質に取っている」
 何が起きた? 考えるよりも早く僕は走りだした。中尉の目的はわかっている。ひまわりだ。

「アーサー、あんた、あのひまわり、咲けねぇって知ってたか?」
 宇宙船お宅のレイターはV五型機を鋭い観察眼で見ていた。
「咲けない? どういう意味だ」
「機体の先端に、黄色いひまわり型のバリアがでる送出口があるだろ。あそこが改造されてんだよ。カバーの感じからして、多分、コネクトケーブルが格納されてるぜ」
 カナリア少尉に連絡をいれる。非破壊検査ではわからなかった極細ケーブルが発見された。ひまわりが観測用機体であることが裏付けられた。レイターのお手柄だ。
 この目で確認しておこう。
 バルダン軍曹との実戦訓練を終えた僕は、格納庫へ向かった。その時だった。予想だにしない緊急放送が流れたのは。

「グリロット中尉、E区画に侵入」
 彼は僕より格納庫に近い。走りにくい狭い艦内通路にいらだつ。イヤホンからアレック艦長の指示が全員に飛ぶ。
「人質は死んでも構わん。捕虜を確保しろ」

 艦長の指示は絶対だ。レイターは密航者で、守る必要がない。とはいえ、レイターはこのふねで働き、生活し、乗組員との間に良好な関係を築いている。人質として有効に働いていた。
 格納庫の手前でグリロット中尉の後ろ姿が見えた。だらりと力の抜けたレイターの身体を肩に軽々と抱えて走っている。レイターの頸動脈に処置ペンの針を突き付けていた。一つ間違えばレイターは死ぬ。格納庫へ入っていくグリロット中尉を追う。

 ひまわりの前で戦闘機部隊の隊員たちが人質のレイターを見て対応に迷っていた。銃を構え発砲しているが威嚇だと見抜かれている。まずい。これ以上グリロット中尉がひまわりに近接したら、生体認証が稼働してデータが消去されてしまう。レイターが死んでも構わないという艦長命令は的確だ。 

 とにかく足止めしなくては。
 レーザー銃を構え、後姿をスコープでとらえる。何度も人型ロボットを相手に反復練習してきた。

 グリロット中尉の足を狙って、引き金を引く。
 白い光線がふくらはぎに命中した。レイターを抱えていた中尉がバランスを崩す。そのまま身体がひっくり返るようにしてひまわりの真横に倒れた。

 床に転がった衝撃でレイターが気が付いた。甲高い声がする。
「ひまわりが動く!」
 ピピッ。電子音とともに機体のライトが点いた。まずい、グリロット中尉の生体認証をキャッチしてロックが解除された。
 レイターが機体脇のタラップを素早く駆けのぼりコクピットに滑り込む。

「捕虜の身体を機体から遠ざけろ!」
 僕の指示で隊員たちがグリロット中尉の身体を引きづるようにして連れていく。
「すげぇ」

 レイターが感嘆の声を上げた。3D空間モニターが起動したな。コクピット周りに虹色の光が反射している。
 データが削除される前にコピーを取らなくては。手首につけた通信機の非接触型データ回収機能をオンにする。
 血だまりを飛び越え、ひまわりのタラップに足をかけながら、コクピットに通信機を投げ入れた。
「レイター、これでデータを取れ!」
 その瞬間。コクピットの灯りがダウンし真っ暗になった。すべての機能が停止している。何が起きた? データ消去されたのか?
「ひまわりが、ピクリともしなくなっちまった。悪りぃ、データ取れなかった」
 通信機を手にしたレイターが僕の顔を見おろした。

(25)へ続く


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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」