銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(15)量産型ひまわりの七日間
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「お願いします!」
俺は礼儀正しく気合を入れて格納庫に入った。きょうの模擬戦はアレックの許可を得てる。
「よろしく」
無愛想なカナリアが返礼する。
アーサーの複座機に近づくと機体に小さなライトが灯った。登録された俺の生体認証でロックが解除される。タラップを昇って操縦席に乗り込んだ。久々の模擬戦だ。
ゆっくりと息を吐く。ここは落ち着く。計器に囲まれたコクピットは鉄壁だ。俺のすべてを守ってくれる。
ここでなら『赤い夢』を見ずに眠れるだろうか。
真正面に眠ったままのひまわりが置かれていた。
機内のスコープを通して見つめる。この前見た時にはなかった穴が機体後部に空いていた。メカニックのカナリアが爆破を避けるために液体エネルギーを強引に抜いたんだろう。かわいそうに。
カメラをズームすると機体の金属の張り合わせまでくっきり見えた。ゆっくり観察する。その時、俺は気が付いた。ああ、これが違和感の原因か。こいつ、ひまわりを咲かせられねぇんだ。
機体がピッと小さな電子音を立てた。アーサーが近づいてきたことを知らせる。
「相変わらず、機体に乗る日は早いな」
と言いながら後部のナビ席に座った。
「ここに座ってると落ち着くんだよ」
口にしてから、余計なことをしゃべったと後悔した。
きょうは五機対五機のチームに分かれて戦う。格納庫に入ってきた人影を見た瞬間、心臓がドキンと音を立てた。
「なんで副長がパイロットスーツ着てんだ?」
「ハミルトン少尉が体調不良だから代わりに搭乗するそうだ」
「おいおい、体調不良って『逃げのハミルトン』のサボりに決まってるだろが」
「モリノ副長もたまには操縦したいのだろう」
「マジかよ」
副長が近くにいるだけで周りの空気が薄くなる気がする。意識して呼吸しねぇと窒息しそうだ。
モリノ副長を殺すのはいつでもできる。
けど、真っ赤なトマト煮に洗浄液を垂らそうとした瞬間、計画が甘すぎることに気づいた。副長がこれを食って死んだら、犯人は俺か料理長のザブに絞られる。俺は密航者でここは軍艦という閉鎖された空間だ。逃げ場もない。即効性の毒じゃだめだ。
俺は行き詰まっていた。
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模擬戦場となる無人星系の小惑星帯へ戦闘機を飛ばす。
アーサーが俺のチームの大将で、敵の大将はモリノ副長だ。
操縦桿を握る俺にアーサーが聞いてきた。
「レイター、どうした?」
「あん?」
「制御軸がずれてるぞ」
「マジか」
慌てて修正する。『銀河一の操縦士』としてはありえねぇミスだ。俺としたことが飛行に集中してねぇな。
小惑星帯をスクリーニングする。
敵と接触したらバトル開始。先に敵の五機に模擬弾を当てたチームの勝ちだ。速く敵を見つけることが勝負の明暗を分ける。
「45WDの裏に注意せよ。G隊形で接近する」
天才軍師のアーサーの指示が味方機に飛ぶ。小惑星に隠れながら45WDへ近づいていく。目の端で機影を捉える。正式採用されたばかりのコルバだ。
「コルバ機見っけ」
模擬弾を発射する。精鋭軍団の中じゃコルバの動きは見劣りする。隠れる技術もまだまだ甘い。コルバ機の翼に命中した。
「すみません、コルバ機離脱します」
泣きそうな連絡が全機に伝わる。それが鬼ごっこ開始の合図となった。
小惑星の陰に隠れて次の機体を狙う。
「まだ、出るな」
悔しいがアーサーのナビは的確だ。操縦に集中できる。
(16)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」