銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(16)量産型ひまわりの七日間
目の前に現れたのはモリノ副長機だった。撃ってきた模擬弾をスレスレでかわす。誘導無効波で追跡を防ぐ。
副長はアレクサンドリア号に乗るまで現役の戦闘機パイロットだった。いい読みをしてる。勘は衰えてねぇ。だが、技術は俺のが上だ。小惑星の裏に逃げ込む。
性格通りの真面目で面白みのねぇ飛ばし。こちらが飛び出すのを待っている。教本通りの手には乗らねぇ。脳みそと身体と機体が一体化していく。
作戦を変えて副長が撃ってきた。よけながら模擬弾のスイッチを握る。どこで反撃するか。
小惑星の影に副長の機体を捉えた。チャンスだ。コクピットのモリノ副長にロックオンした。その時、俺の中にイメージがひらめいた。
モリノ機が大破し、粉々に散る。戦闘機は人を殺すためにある。
レーザー弾への切り替えボタンに手をかけた。これで『赤い夢』から解放される。
『お前ならS1レーサーにだってなれる』
副長の声が聞こえた気がした。
その時だった。
「右六十五度回避」
全く意識していないところから模擬弾が飛んできた。アーサーのナビに従って俺の身体が勝手に動く。重いGが身体を押さえつける。間一髪のところでかわす。
呼吸が乱れる。筋トレをサボったツケだな。
カナリア機か。敵の陽動だ。
他機の動きも把握していたはずなのに。どこから来た?
フェイントか。
カナリアは技巧派だ。だが一対一の対戦で負けたことはねぇ。何とかなる。
背後からモリノ機が迫る。反転する。ちッ、カナリアを見失った。劣勢だ。逃げ切れるか。
「三十七度方向へ転進」
アーサーの指示は的確だ。だが、違う。俺の直感が別の何かを感じる。まずい。挟まれた。
軽い人工的な衝撃が機体を揺らす。
「トライムス機、着弾により離脱する」
アーサーの冷静な声がした。模擬弾が機体側面に当たっていた。カナリアが撃ったものだった。一体どこに隠れていたんだ。
俺のチームは負けた。
*
自室に戻るとアーサーが怖い顔をして立っていた。基本的に怖い顔だが、今は子どもが見たら泣くレベルだ。
「お前、模擬戦中に何を考えていた?」
「負けたからって、そんなに怒るなよ。俺だってショックだよ。カナリアはどこにいたんだ? 検証しようぜ」
航空ログを確認しようとする俺をあいつは止めた。
「さっき、何をしようとした?」
「あん?」
「とぼけるな」
アーサーの奴、思いっきり襟ぐりを引っ張った。息が苦しい。だが俺には抵抗する気力がなかった。
「模擬弾からレーザー弾に切り替えようとしただろう」
こいつ気付いてたのか。
「何のことでい」
「僕は見落とさない。切り替えスイッチに手を掛けたお前の動きは明らかに不自然だ」
「ミスだよミス」
「銀河一の操縦士が操縦ミスを認めるのか?」
「……」
言葉に詰まった。俺の中のプライドがミスを認めることを許さない。
「あのままレーザー弾が発射されたら、モリノ副長が死んでいたかもしれなかったんだぞ」
「撃ってねぇんだから問題ねぇだろ」
「お前、副長を殺そうとしたんじゃないのか?」
思わず息をのんだ。
(17)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」