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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(12) 量産型ひまわりの七日間

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) (9) (10) (11)
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「トレーニングルームにご案内いたします」
 丁寧な言葉とは裏腹に将軍家の少年は不機嫌そうな顔で手錠を付けた自分に銃を突き付けていた。ヌイ軍曹が腰縄を握っている。厳重すぎるほどの警戒だ。

 廊下へ一歩踏み出す。初めて部屋の外へ出られた。これは成果だ。
 艦内通路の武骨な雰囲気は我が軍の戦艦と似ている。少し連邦の照明の方が明るいか。エンジン音の聞こえる方向を確認する。ここは艦内後部だな。

 角を回るとトレーニングルームは、すぐだった。これでは逃走ルートは確保しづらい。だから利用を認められたのか。天才少年に抜かりはない。
 トレーニング機器を前に手錠と腰縄がはずされた。
 トライムス少尉はドアの前で銃を構えている。隙がなく、動きもしなやかだ。鍛えていることが一目でわかる。十二歳というのにどこから見ても優秀な軍人だ。

「ランニングマシンをお借りします」
 タロガロ基地で使っているものと使い方は変わらなかった。久しぶりに全身を動かしながら室内を見回す。使えるようなものは見当たらないか。

 六年前、フチチが陥落し鮫ノ口暗黒星雲はアリオロンの領空となった。
 フチチに駐留していた自分に本部の研究所所長から任務が与えられた。鮫ノ口暗黒星雲内にある星間物質の濃度分布を調査せよというものだ。目ぼしい座標を見繕って測定器を設置した。
「このデータはどのように利活用されるのでしょうか?」
 自分の疑問に明確な答えは返ってこなかった。
「前線の暗黒星雲を押さえることは我が軍に有用なのだ。君の任務については基地の上司にもあまり話さないでもらいたい。いずれ研究所へ戻ればわかる。それまで正確なデータ収集を頼みたい」

 フチチが連邦に奪還された後も、その任務は続いた。
 基地から自動無線を使えば測定器から簡単にデータ収集できるが、ここは前線だ。敵に気づかれるわけにはいかない。低被探知性のV五型機で鮫ノ口内の三十地点へ定期的に出向く。測定器とコネクトしてデータを回収する。単純でアナログな作業。研究員の自分にとっては慣れたものだ。

 最初からその観測要員として自分が派遣されていたことを知ったのは、随分と後になってからのことだった。
 研究所にとって、フチチの民の解放は建前でしかなかった。

 六年の間にタロガロ基地の司令官は次々と変わっていったが、自分には異動命令がでなかった。昇進だけはした。
「自分はもう研究所へ戻ることはないのでしょうか?」
 基地の司令官に聞いたことがある。
「研究所の考えていることは、よくわからんのだ。異動の希望があるのか?」
「いえ」
「待遇が不満か?」
「そういう訳ではありません」
 鮫ノ口は前線とはいえ今や危険は少ない。それにもかかわらず、危険手当と研究手当は高額だった。休暇も希望通りに取ることができた。
「では、このまま続けてくれ」
 そのやりとりから感じた。自分には基地司令官も知らない特殊な任務を課せられていると。

 自分は学者を目指していた。事象を分析して仮説を導きだすことは得意だ。
 研究所がやろうとしていることが、高密度の星間物質を利用した兵器の開発であることは間違いない。しかも、極秘案件だ。通常兵器ではない。
 タロガロ基地での時間はたっぷりあった。宇宙エネルギー学会の論文資料を読み込む。随分古い文献の中に、気になる記述を発見した。
(13)へ続く


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