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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(2) 量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」① 
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)
<少年編>マガジン

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「なあ、アーサー、ひまわりっていつ動かすんだ?」
 レイターがすり寄るようにして僕に聞いてきた。

「動かす?」
「捕まえたヤツ、生体認証でロックがかかってるんだろ? 敵のパイロットを近くまで連れてくりゃ動くじゃん。ひまわりが咲くところが見てぇんだよ」
 有名なバリア機能の実物を見たい気持ちはわからなくはないが、
「そんな簡単な話ではない」

 鮫ノ口暗黒星雲を抜けて領空侵犯した敵機を捕獲した。そのひまわりと呼ばれるV五型機からアリオロン軍のグリロット中尉の身体を連れ出した瞬間、機体は動かなくなった。現在は金属の塊と化している。 
 レイターが言う通りパイロットの微弱な脳波を感知する生体認証登録によってエネルギーロックが作動したのだ。捕虜であるグリロット中尉をひまわりに近づかせればロックは解除できる。問題は解除と同時にパイロットが機体に対して簡単な命令を出すことができる点だ。

「ひまわりの自爆指示を恐れてんのか?」
「それもある」
 調査にあたっているカナリア少尉からは、燃料が残っているとの報告が上がっている。捨て身の自爆というケースはこれまでにもあった。
「あんた、アリオロン人と話ししたんだろ。何言ってた?」 
「仕事だ。お前に話すことは何もない」
「いいなぁ。俺も話がしてぇ」
 好奇心にあふれた瞳で僕を見る。尋問で聞き出すプレッシャーも何もなくて羨ましいほどだ。
「何が聞きたいんだ?」
「聞きたい、っつうかしゃべってみてぇじゃん。ひまわりのコントロールパネル見たけど、三次元姿勢制御が連邦と逆向きに付いてんだよ。図鑑とも違うんだけど、やりにくくねぇのかなぁ? 利き手が違うのか? 旋回性が高い分、重力耐性の訓練どうやってんだろ。重力制御技術はそんなに変わんねぇんだから工夫が必要だろ。あと、飯の好み。俺、料理作ってるから、好きな食いもんとか。それからアリオロンの女子ってさ、どういう娘がモテるのかなぁ。知りてぇじゃん」
 次から次へと、敵兵への質問をあげる。雑談が得意なわけだ。
「よく思いつくな」
「S1レーサーと握手するぐらい貴重な機会じゃんかよ」
「趣味で仕事をしているわけじゃない」
 と答えたが、ざらりとした感情に襲われる。もしかすると、こいつは僕より優秀な尋問官かもしれない。相手が興味を持って反応すればそこに雑談が生まれる。
 僕には知りたいことを人に聞くという習慣がない。ほとんどの物事に関して文献を見れば理解できてしまうからだ。
 僕の好奇心は宇宙の成り立ちや、文明の行く末にある。こうした問題についてアリオロン人と意見交換をしてみたい気持ちはあるが、雑談で話す内容とは違う。
 レイターとの会話が自分の中のコミュニケーションの難点を映し出す。
 士官学校で尋問のロールプレイングは行った。分厚い軍の尋問マニュアルも人権委員会の捕虜扱い規程も全て覚えている。過去の尋問議事録も読み込み分析した。自分の持てる武器で戦うしかないのだ。

 将軍家の礼服ではなく普通の制服のまま拘束室をノックした。
 ベッドに寝転んでいたグリロット中尉が起き上がるのをモニターで確認する。健康状態に問題はなさそうだ。ヌイ軍曹と一緒に部屋に入る。
「おはようございます」
 アリオロン語であいさつする僕に中尉は軽く会釈をして応じた。
「おはようございます」

 無視されなかったことに安堵する。
「グリロット中尉、お食事はお口にあいましたか?」
 純正地球人と同じホモ・サピエンスなのだから味覚に大差はないはずだ。僕が今朝食べたメニューと同じものを提供した。パンとサラダとハムエッグにスープ。食事は食べ切ったと報告を受けている。
「ご厚意に感謝します」
 あからさまな敵意は感じられない。レイターなら、ここで食事の好みを聞くのだろうか。
 机を挟み向かい合って座る。背筋を伸ばすとグリロット中尉と目が合った。そのまま本題に入る。
「改めて伺います。連邦領内になぜ入りましたか?」
「すでにお伝えした通りです。観艦式の偵察です」
「それにしては、侵入ポイントが不自然ですね。離れすぎていませんか?」
 僕は矛盾点を指摘した。

(3)へ続く


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