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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(1) 量産型ひまわりの七日間

前線フチチでの観艦式を終えた戦艦アレクサンドリア号は、領空侵犯した捕虜を連れて中継地点へと向かっていた。
 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」① 
<少年編>マガジン

 絶対は絶対にない。 それでも将軍家は言い続けなくてはならない。
「絶対に勝利せよ!」と。
 生命は不可逆だ。死んだ者は絶対に生き返らない。絶対に。

「ごめんな」
 レイターはこっそりと格納庫を訪れた。
 目の前のアリオロン機に心が痛む。噴射口ぶっつぶしちまってすまねぇ。無傷で手に入れられりゃよかったが、鮫ノ口に逃げられるよりマシだって思ったんだ。

 小さな高重力ビスとワイヤで機体は丁寧に留めてある。
 デジタル図鑑でよく見たアリオロンの戦闘機V五型。通称ひまわり。正面のバリアがイエローで花が咲いたように見えることから呼ばれてる。量産型だが実機を見るのは初めてだ。連邦の戦闘機と基本的なつくりはそっくり。お互いを研究して新たな技術を取り入れてるから、似てくるんだろうな。そのせいで戦争が終わんねぇんじゃねぇの。
 やっぱ、本物は図鑑と違う。っていうか、マイナーチェンジしてるのかも知れねぇ。

 タラップを登って機体に触れる。手のひらに金属のひんやりした感覚が伝わる。遠くからよく来たな。キャノピー越しにコクピットをのぞき込んだ。あのスイッチは重力圏離脱用で、こっちは姿勢制御のコントローラーか。アリオロン語はわかんねぇけど計器の想定はつく。
 速度、位置、傾度、飛行状態をイメージしながら見つめる。連邦の量産型より旋回性能が高いんだよな。急旋回はどんな感じだろう。操縦桿を頭の中で傾ける。次々と想像の世界が立ち上がり、宇宙空間を縦横無尽に飛ばしていく。
 こいつを起動させてぇ。3D空間モニターが立ち上がって、コクピットが祭りの夜みたいにカラフルに彩られる様子を思い浮かべると身体中がゾクゾクしてきた。

「レイター! 何している。誰の許可を得た?」
 一気に現実に引き戻される。俺としたことが、夢中になって人の気配に気づかなかった。振り向くとメカニックのカナリアが俺を睨んでいた。

「ごめん、俺、戦闘機が好きでさ」
 頭を下げてタラップから飛び降りる。
「動機は聞いていない。許可を得たかどうかを聞いている」
「得てません」
「出ていけ」
「はい」
「分別が付かない子どもは嫌いだ」
 吐き捨てるようにカナリアは言った。失敗した。

 出口近くで振り向くとカナリアは動かないアリオロン機のチェックを始めた。その様子を見ていたいが、きょうのところは出直しだ。

 子ども嫌いか。手強いな。
 カナリアは現役の戦闘機パイロットでもある。うまく取り入りたいが、なかなかうまくいかねぇ。子ども嫌いって、どうすりゃいいんだ。十二歳の俺は見た目より幼く見える。隊員たちの警戒心を解くためにそれを利用してるが、カナリアに限っては裏目にでてるな。

 部屋へ戻る間も興奮は冷めなかった。
 アリオロンのパイロットってどんな訓練してるんだろう。アリオロン人は純正地球人と変わんねぇんだろ。旋回時の重力耐性をどうやって高めてんだろ。
 敵機っていう情報の少ない存在が俺の脳みそを刺激する。あれも知りてぇ、これも知りてぇ。
 ああ、ひまわりが咲いたところを見てみてぇ。
(2)へ続く

 

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