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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(4) 量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)
<少年編>マガジン

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 この部屋には窓がない。捕虜なのだから贅沢は言えないが、星が見えないとどこを飛行中なのかまるでわからない。

「グリロット中尉、お食事はお口にあいましたか?」
 目の前の大人びた少年を見つめると、不憫に思った。敵であるソラ系銀河連邦は世襲制を取っている。将軍家の彼はその制度の被害者と言える。
 娘と同じ年だというのに戦地へ来させられている。もっとも、話した感じは十二歳には見えなかった。帝王学というものを学んでいるのか、大人の自分をも圧倒させるオーラがある。天才という噂通りに頭が切れる。翻訳機も使わない。ネイティブとはいかないが発音もきれいだ。

「わざわざ領空侵犯した理由を教えて下さい。偵察の目的は何ですか?」
「黙秘します」
「あなたは連邦サイドの到着時間を観測していたのではないですか?」
 少年が指摘する通りだ。侵犯後にスクランブル発進をしてくる敵機の時間測定が任務の一つだった。
「黙秘します」
 とにかく黙秘で逃げ切るしかない。その時だった。彼の目が光ったような気がした。
「貴殿が搭乗していたV五型機については返還いたしません。連邦軍にて引き取らせていただきます」
 痛いところを的確に切り込んできた。まずいことになった。

 鮫ノ口暗黒星雲を抜けて敵地である連邦の領内に入るのは久しぶりだった。
 観艦式というイレギュラー時の敵の態勢を確認するという任務。侵入して真っ先に飛んできたのはフチチ軍の戦闘機だった。想定より速い。到着タイムを秘匿通信でタロガロ基地へ送る。
 任務終了だ。そのまま、アリオロン領へ戻る予定だった。だが、少し様子を見ることにした。そのフチチ機は見るからに操縦が下手だったのだ。主力部隊が観艦式に参加しているためだろう。
 驚いたことに、警告もないまま捕獲ケーブルを伸ばしてきた

 鮫ノ口は目の前だ。逃げることもできた。
 その時、欲をかいて判断を誤った。相手機を連れ帰ることを思いついたのだ。捕獲ケーブルにわざと巻かれる。自分の方が技術は上だ。引っ張られるふりをして機体を上下させ、敵機を振り回す。パイロットが気を失い、抵抗がなくなった。このまま、アリオロン領域まで連れ込めばいい。
 暗黒星雲に入るというタイミングで連邦軍の応援機が近づいてきた。このタイムも基地へ送信した。フチチ軍と連邦軍、それぞれの態勢情報が取れるとは上出来だ。司令官も喜ばれることだろう。
 連邦機はケーブルの切断を試み始めた。これまた実戦に慣れていないことが見て取れる。自分は落ち着いていた。敵が直接この機体を攻撃してくることはない。一つ間違えば友軍のフチチ機が巻き添えになる状況だ。ケーブルが切断されれば単身戻るだけだ。
 読みは間違っていないはずだった。だが、突如、想定外の衝撃に襲われた。
 意識を取り戻した時、自分は担架に乗せられ、連邦軍の捕虜になっていた。

 今頃、アリオロン軍では大騒ぎになっているはずだ。
 自分は軽い打撲だけだ。おそらくV五型機は大破しておらずエネルギーロックがかかっているに違いない。
「機体は無事なのでしょうか?」
 目の前の少年が一瞬笑ったように見えた。
「お答えできません」 

 自分の本来の任務を知られるわけにはいかない。機体に積んでいるデータが連邦に渡ることは避けなければ。そのためには情報が必要だ。
「私が人権委員会に引き渡される中継地点には、いつ到着しますか?」
 少年は少し考えた後、回答した。
「一週間後です」

 それまでにV五型機に近づくことができればデータを消去できる。だが、どうすればいい。あの少年だってわかっているのだ。「返還いたしません」と告げられた瞬間、自分は焦った。彼はそれを見抜いていた。

 とにかく、この部屋から出なくては。
 雑談に応じて隙を探るか。
 だが、次期将軍は取り付く島がない。マニュアル通りの尋問。残りは一週間。敵は天才軍師だ。どう攻略する。
(5)へ続く


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