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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(5)量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4
<少年編>マガジン

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 モリノ副長が夕飯の弁当を持ってこいって言う。珍しいな。俺は容器によそって副長の個室へ向かった。
「レイターだよ。弁当持ってきたぜ」

「ありがとう。そこに置いてくれ」

 俺は指示されたテーブルの上に弁当を置いた。モリノ副長の部屋はショールームのようにきっちりしている。
「肉野菜炒めはあったかいうちがうまいぜ」
 と言う俺のアドバイスを副長は無視して俺を正面から見つめた。どうやら、用があるのは弁当じゃなくて俺らしい。嫌な予感がする。
「確認したいことがある。お前、フチチの観艦式の日、コルバの機体に搭乗していたな?」
 ちっ、面倒な話だ。
「あれぇ、ばれちゃった? コルバと戦闘機のモニターで観艦式観てたんだよ。すごい迫力だったんだ。そしたらスクランブルかかって、びっくりしちゃったぜ」
 明るく無邪気に答える。これは嘘じゃない。
「どうして、そのことが記録されていなかったんだ?」
「さあ、俺にはよくわかんないな。怒られるの嫌で隠れてたんだ。ごめんなさい」
 俺は素直に頭を下げた。アレック艦長ならこれで逃げ切れる。だが、相手が悪い。

「お前がコルバに代わってアリオロン機にレーザー弾を撃ったんだな?」

 なっ、いきなり核心をついてきた。隠したはずなのになぜバレた? アーサーがチクったのか? ヤべぇぞ。
「え? どういうこと?」
 質問には質問で返す。モリノ副長がゆっくりと答えた。
「コルバの機体には教育用の学習記録プログラムが積んである。レーザー弾は後部座席の指示により発射されていた」
 背中に冷や汗が走る。
「この機能はトライムス少尉も知らなかったようだな」
 ちっ、天才のくせにあいつ使えねぇ。

「トライムス少尉かお前のどちらかがデータを改竄したのだろう。少尉が前に言っていた。お前は航行ログの書き換えができると」
「プログラムは一生懸命勉強してるよ。俺、銀河一の操縦士になりたいんだから」
 副長が俺を追い詰める。だが、怒っている声じゃない。さて、どこまで逃げ切れるか。と考えた直後だった。

「レイター、お前はもうこのふねを降りろ」
 副長の言葉に、身体中の毛が逆立った。
「ごめんなさい。勝手に船を操作したこと謝ります。お願いします。ここに置いてください。俺、きっと役に立ちますから」
 目に涙を浮かべた。ここからは泣き落としだ。
「わかっている。だからだ。お前はここにいてはいけない」
 モリノ副長の顔を見つめて真意を探る。役立つから船から下ろす、ってどう言う意味だ?
「お前の操縦技術は驚くほどずば抜けている。今回の対応を見ても、あの状況で落ち着いて的確に動いた。コルバ一人では殿下の救出をなし得なかっただろう。お前は十分戦力になる」
「じゃあ、何で?」
「アレック艦長は使えるものは何でも使う主義だ。この先お前が戦闘に利用される可能性がある。今回のことは艦長に報告していない。お前は普通の生活に戻るべきなんだ。子どもが危険な戦地へ行くべきじゃない。命の保障はないんだぞ。それだけじゃない、下手をしたらお前はゲーム感覚で人を殺してしまうかもしれない。それから後悔しても遅いんだ」
 思わず身体が固まった。ゲーム感覚とは言わねぇが、俺はこれまでにもう何人も殺してる。
 副長が俺の肩に手を置いた。
「学校へ行って、将来のことをゆっくり考えろ。施設が嫌ならソラ系の私の実家に頼んでみることもできる。お前ならS1レーサーになって銀河一の操縦士の夢を叶えることだってできる。まだ十二歳なんだ」
「アーサーだって十二歳じゃん」
「彼は将軍家だ」
 副長は知らない。俺がソラ系へ戻ったらどうなるか。命の保障どころじゃねぇ。マフィアが襲ってくるぞ。『緋の回状』の期限は切れてるが、ダグは甘くねぇ。

  俺が生きてると知ったら、モリノ副長の実家にミサイルを撃ち込むかもしれねぇ。

「ありがとうございます。嬉しいです。そんな風に俺のことを考えてくれる人がいるなんて、びっくりしました。すみません。時間をください」
「ちょうど一週間後に中継地点へ着く。あそこからならソラ系への便も出ている。施設か私の実家か、行先を考えておきなさい」
「はい」
 俺はしおらしく部屋を出た。
 こいつはまずいぞ。一週間の間に策を打たねぇと。
(6)へ続く


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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」