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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(11)

前線のフチチで行われている観艦式に非正規のアクロバットチーム『びっくり曲芸団』が登場した。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10
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「やべぇぞ」 
 レイターと同じことを思ったけれど、緊張と興奮で声に出すことすらできない。五機の軌跡が一点に集まる。
 ぶつかる! 
 と、次の瞬間、それぞれの機体がかすかにひねりを加えて衝突を避ける。びっくりした。信じられない技術と精神力。肩に入った力が抜けない。

 その時、
 PPPPP……
 僕の機体のエマージェンシーサイレンが鳴った。
「え?」
 心臓がドキンと跳ねた。機体内のライトが点滅している。
「正体不明の領空侵犯機を発見した。すぐ、出られるのはコルバ機か?」
 戦闘機部隊を統括するモリノ副長の声が聞こえた。 

「は、はい。出られます」
 反射的に僕は応えていた。何が起きたのかわからない。訓練で毎日こなしている動作は、考えなくてもナビゲーションの指示に従って身体が勝手に動いていく。
「安全装置解除」
 いつもよりスムーズに作業が進む。
「コルバ機、出撃します」

 宇宙空間へ出たところでモリノ副長から命令が入った。
「送信した侵犯機飛行地点へ急行せよ。鮫ノ口暗黒星雲の手前だ。フチチ軍の戦闘機が先に向かっている。協力して観艦式の邪魔にならないように片付けろ」
「了解」
 片付けろ、とはどうすればいいのだろう。わからない。だが、フチチ軍が先行しているのなら近くへ行けば指示があるはずだ。
 フチチの領空内で侵犯機を確保するか、もしくは暗黒星雲へ押し返すといったところか。初めての任務。先輩たちもいない。緊張するが、機体の調子は悪くない。僕の思い通りに飛んでいく。目にしたばかりの『びっくり曲芸団』の飛ばしが自分に憑依したかのように錯覚する。
「二千五百で三速モードへ切り替えろ」
「了解」
 速度があがる。適切なナビゲーションに感謝する。
 と、その時に気づいた。ナビの声が高い。あわてて本線の通話ボリュームを下げる。

「レ、レイター?」
「あん、どうした? そのままの針路で問題ねぇぜ」

「君がナビゲートしてたのか?」
「何言ってんだよ。今ごろ」
 レイターが後部座席に乗っていることをすっかり忘れていた。機体がなめらかに飛ぶのはレイターのナビゲーションに沿って動かしていたからだということに今になって気が付いた。どうすればいい? ここまで来て引き返すわけにもいかない。頭が真っ白になる。
「おい、コルバ。俺、外から見えねぇように隠れてるから、俺が乗ってること隠せよ」
「ど、どうしてだい?」
「アーサーの許可なく乗ったってばれるとまずいんだよ。あんたも俺を乗せてたことがばれると、正規採用されねぇかも知れねぇぜ」
「そ、それは困る」
 振り向いても後部座席にレイターの姿は見えなかった。一体どんな体勢で乗っているのか。

 操縦桿をしっかりと握り直す。レイターが乗っていようがいまいが、とにかく任務を果たすしかない。

 菱形に広がる黒い空間が近づく。本物の鮫は見たことがないけれど、人食い鮫が暴れ回る映画を見たことがある。そのせいだろうか、鮫ノ口という名前は穏やかじゃない。不安を呼び起こす。

「さて、そろそろ、目標地点だぜ。変だな。フチチの機体が先に着いてるはずなのに」
 レイターがレーダーの範囲を広げる。光の点が映った。戦闘機二機の機影を捉える。
「フチチ機がぴったりマークしているようだね」
「侵犯機はアリオロン機で間違いねぇな」
 敵機とフチチ機はゆっくりしたスピードで鮫ノ口へと向かっている。全速力で追いかける。

 小さな点に見えていた二機に近づく。目視で確認して驚いた。
「まずいぞコルバ。くっついちまってる」
 二つの機体は捕獲ケーブルで絡まっていた。侵犯機がフチチ機を引っ張っている。頭が固まって働かない。何をどうすればいいんだ?
「コルバ。フチチ機に呼びかけろ」
 レイターが外線通信機のスイッチを入れた。
「こちら連邦軍。フチチ機、応答願います。聞こえますか?」
 僕は必死に呼びかけた。だが、反応がない。どうする? 誰か、誰か僕に指示をくれ。    (12)へ続く

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