銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(12)
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観艦式のパレードはメインにさしかかった。フチチ軍の戦闘機部隊による曲芸飛行をアーサーは甲板から見つめていた。
空母から飛び出したフチチ軍の五機が並んで円を描く。一般客から歓声が沸く。等間隔の飛行。技術は高いが魅せる演技ではない。ここは前線だ。曲芸の訓練に割く時間はほとんどないのだろう。
『続きましては、銀河連邦軍の航空機部隊です』
ハミルトン少尉らの『びっくり曲芸団』が弾丸のように姿を現した。
五機がくっついてまるで一機の大型戦闘機に見える。高スピードで移動しながらそれぞれの機体が密着している。危険飛行以外の何ものでもない。フチチ軍の曲芸飛行とはレベルが違うことが一目で明らかだ。甲板が静まり返る。名前の通りに観客をびっくりさせているな。
『曲芸団』の五機がいったんバラバラに離れ同時に急旋回する。中心点に向かって突っ込む。接触ギリギリのところですれ違う。スモークで花びらを描いていく。
見慣れた僕でもヒヤヒヤする。一つ間違えば大事故だ。高度な技術とチームへの信頼が見ている者の心を揺さぶる、これはもはや芸術の域だ。
団長のハミルトン少尉は蝶が舞うかの如く機体を操る。歴戦の猛者だが、戦闘より曲芸飛行が好きだと言う。
その魅力についてたずねた僕に、
「フッ、敵を倒すより、自分との戦いのが痺れるじゃないか」
と鼻で笑いながら答えた。
「あいつら命知らずだな。どんだけのGかかってんだ」
後ろでバルダン軍曹がつぶやいた。あなたも相当ですけどね、と言いたいところをこらえる。きょうは将軍の代行、無駄口は禁止だ。
『曲芸団』が並んで宙返りする。連邦軍の『バイ・スタ』の美しさとは違う迫力。観客は拍手をするのも忘れて釘付けとなっている。
その時、僕は気が付いた。貴賓席に戦闘機部隊の隊長であるハヤタマ殿下が姿を見せないことに。殿下は艦橋で指揮を取っているが、曲芸飛行の時間は王妃の隣席で観閲する予定だった。
隣のフチチ女王に伝令がそっと近づき口頭で情報を入れていた。
「何かありましたか?」
たずねる僕に女王は笑顔を見せた。
「大したことではございません」
いや、大したことでなければ観閲官に伝令は入らない。ハヤタマ殿下が臨席できない緊急事態が発生しているに違いない。
甲板は通信が制御されていた。何が起きたか確認ができない。
『曲芸団』のハミルトン機が猛スピードでこの旗艦へ突っ込んできた。ギリギリのところで急上昇する。観客からあがるのはもはや歓声ではなく悲鳴だった。
僕はバルダン軍曹に耳打ちした。
「軍曹。これを持って艦内へ入ってもらえませんか?」
「ふむ、曲芸が面白いところだが、命令とあらば」
バルダン軍曹に持たせた小型受信機がフチチ軍の無線を拾う。耳に入れた受信機に思わぬ情報が入ってきた。
『鮫ノ口暗黒星雲付近で未確認の領空侵犯機を発見。アリオロン敵機の可能性あり。観艦式には影響させないよう、すでに追尾し対処中』
どうやら、客人である我々には聞かれたくない情報ということだ。侵犯機に対しフチチ軍が極秘裏に対応しているのなら、僕が口出しをすることはない。バルダン軍曹を戻そう、と思った時だった。
『侵犯機を捕獲したという通信後、現場へ向かったハヤタマ大将とは連絡がつかないままです。連邦軍からも現地へ戦闘機を急行してもらっています』
何だこの情報は。
バルダン軍曹にすぐここへ戻るようメッセージで指示する。 (13)へ続く
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