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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(13)

領空侵犯機を追いかけたハヤタマ殿下から連絡が途絶えたという。情報を盗聴したアーサーはバルダン軍曹を呼び寄せた。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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『びっくり曲芸団』が翼を振りながら遠ざかっていく。隣のフチチ女王が拍手を送りながら僕に話しかけた。
「さすが連邦軍の戦闘機部隊は違いますわね。曲芸飛行部隊のバイオレット・スターズの代理と伺っておりましたが、素晴らしいです」

 先ほどの伝令はご子息と連絡がとれないという内容だったのだろうに、表情一つ変えず気丈な方だ。
 この後は友好星系軍による親善パレードが予定されている。
「お褒めに預かり光栄です。司令官にお願いがございます。続きを貴艦の艦橋から見学させていただいてよろしいですか?」
 今頃、艦橋は侵犯機への有事対応に追われているはずだ。
「このまま、こちらにてご覧いただければ幸いです」
 やんわりと断る女王に僕は声をひそめて続けた。
「ハヤタマ殿下のためにも連邦軍と共同で対処すべきです」
 女王は目を伏せ、一瞬だけ母の顔を見せた。
「お気づきであられましたか……艦橋へ案内させます。殿下、何卒、よろしくお願いいたします」

 狭い通路を通って艦橋へ向かう。
「坊ちゃん、不審者です」
 振り向くと、バルダン軍曹が一般観客と思しき男性の腕をひねりあげていた。

 どうやら僕に駆け寄ろうとしたようだ。
「痛い、放して」
 推定年齢は十代後半の少年だ。それとわかる銃や刃物類は持っていない。だが、暗殺者はどんな手を使うか油断ならない。一定の距離を置く。
「将軍様に一言伝えたいんだ」
 興味を持って僕はたずねた。
「どのようなご用件ですか?」
「王妃や殿下をないがしろにしないでください。お願いします」
 少年が頭を下げた。駆けつけたフチチ軍の警備隊長が僕に敬礼した。
「失礼いたしました。その者の身柄はこちらで引き取ります」
「その必要はありません。申し訳ありません。誤って一般の観客の方を拘束してしまったようです。バルダン軍曹、謝罪を」

 僕の命令に軍曹は即座に従い、少年に頭を下げた。
「はっ、失礼いたしました」
 バルダン軍曹は危険を感じたら、たとえ僕の命令であっても簡単に拘束を解いたりしない。少年に害意はないということだ。
「こ、こちらこそすいませんでした。将軍様に伝えたくて、つい」
 少年は震える声で頭を下げた。艦橋へ向かう動線が、観客の手洗いの動線と重なっていた。たまたま僕を見かけた少年が直訴に及んだということだ。ここを通ったのが強面のクナ中将だったら声をかけようなどとは思わなかったに違いない。僕が子どもだから、とっさに思いついたのだろう。警備計画に問題はない。僕の行動が想定外だっただけだ。

 艦橋へ向かいながら少年の言葉を反芻する。
「王妃や殿下をないがしろにしないでください」
 フチチ王室を軽んじているつもりはない。だが、実際、極秘機密はフチチと共有していない。
 式典で、大柄なクナ中将が冷ややかに童顔のハヤタマ殿下を見下ろす様子が目に浮かぶ。誇り高いハヤタマ殿下は「連邦は我が星系のために存在している」と語るが、実態として連邦の援助がなければフチチ軍は機能しない。戦時である今、連邦の駐留軍が主導している。
 そうした状況が、先ほどの少年を含めフチチ国民に不満をくすぶらせているということか。   (14)へ続く

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