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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(14)

ハヤタマ殿下と連絡が取れないという情報を得て、アーサーは観艦式の会場から艦橋へと向かった。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」
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 バルダン軍曹とともに艦橋へ入ると想像以上に混乱していた。
 領空侵犯機をフチチ軍の探知機が発見。ハヤタマ大将は、連邦軍には情報共有せず一人で対処に向かった。

「連邦の駐留軍は観艦式に参加しており、無用な心配をかける必要はない」と、殿下は話したという。
 それは、連邦軍司令官のクナ中将、もしくは僕に頼りたくないという、プライドだったのではあるまいか。
『侵犯機の捕獲成功』というメッセージのあと通信が途絶えた。だが、幸いなことにハヤタマ殿下が搭乗しているフチチ機と敵機の位置は確認できている。
「現在、連邦軍のアレクサンドリア号から出撃した戦闘機が並走中です」
うちの主力部隊は観艦式に参加している。誰が出撃したのだろう。

「連邦軍機から現地の映像が届きました」
 モニターに映る映像を見る限り、ハヤタマ殿下が敵機を捕獲したのは間違いない。フチチ機の先端から伸びた捕獲ケーブルがアリオロン機の胴体に巻き付いていた。だが、その二機の機体を引っ張っているのはアリオロン機だ。
「ハヤタマ少将。応答を願います!」
 通信兵が必死に呼びかけている。生命反応はあるが、返答がない。脳震盪による意識消失の可能性が高い。敵機のパイロットの技量が高いのだろう。捕獲されたところで逆にハヤタマ機を振り回したに違いない。
「アリオロン機、停船せよ」
 敵機はこちらの呼びかけに応じる様子を見せない。敵はこのまま、無管轄宙域の鮫ノ口暗黒星雲に逃げ込む気だ。下手をすれば殿下をアリオロン宙域へ連れ去られる。

 アレクサンドリア号へ連絡を入れた。
「アレック艦長、トライムス少尉です」
「おお、アーサーか」

「領空侵犯機を追っているうちのパイロットは誰ですか?」
「コルバだ」
 コルバ訓練生か。作戦の選択肢が急速に狭まった。
 無口な彼と挨拶以外の会話をしたことはない。訓練データを頭の中に引き出す。腕は悪くないが『びっくり曲芸団』と比べればできることは限られる。実戦に出るのが初めて、という不確定要素に考慮が必要だ。

「あいつにアリオロン機を撃たせるか悩んどるところだ」
 ここは戦地だ。領空侵犯し停船要請を無視する敵機を撃ち落すことに問題はない。
「艦長、フチチ機に乗っているのはハヤタマ殿下です」
「ほぅ王子か。こいつは厄介だな」
 軽い口調の中に緊張感が漂う。
「パイロットのハヤタマ殿下は意識がない状態です。アリオロン機を撃ち落した場合、爆発に巻き込まれる恐れがあります。敵はそれをわかって人質として引き連れていると考えられます」
「王子に怪我させたら大変だぞ。いや、下手したら死ぬかもな。連れ去られても外交問題だ。どうするよ、天才参謀」
「一つ方法があります。コルバ訓練生と話してみます」
「頼むぞ」 

 フチチ軍の通信機に連邦コードを入れて呼びかける。
「コルバ訓練生聞こえますか? トライムス少尉です」

「ぼ、坊ちゃん。わたしは侵犯機を追っております。ど、どうすればいいでしょうか?」
 コルバ訓練生の不安げな声が聞こえた。
「フチチ機のパイロットは意識を失っています。捕獲ケーブルを撃ち抜いて二機を分離させてください」
 コルバ訓練生が息を呑む音が聞こえた。
「む、無理です。あのパイロット、王子なんですよね」
 アレック艦長と僕の会話が聞こえていたか。
「普段と同じようにやればいいんです。あのケーブルを撃つことは、あなたの成績ならできるはずです」
「できません」
 困った。本人が自信をもってできなければ、この作戦は成功しない。その時だった。    (15)へ続く

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