見出し画像

銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(10)

連邦軍正規のアクロバットチーム『バイオレットスターズ』の代理としてアレクサンドリア号の『びっくり曲芸団』が観艦式に参加することになった。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9
<少年編>マガジン

『バイ・スタ』の持ち味は調和のとれた美しさだ。一方、先輩たち『びっくり曲芸団』の迫力は暴力的だ。接触ギリギリの危険飛行。機体の故障も厭わない超加速。実戦さながらの緊張感。
 贔屓目かもしれないけれど、あの『バイ・スタ』より『曲芸団』の方が操縦技術が高いと思う。

『曲芸団』の団長ハミルトン少尉は敵機撃墜の功績を認められ勲章をもらったこともある歴戦のパイロットだ。

 今は『逃げのハミルトン』と呼ばれていて評判はよくない。けれど、蝶が舞うような繊細な飛ばしはいつ見ても見とれてしまう。 
「コルバ、お前、曲芸団に向いてるな。決まったコースを飛行する再現度が高い。がんばれよ」
 憧れのハミルトン団長から向いていると言われて、僕は天にも昇る気持ちだった。
「は、はい。ありがとうございます」
 学生時代から予習して飛ばすタイムアタックが得意だった。一度飛ばしたコースなら先輩たちを上回るタイムも出せるようになってきた。

 フチチでの観艦式の模様はアレクサンドリア号の艦内放送で中継される。
 僕は格納庫脇の待機室で見ることにした。そこへ、レイターが顔を出した。
「なあ、コルバ。観艦式の中継を戦闘機ん中で見てぇんだけどさあ」
「機体の中で?」
「曲芸団の飛ばしをコクピットでイメージしながら見たいんだよ」
 それは勉強になりそうだ。
「そうだね。僕の戦闘機に一緒に乗るかい」
 僕にあてがわれている機体は複座機だ。
 僕は普段通り前の操縦席に、レイターは指導の先輩が乗る後部座席に座った。
 機内空間モニターにチャンネルをセットすると宇宙空間が3Dで映し出された。
 自分も観艦式へ参加したように錯覚する。気分が盛り上がってきた。レイターのアイデアは素晴らしい。

 宇宙空間にフチチ軍の旗艦が停泊しているのが見える。
「きょうは、あのふねに坊ちゃんが乗ってるんだね」
「なんかあいつ、楽しくなさそうにバルダンと出かけて行ったぜ」
「坊ちゃんとは仲がいいんだね」
「はぁ? いいわけねぇだろ。あんた、バカじゃねぇの」

 レイターは年上の僕をいつもバカ呼ばわりする。けれど、声変わりしていない高い声と軽い口調には愛嬌があり、腹を立てる気にはならなかった。

 パレードが始まった。フチチ軍のふねが隊列をなして登場する。その奥に鮫ノ口暗黒星雲が不気味な様相を見せていた。
「おっ、最新の六型巡洋艦じゃん。田舎軍なのに連邦からいいふねもらってんな。こいつ速いし火力も強いんだけど、旋回の小回りがきかねぇんだよな」
 宇宙船お宅のレイターが解説を始めた。
「こいつはすげぇぞ。新型の反粒子ミサイルって初公開じゃん。威力が半端ねぇんだよ」
 ミサイルが鮫ノ口へ向かって飛んでいく。レイターが言う通りのすごい兵器だった。命中した模擬敵艦隊が累次爆発で粉々に砕け散る。
 おしゃべりな彼は僕が座学で学んだ知識を上回るうんちくを延々と語り続けた。軍事評論家として食べていけるんじゃないだろうか。

 パレードはいよいよメインに入った。フチチ軍戦闘機部隊の五機がそろって飛び立った。並んで円を描く。
「何だよあいつら。随分下手っぴぃだな」
「いや、下手じゃないよ」
「俺より下手くそだぜ」
 どうしてあり得ないことを自信満々に言えるのだろう。子どもだからだろうか。僕は言ったことはないけれど。
「まあ、先輩たちの『曲芸団』と比べたら、下手に見えるかもしれないけどね」
「ふむ。確かにハミルトンはいい腕してる。だから俺、あいつの技術を盗んで取り込みてぇんだ」
 ハミルトン団長の技術。僕だって取り込めるなら取り込みたい。  

『続きましては、銀河連邦軍の航空機部隊です』
 アナウンスを聞くと自分が出るわけでもないのに思わず操縦桿を握っていた。いよいよ先輩たち『びっくり曲芸団』が登場する。
 飛び出してきたのは、え? 見たことのない大型戦闘機。
「すげぇ」
 レイターの感嘆の声が聞こえる。
 一機に見えたが、違う。五機がくっついて飛んでいる。ほとんど接触した状態だ。
「三、二、一、六十度後方」
 レイターがつぶやくのに合わせて突然散開した。花びらのような軌跡を描く。レイターがシミュレートする数値通りに中心点へ全機が突っ込む。自殺行為だ。  (11)へ続く

裏話や雑談を掲載したツイッターはこちら

第一話からの連載をまとめたマガジン
イラスト集のマガジン 

この記事が参加している募集

#宇宙SF

5,966件

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」