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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(6)

フチチ十四世は息子のハヤタマに統治者としての能力があると思うか、アーサーにたずねた。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」1)(2)(3)(4)(5
<少年編>マガジン

「あの子は、幼いころから虫も殺せぬ優しい子でした。第三王子でしたから王籍離脱をさせ一般人にするつもりで自由に育てまして、本人もその心づもりでおりました。絵を描くのが好きで農民画家になるのが夢でしたの」
「そうであられましたか」
 初めて伺う話だった。これまでハヤタマ殿下と雑談をしたことがない。いや、殿下に限らず士官学校時代に授業と無関係な会話を誰とも交わしたことがない。
 殿下が手にしていた作戦指令書の美しい挿絵を思い出す。あの時「お上手ですね」と一声かければ、話が展開したのかもしれない。話す機会がなかった訳ではなかった。

「六年前のあの戦争で父と兄姉が亡くなり、ハヤタマはフチチ十五世として私の跡を継ぐことになりました。十五歳になったハヤタマは強い軍隊が必要だ、と自分で連邦軍の士官学校への入学を決めました。成績は私に見せませんでしたが、向いておりませんでしたでしょう?」
 向き不向きは関係ない。

 それがこの世襲制度の辛いところだ。
「回答は差し控えたく存じます」
 ハヤタマ殿下は、組織を動かすことではなく、独創的な作品を産み出すことに能力がある。僕へ向けられる嫌悪。あれは苛立ちだったのか。
 女王は僕を真正面から見つめた。
「お願いがございます。ハヤタマを支えてやっていただきたいのです。連邦の後ろ盾がフチチには必要です。貴方はお若い。ハヤタマと同じ時代を生きることができます」
 女王は先を見据えている。将来、ハヤタマ殿下が王位を継承した後の世代のことを。息子を心配している、というよりはフチチの未来を憂慮している。「母殿に言われたのだ」と握手を求めてきたハヤタマ殿下を思い出した。

「連邦軍は文民統制され統治院と評議会のコントロール下にあります。私にできることは多くありません」

「あなたはきちんと帝王学を学んでおられますのでしょうね……あの子にはその時間もありませんでした。殿下は、タロガロがフチチを攻めてきた、真の理由をご存じなのでしょう?」
 突き刺すような視線。ガラスを素足で踏みつけた様な刺激が身体に走った。女王は知っていて僕にたずねているのか。それとも、鎌をかけた誘導なのか。何と回答すべきなのか。頭脳をフル回転させる。

 六年前にはわからなかった。タロガロが突如フチチを襲った真の理由。それは現在、連邦軍の最高度機密だ。いずれはフチチ王に伝えなければならないと認識しているが、まだ時期ではないと封印されている。
 その情報が洩れている。人払いはこのためか。彼女は知っているのだ。フチチはこの先も不安定で過酷な運命にあることを。女王は先程自ら僕に伝えた、フチチは門番であると。

「タロガロは苛烈な気候変動に見舞われています。温暖なフチチへの移住を求めて侵攻してきました」
 とりあえず一般常識のテストであれば模範解答となる表向きの理由を僕は口にした。女王の瞳に挑戦的な光が宿ったように見えた。 (7)へ続く

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