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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(7)

アーサーはタロガロが侵攻してきた理由について「移住を求めて」とフチチ十四世に答えた。
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<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」1)(2)(3)(4)(5)(6
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「では、なぜ、外交で解決できないのでしょう。なぜ、停戦すらできないのでしょうか。過去にフチチはタロガロ人の移住を拒否したことは一度もないのです。タロガロの厳しい環境変化に援助もいとわず、その信頼が不可侵の密約を支えていました。それが、先の戦争によって壊されてしまった。家族や土地を奪われた我がフチチの民もタロガロへの憎しみを抱いてしまい、もはや以前のように接することはできません。我々はどちらも不幸となってしまった。すべては鮫ノ口のせいで」

 すべては鮫ノ口のせい。
 さらりと口にした言葉でわかった。女王がなぜ連邦軍の最高度機密を知っているのか、その理由が。身内の連邦から漏れたのではない。彼女は敵であるアリオロン同盟側から入手したのだ。タロガラとの間に独自の情報ルートが存在しているに違いない。侵攻に至った同盟の真の目的。それは、フチチへの移住という小さな話ではないことを。

「お時間が来たようです。観覧席へご案内いたします」
 女王の後について外へ出ると、バルダン軍曹が直立不動で立っていた。

 旗艦の甲板は宇宙服を着用する必要はなかった。環境制御がかけられている。規制線の向こうに抽選で選ばれた普段着のフチチ市民が、所狭しと集まっていた。
 観閲官である女王フチチ十四世が姿を見せると歓声があがった。彼女の人気は絶大だ。

 一段高い上部甲板に観閲官席と僕ら招待客の貴賓エリアが用意されていた。総司令官である女王の隣に僕の席はあった。
「これより観艦式を始めます」

 張りのある声が会場に響く。女王の開会宣言を受けて、音楽隊がフチチ国歌の演奏を始めた。
「連邦軍次期将軍。アーサー・トライムス殿下」
 来賓紹介で僕は立ち上がり連邦軍敬礼をした。
 通常ならここはクナ中将の席だ。僕に代わったのはアレック艦長のサボり癖のせいだと思っていたが、それだけが理由だったのだろうか。策士である女王の横顔が気になった。 

 軍事パレードがスタートした。
 見慣れたソラ製の戦艦に植物をモチーフとしたフチチの紋章が描かれている。フチチ軍の艦船が隊列を組んで旗艦空母の前を通過する。
 訪れた観客に興味本位な軽さが見られない。フチチの悲劇から六年。この星の人々にとって戦闘の記憶は生々しく、今も戦地なのだ。「ソラ系中心部の観艦式とは意味が違う」とレイターに伝えた空気を自ら肌で感じる。

 続いて、連邦軍との公開合同演習。司令官のクナ中将が乗った連邦軍旗艦が姿を見せた。
 連邦軍が開発した新型の反粒子ミサイルが積み込まれている。実物を見るのは僕も初めてだ。
「発射」
 アリオロン軍に見立てた無人模擬艦隊に向けて複数のミサイルが飛び出した。敵艦の向こうには鮫ノ口暗黒星雲が重なって見える。
 
 外れるはずはないが、もし誘導機能の不具合で一発でも当たり損ねたら、ミサイルは慣性飛行で暗黒星雲を超えアリオロン宙域へ侵入する。

「全弾命中」
 僕の心配は杞憂に終わった。見る間に模擬敵艦は累次爆発を引き起こし消滅した。想定通りの威力だ。
 観客席の市民たちが一斉に歓声を上げ拍手する。その熱気が観閲席にも伝わってくる。

 映像はオープン配信されており、タロガロとその背後にいるアリオロン軍も間違いなくウォッチしている。
 これは、前線での軍事的示威活動だ。抑止力のためとはいえ、暗黒星雲の向こう側を刺激しているのは間違いない。
 このまま何事もなく終われば良いのだが。   (8)へ続く

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