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銀河フェニックス物語<少年編>第十四話 暗黒星雲の観艦式(9)

パイロット養成学校に通っていたコルバは、アレック艦長に誘われて連邦軍へ入ることにした。
銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十四話「暗黒星雲の観艦式」1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8
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 入隊してから知った。アレクサンドリア号は精鋭が集まるふねだった。驚いたことに僕は戦闘機部隊に配属された。操縦士として戦闘機に憧れはあったけれど、エリート部隊だ。自分には縁のない世界だと思っていた。
 その訓練は学生時代とは比べ物にならない厳しさだった。疲労で身体が石の様に動かなくなった。けれど、それ以上に僕はこの仕事に魅せられていた。
 銀河一速い世界。戦闘機乗りの先輩たちの技術はすごい。自分も追いつきたい。それだけを考えていればいい。与えられたメニューをとにかく手を抜くことなくこなす。余分な会話は必要ない。この単純さが僕には心地よかった。

 そして、ふねの食事はおいしかった。

 人見知りの僕でも食堂のアルバイトのレイターとは話ができた。彼が十二歳で子どもだからだと思う。
「コルバ、大盛りにしといたぜ」
 レイターは話下手な僕とは正反対だ。大人とでも誰とでも平気でおしゃべりをする。

 彼はしょっちゅう、格納庫に顔を出した。船に触れているだけで幸せなのだ、と戦闘機の掃除を手伝ってくれた。筋金入りの宇宙船お宅で、辺境の路線のことまで随分と詳しい。
「なあ、コルバ。パキ星までローカル路線が伸びたの知ってるか?」
 定期航路の話をされると僕は興奮してしまう。
「もちろんさ。それに合わせて新型船種が導入されるんだよ」
「パコーダ型だろ。かっけぇよな」
「客でいいから乗ってみたいな」
「あんた、客とか言ってんじゃねぇよ。操縦士なら操縦してぇだろが」
「そ、そうだね」
 僕はローカル路線のファン用伝言版に投稿するのが好きだ。パキ星路線についても僕の感想に誰かが反応してくれるのを楽しみにしていた。
 それがレイターと航路談義をする方が伝言板よりワクワクすることに気が付いた。文字入力では間に合わないのだ。心で湧き上がった思いを伝えると即座に反応が返ってくる。打てば響く会話のやりとりがこんなに楽しいなんて。

 驚いたことにレイターは、パイロットの養成学校に通っていた僕より船の構造に詳しかった。
「あんた、こんなことも知らねぇなんて、バカじゃねぇの」
「君が詳しすぎるんだよ」
「俺、銀河一の操縦士になるのが夢なんだ。あんたはちゃんと夢を叶えてすげぇな」
 レイターに言われて気が付いた。パイロットになりたいという子どもの頃の夢を叶えていたことを。

 そんなレイターが嬉しそうに僕に報告した。
「コルバ、俺も船に乗ること許されたぜ。やっぱ戦闘機はいいな」
 普通なら一般人を戦闘機に乗せることはできない。だが、将軍家の坊ちゃんの許可があれば搭乗できるのだという。将軍家の特権なのだろう。坊ちゃんと一緒に複座戦闘機でパトロールに出掛けていく姿を見かけるようになった

 将軍家の坊ちゃんはレイターと同じ十二歳だが、士官学校をトップで卒業した少尉だ。恐れ多くて話をしたことはない。敬礼する僕の前を静かに通り過ぎていく。
 戦闘機部隊並みの腕を持っている坊ちゃんが後部座席から操縦しているのだろう。レイターを乗せた機体の飛行姿はいつ見ても美しかった。 

 今回、戦闘機部隊の先輩方が前線のフチチで行われる観艦式に参加することになった。戦地だけれど、六年間戦闘は起きていない。そこで曲芸飛行を披露するのだ。僕はまだ見習いだから留守番だ。

 連邦軍には曲技飛行専門のアクロバットチーム『バイオレット・スターズ』がある。通称『バイ・スタ』は戦闘機部隊のエリート集団で軍に興味がない人にもよく知られている。入隊式の日、空に描かれたコントレールの美しい線画に僕は息を呑んだ。今回、その『バイ・スタ』が別任務と重なって参加できないことから、先輩たちの出番となった。

 アレクサンドリア号の先輩たちは正規のアクロバットチームではない。けれど『びっくり曲芸団』の通り名を持ち、軍の中でも存在感を放っていた。   (10)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」