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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(17)量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16
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「……何でそんなこと思うんだ?」
 絞り出すようにたずねると、アーサーは眉間に皺を寄せて黙った。天才でも言葉にするのが難しいことがあるんだ。とぼんやり考える。

 あいつはポツリと呟くように言葉を放った。
「殺気だ。あの瞬間に感じた」 
 そいつは、ダグとカレット爺さんに叱られる。俺は反射的に肩をすくめた。
「アサシン失格だな」
「本気で副長を殺す気だったのか?」
「……」
 いつもなら嘘がスラスラ出てくるのに、釘で打ち付けられたみたいに脳みそが働かない。
「お前、昨晩『赤い夢』を見ただろう。精神的に追い詰められることが何かあったんじゃないのか?」
 まっすぐに立っていられなかった。壁に背中を付けるとそのまま力が抜けて座り込んだ。
「そうさ、あんたの言う通り副長を狙ったんだ」
「どういうことだ?」
「副長が俺にふねを降りろっつったんだよ」
「副長が?」
「ああ、ガキが戦地にいるのが気に入らねぇらしい。施設が嫌なら副長の実家で俺の面倒見てくれるんだとさ。ありがてぇ話だってわかってるぜ、でも、無理だ。施設だろうが副長の家族だろうが、みんな一緒に殺される。ダグからは逃げられねぇ」
「だからと言って、副長を殺す必要はない」
「しょうがねぇよ。ダグから逃れるためにはこうするしかねぇんだ」
「お前にしては珍しいな」
「あん?」
 アーサーの顔を見上げる。
「思考が近視眼的だ。副長が事故死したら、アレック艦長もお前の存在を隠して置けなくなる。ダグ・グレゴリーの耳にお前が生きていることが入るだろう。少し考えればわかる話だ」

 寒い。身体の芯からから黒い氷が俺を凍らせていく。歯の根があわない。全身が震え始めた。
「ゆっくり息を吐き切れ」
 いわれるままに息を吐く。頭の上から毛布が飛んできた。

 光のない真っ暗な部屋に赤いパトライトが点滅する。『緋の回状』が出てからずっと、甘い判断は一切許されなかった。
「潰すならすべて潰す。排除するなら息の根を止める。そうしねぇと、みんなやられる……」

 毛布をぐっと握りしめる。

「お前はダグに殺されることが怖いのではなく、他人を巻き添えにするのが怖いんじゃないのか」
 アーサーの言葉が俺の記憶を呼び覚ます。
 破壊尽くされた故郷のがれきと焼け焦げた臭い。死んだクラスメイトの遺体。学校へ来るな、という教師。お前さえいなければ、と責める大人たち。俺さえ死ねばみんなが幸せになる。
「俺のせいで街はめちゃくちゃになった。俺のせいでダチは死んだ。ダグは俺だけじゃない。俺の周りのすべてを破壊する」
「副長から下船を勧められたことを、どうして僕に相談しようと思わなかったんだ」
「は? あんたに? 忙しそうで話す暇もなかったじゃねぇかよ。それに、あんただって俺がここにいねぇ方がいいと思ってるじゃん」
「否定はしない。だが、社会秩序を維持するためにも、裏社会に狙われているお前をそのまま放置するようなことはしない。僕は将軍家で軍師だ。排除以外にも策はいくらでもある」

 毛布を強く握りしめる。
 温かい言葉でも何でもない、事務的なあいつの発言。俺のための言葉でもねぇ。けれど、震えが治まってきた。凍り付いた真っ黒な氷が少しずつ体から溶けていく。

生成AIで作成

 今、俺を刺したら黒い血が流れるに違いねぇ。
(18)へ続く


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