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銀河フェニックス物語<少年編> 第十五話(20)量産型ひまわりの七日間

 銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>第十五話「量産型ひまわりの七日間」(1)  (2)  (3)  (4)  (5)  (6)  (7)  (8) (9) (10) (11) (12) (13) (14) (15) (16) (17) (18) (19
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 さて、どうしたものか。捕虜の身ながらトレーニングルームへの出入りを許可され、部屋から出るチャンスは得た。

「あなたが六年間鮫ノ口で行ってきた任務を、人権委員会でお話しいただけないでしょうか」

 彼の提案後、尋問の時間はなくなった。自分に回答権を委ねているということだ。
 あの少年は忙しいのだろう。トレーニングルームの見張りはヌイ軍曹と屈強な兵士に変わった。
 背の高い兵士は戦地を潜り抜けてきた目をしていた。敵を殺すという軍人の仕事を自分と同じように経験しているのだろう。彼は躊躇なく自分を殺せるに違いない。

 ランニングマシンの上を走りながら少年の提案について考える。
 もちろん、我が同盟軍を裏切るような真似はできない。だが、V五型機のデータが消せなかった場合、みすみす連邦に渡すよりは第三者機関である人権委員会を利用する手はある。

 かつて、フチチの首都大空襲について、「虐殺」という犯罪行為と認定するか、第三者機関の人権委員会で審理が行われた。結論はあいまいなまま政治決着した。
 自分が行った行為が「虐殺」と歴史に残らなかったことに安堵した。だが、胸につかえた闇は消えなかった。あの爆撃の炎の下で何万人というフチチの一般市民が死んだ。その命を奪ったのは自分だ。
 自分に石を投げつけた女の子に睨みつけられる夢を今も見る。

 フチチ侵攻で目にしたことは家族にも話していない。自分は子煩悩で音楽好きなどこにでもいる父親だ。虐殺に加担する非人道的な人間とは思われたくない。
 娘はどれだけ知っているのだろうか? 父親がフチチ大空襲に参加したことはわかっている。学校ではフチチ侵攻は市民を王政から解放するために必要だったと教えているはずだ。
 それは嘘だ。我が軍の目的は、市民の解放ではない。鮫ノ口のデータ取得だ。
 真実を知らないこと、それは正しいことなのだろうか。

 『亜空間破壊兵器』を我が軍が手にしたら、この戦争はどうなるのだろう。宇宙の破壊につながる兵器だ。持っているだけで優位となる。戦争を終わらせることができるかもしれない。
 だが、もし使用した場合、フチチ大空襲どころの被害ではおさまらない。背筋に冷たいものが走った。
 人類は手にしていけないものを掴もうとしているのではないだろうか。人権委員会ならその使用を止めることができるのだろうか。自分が告発すれば事態は変わるだろうか。

 足が重い。息が上がってきた。体力が落ちているな。
 体調不良を訴えたらどうなるだろう。医務室へ運ばれる途中でV五型機に近づくことができるだろうか。いや、仮病が通じるほど甘いとは思えない。だが、もし、自分がここで死ねば……
「部屋へ戻る時間です」
 ヌイ軍曹の美しいアリオロン語で、トレーニングの十分間は終わった。
(21)へ続く


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