読書感想 『おつかれ、今日の私』 ジェーン・スー 「読むセルフケア」
著者が土曜日の夜に、いわゆる「人生相談」のラジオ番組をやっている頃は、よく聴いていた。そして、すごいと思っていた。毎日、昼間の帯番組を始めてからは、あまり聞かなくなった。
それは、もともと持っていた「ジェーン・スー」という人の“出力の高さ”を十分に発揮し始めたから、より多くのリスナーにも届くようになった、ということなのだろうし、それは当然で健全なことだと思った。
だから、聞かなくなったのは、自分自身の出力の低さのため、そういうエネルギーを受け止めきれなくなった、というだけなのだろうと思いながらも、なんとなく遠い存在になっていった。とても個人的で勝手な事情だと思う。
『生きるとか死ぬとか父親とか』を読んで、それがドラマ化され、どちらも、これまであまり描かれていなかったことをきちんと伝える、という意味でも、とても貴重な作品だと感じながらも、それ以降は、著書を読む機会も減っていった。
それが、久しぶりに読みたいと思ったのは、ラジオで話しているのを聴いたからだった。とても意識的に、要求されることと、自分がしたいことのバランスをとりながらも、必要であれば自分を変えていく。そんなことを、これだけのキャリアと実績を持ちながらおこなおうとしているのを知って、改めてすごいと思った。
そして、読みたいと思ったうちの一冊が、「おつかれ、今日の私」だった。
『おつかれ、今日の私。』 ジェーン・スー
言語化という言葉は、かなり一般的になった。
このことは、本当に追い詰められている時は難しいとしても、普段から、自分の気持ちを明確にしようとしている習慣は、その悩みが巨大だとしても、その行為によって、ほんの少し距離をとれるはずなので、有効だと思う。
ただ「言語化」という言葉だけにこだわると、その作業がマニュアル化されそうな危険性もあるので、「言語化」という単語だけではなく、「気持ちを言葉にする」という表現も併用した方が、負担になりにくい気もする。
そんなことを考えたのは、この著書を読んで、ジェーン・スーの「気持ちを言葉にする」作業の的確さはすごいし、改めて大事なことだと思ったのは、「言語化」する対象が、おそらくは他の人たちだと、通り過ぎてしまいそうな気持ちだったせいもあるはずだ。
例えば、婚活の時のしんどさについて。
しかも、理由も挙げている。
この分析はおそらくは正確だと思う。その上、その状態になっていることも、最後の一文で、肯定している。
こうしたことができるのは、やっぱりすごい、と思った。
過去の感情の意味
過去の出来事についても、考え続け、その意味を明確にすることで、現在からの見え方まで変えるようなこともしている。
若い頃のジェーン・スーが、本人にとっては大きな仕事を任されることになり、それを受けるかどうかで迷っていたときがあった。そんなときに当時、付き合っていた10歳年上の男性に言われた言葉があった。
それに対しての割り切れない気持ちがあって、だけど、それがどうしてなのか、本人でもはっきりしなかったのが、かなりの時間がたったあと理解できた、という。
おそらく、この男性のようなセリフは、今でも(多くは年上から年下へ向けて)言われているような気がするし、こうした言葉は愛情があるがゆえに、それに対してもやもやしたとしても、うまく言葉にできないかもしれない。
それが、こうして明確に表現してくれたことで、ジェーン・スーと同様に、自分の気持ちへの理由がわかることで、事態や過去は変わらなくても、その意味に変化は訪れるように思う。
過去と現在の自分
自分が年齢を重ねることで、若い頃と比べると、こだわりがゆるんだり、突き詰める気力も体力も減って、結果として、どこかいい意味での「適当さ」を身につけることは多い。
確かにそうだろう。だけど、そこに至るまでの年月も、もちろん無駄ではないことも指摘している。
歳を重ねて、「ま、いいか」をうまく身につけて、それで自分が楽になって、ということまでは、これまでも比較的、聞いたり読んだりしてきた記憶はあるが、その今のために、若い頃の自分も労うことで、ベテランの世代も、現在、執着するほど頑張っている若い世代の両方を、同時に肯定していることになる。
とても必要なことだと思う。
ねぎらいの文章
ジェーン・スー自身にも当然だけど変化があったようだ。
ただ、時代も変わり、さらには、未知のウイルスまでやってきた。だから、この文章は、はっきりと狙いを持ち、今までの自分とは変えることを決意したという。
そう思っても、それを実現するのは、かなり難しいのだけど、それを可能にするのが技術と経験であり、出力の高さというエネルギーの強さなのだろうと、改めて思った。
例えば、「最近、なんにも報われない」という状況にいる人に対して、とても丁寧に言葉を重ねている。
そして、そのすべてを丸ごと聞ける人は、まずいないという前提もきちんと指摘し、誰かや何かへの過度の依存的な行動を抑止した上で、さらに話を続けている。
こうした提案だけではなく、様々な状態にいて、傷ついている人への労いの言葉は豊富に、この書籍の中にある。読むことで「セルフケア」へのきっかけはつかめる文章が揃っていると思う。
(こちらは↓、電子書籍版です)。
(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。
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