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【オンラインイベント感想】 『保坂和志の小説的思考塾 #17』---山本浩貴という特異な作家

 時々、この「小説的思考塾」には「参加」する。

 とはいっても、実際に現地に行ったのは一回だけで、その後はコロナ禍になったこともあり、オンラインイベントになり、そのうちにリアルと、オンラインのハイブリッドになり、オンラインだけで行われることもあった。

 毎回、どうしようかな、と思うのだけど、保坂和志というのは、現代では、小説そのものについて考え続けているような、そういう特殊で貴重な小説家なので、オンラインといっても、ここでしか触れられないような言葉や思考があるので、やっぱり「参加」することになる。


特殊な感覚

 2024年6月23日にイベントが行われ、だけど、その時には個人的には都合がつかず、数日後に視聴した。アーカイブは1週間。だから、少し油断すると終わってしまう。

 まだ、本格的にトークが始まっていないときに、保坂和志が、その登壇する場所で、スマホによって配信の画面を見ていて、その遅れについて話をしている。

 リモートの方が数秒どころか、30秒遅い。

 そのことに新鮮に驚いている。

 周囲のスタッフは、それをこうした配信における「遅延」というよくある現象として伝えているが、そのことを理解していないわけではないのだけど、という前提で、この30秒遅いことで、普段は感じられない感覚について、話しているように見える。

 違う世界、という言葉も出ていたから、こうした配信の「常識」のようなものに慣れていると思われる周囲の人たちと、その気持ちは共有できていないようにも思えた。

 それは、テクノロジーを知らない、ということではなく、目の前に起こっていることを、そのまま見ることができる特殊な感覚のようにも感じた。

様々な言葉

 途中で30分ほどの休憩時間も含めて、約3時間。

 今回は、保坂和志山本浩貴(いぬのせなか座)が登壇し、その話題の中心は山本のデビュー作についてだった。

 これを含めて3部作が予定されているから、とても異例なことではあるのだけど、保坂和志が、この「小説的思考塾」に呼び、話をするのだから、その内容も、ただものではないのはわかる。

 例えば、山本は、「新しい距離」の中で、大江健三郎の作品の「文学ノート」についてまとめてくれていて、本編を読まなくてもいいくらい、と保坂が語る。

 さらには、山本の論じ方の特殊さについて、大江健三郎が作品中で使っている言葉だけを使って論じているという。それは、大江の作品全てが山本の頭の中に入っていることではないか、とも保坂は指摘する。

 もう、これだけで、何かすごいことを言っているのはわかるものの、これまでと違って、どうすごいのか、といった具体的なイメージはわきにくい。

 ピカソは、日常的な気持ちで見ても、意味はない。ある気持ちに行かないと、わからない。絵でも、ダンスでも、芸術でも。

 そんな話を保坂がすると、山本が、こんなふうに反応する。

 生態心理学。周囲の環境。環境の束。
 自分だけでできてない。環境の束と、その人の行為の周囲から把握不可能な結合関係のこと。

山本浩貴という特異な作家

 もう、何だかわからないような気もしてくるが、そんな視聴者の気持ちが通じたように、保坂和志が、こんな言い方をしている。

(山本)浩貴の文章を読んで、連想はしてもいいけど、解釈はしてはいけない。解釈は置き換えてしまうから。その通りの言葉でないと理解できないから。評論家などは、自分の言葉で置き換える。それは歪めもするし、小さくもしてしまう。
 分からなければ、また時間をおいて読めばいい。

 まずは、山本浩貴の「新しい距離」を読まないと、何も始まらないのかもしれないし、読んでも、わからなくて進めないだけかもしれない。だけど、解釈をしない、という基本的な姿勢は、こういう機会でもないとずっと知らないままだったから、それだけでも有意義かもしれなかった。

 他にも、断片で書いても意味がないかもしれないし、記憶に頼っているから詳細は違うのかもしれないが、いくつかの言葉が印象に残った。

優秀なやつには、若い頃から、自負があって当然。それを馬鹿にしたりしてはいけない。

短歌は、若死にに、関係していた時期があると思う。

「個人的ノート」について、ハッピーエンドだから、ダメという批判を受けた。
 でも、ハッピーエンドじゃないものを書いて、自分だけで読んで、
 こっちじゃないと大江健三郎は確かめたらしい。それは偉い。

 他にも、いろいろなことが語られ、バラバラなようでつながっているようにも感じたのだけど、視聴する側が耳慣れないことに対応できないせいで、あまり覚えられなかったのだと思う。

 それでも、こういう経験は貴重なので、わからないかもしれないが、次回も、できる限り、この「小説的思考塾」には「参加」したいと思っている。







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