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「気がついたら、とらわれていること」------『小説的思考塾 vol.12〈保坂和志 + 山下澄人:対話篇〉』

 参加するときには、いつも、ある種の戸惑いがある。

 これを視聴することは、何かに具体的に役立つわけではない。それに、全部を理解できることは、まずない。

 だから、戸惑いというよりは、ちょっとした怖さというものなのだろうけど、未知、というのは、そういうものだし、そういう経験(といっても画面を視聴するだけですが)を持てる機会は、どんどん貴重になるのだから、経済的には厳しいとはいっても、自分にとっても必要なことだと思う。

 そんなふうに、自分に言い聞かせるようにして、配信にお金を払うことになる。


山下澄人

 今回、その視聴動機には、対話の相手の山下澄人の存在も大きい。

 その小説は、読むたびに、何だか分からない気持ちになって、次はもう少し何とかなるかもと思って、読んで、それが分からないを繰り返して、5冊を読んでいた。

 『ギッちょん』『ルンタ』『ほしのこ』『新世界』。

 自分の感想自体も、よく分からないことを書いているけれど、でも、ここにしかない小説、ということだけはわかる気がした。それも気のせいかもしれないけれど。

 自分にとって、もっとも最近読んだのが「月の客」だった。それを読んだとき、こんなことを書いてしまった。

 誰かが、山下澄人の作品の中でも、とてもシンプルで、本質的だと思う、といった感想で、読むことにした。
 シンプルだけど、繰り返しだったり、壮大だったり、年月が容赦なく進んだり、まるで輪廻転生のような印象を受ける。
 よくわからないけれど、こんな小説があることは、なんだかすごいような気がする。

 そういう人と、保坂和志が「対話」をするから、その内容の推測自体が難しい、というよりも、そんな予断はいらないのだろうとも思った。

小説的思考塾 vol.12〈保坂和志 + 山下澄人:対話篇〉

 画面で見た二人のたたずまいは、なにしろ、動じない感じはした。

 そして、最初の方の話題は、「いま話題の」AIについて、だった。

(ここから先は、自分の記憶と印象に頼っています。詳細の違いについては、すみません。)

 AIが書くことについては、基本的には、どうでもいい。

 AIが脚本を書く。仕事取られた。取られたらしょうがない。自分だって、誰かから、仕事をとっているんだから。

 いいか悪いかを決めるのは、本人。それができる人じゃないと、AIに勝てない。

 不便というのは、ないのではないか。

 アメリカの脚本家が、本当の愛はAIには描けない、というけれど、じゃあ、自分たちは書けているのか。書けてないから、取られるのでは。

 だいたい、AIで書いた小説でよければ、それでいいのでは。

 人間同士の会話だって、考えていない。退屈な人。みんなが言うことしか言わない人がいる。

 AIは、小説書けない……。


 やはり、あまり聞いたことがない視点の言葉が、保坂からも山下からも出ていた。

身体のこと、言葉にできないこと

 特に山下は、武道について詳しく、その話も続く。

 気を使っている。筋力じゃないんです、と力説。筋力以外の全ての力。それも張り巡らせることができる。ブルース・リーのことにも触れている。

 古武術も、言葉で伝わっていない。
 師匠の脳波をうつすのだと言われている。

 無文字社会。文字無し文化。
 それを下に見るけれど、そうじゃない。
 字がある社会が限界にきている。

 無文字社会。の大事さ。

 今日話した中で一番大事なのは、文字無し社会のこと。一番大事なことは、言葉じゃないんじゃないか…。


 ここに記録しているのは、ごく一部であり、私という視聴者の理解の限界もあるのだけど、二人の対話は、そんな話になった。「小説的思考塾」というタイトルで、ほぼそんな結論のようなことになるのは、やっぱりすごいと思う。

とらわれる、ということ

 最後の方で、保坂が珍しく、自分が衰えてきているから、もっとちゃんとやらないといけないのではないか、といった話をした時、山下が、それは、何か罠にハマっているんじゃないですか、と返した。

 保坂でさえ、そうしたとらわれに襲われることがあるのだから、それを見ている視聴者としては、自分が、どんなことにハマってしまっているのだろうか、と考えてしまった。


 おそらくは、こうした紹介は、足りないことが圧倒的に多いのは自覚しているし、それこそ、言葉で伝えるのは難しいので、できたら、この「小説的思考塾」を視聴してもらうのがいいと思っています。



(この山下澄人の人生相談↓も、視点が変わるような気持ちになれます)




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