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「古代中国の理想」は、日本の飲食店で実現されていないだろうか。

 古代中国で、理想の皇帝の継承「禅譲」だと言われていて、そのことを、それほど熱心に歴史を学んだわけでもないのに、何だかよく覚えている。

禅譲

禅譲は、有徳の者を選び出して天子の位を譲る平和的交代の方式であって、堯(ぎょう)から舜(しゅん)、舜から禹(う)への交代が理想とされる。「禅」も「ゆずる」の意。」

 それは、権力の多くは、「世襲」という方法で、親から子へと受け継がれることが圧倒的で、今の日本社会も、政治の世界は、典型的な「世襲」になっているから、「ふさわしい徳をそなえた人物に権力を譲る」といった形式が、余計に、素晴らしいものに思えてしまうから、「禅譲」のことを、思い出すのかもしれない。

同志社大学の飯田健教授らの論文によれば、「世襲議員は国会議員全体の約3分の1を占める」とのことで、「オーストラリア、韓国、イギリス、アメリカなどの民主主義国家では(世襲比率は)5~8%」(ジャパンタイムズ)と比べても圧倒的な高さ

「平成以降の総理大臣の7割が世襲政治家」と、世界的に見ても、日本の政界は異形のファミリービジネスそのものといえるでしょう。

しかし、同論文によれば、世襲議員の割合は「1960年には全体の約3%と、非常に小さいもの」でした。

 この世襲率の高さが、現代の日本の様々な問題点と関係あるような気もしてくるけれど、投票率の低さから、政治への諦めが進行しているような現状では、この割合が高くなることはあっても、低くなることはないのでは、と思うと、いやでも気持ちは暗くなる。

 それでも、今のように「世襲率」が高いのは、ここ50年で進んだ「最近」のことだと考えると、まだそれほどの「歴史」ではない、とも思う。

常連客

 そうした権力の世界とは別に、飲食店では、こうした例↓を聞くことが少なくない。

青森県内の優れたものや取り組みに迫るキラリ逸品。今回は、青森市にある極太麺の中華そばです。100年以上続く老舗の味を常連客だった女性が弟子入りして引き継いでいます。

 もちろん、多数であったら、ニュースにならないので、確かに少数の例かもしれないけれど、飲食店などが「後継ぎがいないから店を閉める」といったときに、その味がなくなることを惜しんだ「常連客」が店を継ぐ、ということは、他にも聞いたことがある。

 それは、その店の「味」を継ぐだけではなく、店構えや、店の持っていた雰囲気も含めて、維持していこうとするならば、それは「志」までも継承する、ということになるのだろう。

 それでも、多くは親子で店が継がれる「世襲」の方が多いはずだけど、「常連客」という「他人」が、こうした「志」までを継ぐことができたとしたら、それは、古代中国の理想でもある「禅譲」にかなり近いのではないだろうか。

 もし、その後継者が「志」や「能力」や「徳」を持ち、その飲食店を、さらに発展させたとしたら、そのときには、本当の意味で「禅譲」と言えるのだろうけど、「世襲」ではなく、全く血筋ではないところから、後継者を選んだ時点で、その飲食店は、大げさに言えば、世界に開かれた選択をしているのではないだろうか。

ソフトバンク

 それほど詳しく知らなくても、一代で大企業を築き上げた人として、孫正義の名前は知っている。

 創業者社長は、自分の乏しい記憶の中でも、多くは自分の子供に「社長業」を継がせたがり、そして、そうした一族経営の企業の大部分は当然のように「世襲」を採用しているはずだ。(政治家の世襲が多いのも、感覚が似ているのかもしれない)。

 それは、ある意味では、他人を信用しないという、慎重さとも言えるかもしれないけれど、ここ何十年かでも、最も有名な創業者社長・孫正義氏が、後継者を世襲で選ばないらしい、ということを知ったのは何年も前だった。

 これまで孫氏の後継者はいくつもの名が出ては消えていった。

 2014年、孫氏はグーグルの最高事業責任者だったニケシュ・アローラ氏をヘッドハンティングし、「最重要後継者候補」として副会長に据えた。同氏には総額300億円を超える報酬を与えたが、2016年6月に電撃退任。最近でも、孫氏が招聘したマルセロ・クラウレ氏など、後継者と目された3人の副社長は次々に孫氏のもとを離れている。だが、ここにきて冒頭の発言が飛び出し、後継レースが慌ただしくなってきたのだ。

 経済ジャーナリストの森岡英樹氏は「日本人後継者」を予想する。

(「マネーポスト」WEB)

 私の知識は、恥ずかしながら、2014年の時で更新されていないので、華々しく招いた人物が、会社を去っていたのは知らなかった。それでも、「世襲」ではなく、「能力」で後継者を選ぼうとしているのは事実のようだ。

 こうして、創業者社長が、「世襲制」を採用しないのは、実は、かなり画期的であって、もしかしたら、孫氏は「禅譲」的なことをイメージしているのかもしれない。

 
 だとしたら、孫氏はこれからも敬意に値する経営者として、長く語り継がれていく可能性もある。

「禅譲」まではいかないとしても、「能力」を主として「世襲制」を採用しないという選択をすることは、実は思った以上に、すごいことではないだろうか。

 「世襲」ばかりが多い現状を見ていると、そんなことを思ってしまうのだけど、それは的が外れているのだろうか。




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