『私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない』---ワコウ・ワークス・オブ・アート(六本木)。2024.5.17~6.29。
この「私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない」という、とても強くて、しばらく忘れられないような言葉は詩の冒頭だった。
そういう詩が存在することを、この展覧会で初めて知った。
ギャラリー
30歳を越えてから、急にアートに興味を持つようになって、その中でも特に現代アートといわれる作品を見るようになったのは、今も生きている作家が制作しているから、自分にも近い感覚があったからだと思う。
美術館だけではなく、ギャラリーにも足を運ぶようになったけれど、最初は、とても敷居が高かった。ビルの中のガラスの向こうなどにふと広いスペースが開けていたり、もしくは古くからのビルの一室のような場所に急に現れたり、アートに慣れていない人間にとっては、とても異質な空間で、入り口付近には受付があるものの、だいたいは静かに背筋を伸ばしている人が座っていたり、もしくは、誰もいないことも少なくなく、最初は入っていいのかどうかが分からないくらいだった。
そのうちに慣れてくると、見たい作品があるときは入り口で軽く会釈などをして入れるようになったし、外側から知らないギャラリーを見つけて、そこに魅力的な作品が見えた時も、入り口を見つけて入ることができるようになった。
基本的にギャラリーが無料なのは、コレクターなど作品を購入する可能性がある人に見せるためだから、といったことはわかっているつもりなので、見る方に徹しているだけの、経済力のないただの観客だから、といった少し遠慮する気持ちもある。
時々、分からないことがあり、そこにスタッフの方がいるときは、作品のことを聞いたりする。それは、意味を知った方がその作品の理解が深まるし、それによって視点が変わることもあるからだ。
ただ、その会話のせいでコレクターでは?と思われてしまい、ギャラリーの奥から桐の箱に入った作品を持ってきてもらうこともあり、そういう時は、何十万円の作品を購入する力は、恥ずかしながら全くないので、恐縮してしまう。
だから、どこかで入場料を支払って鑑賞している時とは違って、ギャラリーでは微妙な緊張感が今でもあるかもしれない。
ワコウ・ワークス・オブ・アート
ギャラリーは、その事情はよく分からないけれど、移転が多い印象があって、ワコウ・ワークス・オブ・アートも別の場所から六本木に移ってきて、それもビルの中には他のギャラリーもあって、個人的には人が多いところは避けたくなるので、やや行きにくい勝手なイメージがあるけれど、でも、ゲルハルト・リヒターの作品が見られる、ということで行ったことがある。
六本木という場所。その中でピラミデビルという、特殊な形の建築物。何度行っても、階段などの位置がわからなくなって、ちょっとウロウロする。
それでも、それほど数多く行ったわけでもないのだけど、このワコウ・ワークス・オブ・アートに入ると、ちょっと背筋が伸びるような気がしていた。
私が死ななければならないのなら、あなたは必ず生きなくてはならない
こんな直接的で強い言葉のタイトルの展覧会は珍しく、だけど、とても印象に残るから、さまざまな展覧会を紹介するサイトでも目にとまる。内容を知ると、行ってもいいのだろうかといった気持ちにもなる。
だけど、やはり行こうと考え直し、六本木に向かい、ビルの階段を上がり会場に入ると、思った以上に人が多く、だけど静かな空間だった。
どうしても奈良美智の作品がすぐに目に入ってしまうのは、これまで見てきた作家だから、というのもあるけれど、このギャラリーのそれほど広くない空間には、ポスターがあり、版画があり、ドローイングも、立体作品も、絵画もある。
パレスチナ出身のアーティストや詩人に関しては、失礼だけど、ほぼ知らなかった。もしかしたら、ガザ侵攻がなければ、こうした作品に触れることもなかったかもしれない。
作品も、静かで、それがこの空間の気配をつくっているようで、でも力も感じて、さらにいろいろなことを思ったのは、その背景を考えてしまうからで、こうした大きな出来事に対して、自分は何もできないし、していない。といった後ろめたさもあったけれど、その会場にある詩や言葉は、ただ、他の場所で読むよりも、こうして作品に囲まれている中で接したことで、知らない人であるのに、そこで話されているように感じるから、しばらく自分の中に残るような気がする。
何かを言えない。
そんな気持ちになるが、いったん出て、他のギャラリーを見てから、再び、この空間に来る。少しとどまる。
整えられたハンドアウトもありがたくいただく。そこには言葉があった。
ギャラリーにあった本も読んでみようと思った。
自分は、本当に何も知らないことを知る。
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