見出し画像

読書感想 『告発と呼ばれるものの周辺で』 小川たまか  「声を上げ続けた成果」

 今から3年前にも、同じ著者の書籍を紹介させてもらった。

 そのときに理解できないと思っていたことが、今は少しわかったような気持ちになれるのは、それだけ、社会が変わってきたのだとは思う。

 ただ、その変化は、権力側にいるような、「力」がある人たちが積極的に啓発をすすめてきたというのではなく、著者のような当事者視点の人たちが、私のような立場では体験できないような誹謗中傷を受けながらも、それでも声を上げ続けた成果なのだと、同じ著者の書籍を読んで、改めて思った。


『告発と呼ばれるものの周辺で』 小川たまか

 やはり自分が見えていない視点だと思う。

 同時に当事者性という意味では、自分が家族の介護をしている時に、その理解のされなさに、どこか共感する場合もある。

 ただ、性犯罪について、被害者が実際の被害のあとに、こんなにひどい目にあう国であることは、改めて知らないことがわかった。それは自分にも当然関係があるとは思うけれど、無知であることも罪の一つだと感じるほど、被害者が過酷な状況にいるのも、伝わってくる。

性犯罪の被害者はバッシングを受けやすい。他の犯罪被害者に対しても、社会に声を上げる人は冷たい視線が浴びせられがちだが、性被害者に特に見られる傾向は、被害者がウソをついていると言われることだ。被害の証拠が残りづらいことは、当然ながら加害者を利する。被害者は過大申告をしているとも言われ、実態に反して被害はごくレアケースだと受け止められている。社会は知らずしらずのうちに加害者に加担している。 

 男性というだけで、性犯罪に関しては、やはりどこか遠いことだったような気がしているが、実は、すぐそばで、それに近いことは行われてきたのだろうし、それに対して無関心だったのは事実だと思うし、そういうことで「加害者に加担」してきた部分もあるのだろうけれど、それについては、自分では、まだ見えていないとも思う。

 例えば「リアルナンパアカデミー」という、性犯罪まで起こした団体のことも、そういった犯罪が表沙汰になるまでは、それほど厳しい視線を向けられていなかったのではないか、と想像もできる。
 それは、もし、そうした団体に知人や友人が属したとしても、犯罪として明らかにならない限りは、自分自身も、それほど「悪いこと」として見ていなかった可能性もあるからだ。

若い女だったら誰でもいいのだ。彼らは、顔面が今風だったり、胸部が突き出ていればなおさらいい。「レベルの高い女」とヤったことになるから。だから外側については異常に気にするが、中身についてはほとんど考えていない。考えていないというか、同じだと思っている。 

 この文章について、ここまでひどく、これほど露骨ではないにしろ、特に若い頃には、これに近い発想をしていたこともあったはずだから、それは自分とも無縁ではないと改めて思う。

様々な偏見

 例えば、性犯罪について、被害者が抵抗できなかったことが、裁判などで性行為に同意した、と見られることも多かった。だけど、その「抵抗」について、専門的な研究によって明らかになってきたこともある。

 被害者心理の第一人者と言われる小西聖子さん  

襲われた際に被害者が(中略)動けない状態に陥ることが最近の研究で明らかになってきたと紹介。また、被害者は被害時の様子を淡々と冷静に話すことがあり、これは「感情の回避(感情の麻痺)」とも呼ばれる当然の反応なのだが、冷静に話す被害者は疑われやすいことを指摘した。 

 大変な目にあった人ほど、そのことについて、とても淡々と話す傾向はあるとは思っていたが、こうした研究成果が、きちんと「常識」になっていけば、性犯罪の見られ方や、判決なども、少しは変わるのではないかと思っている。

 もしかしたら、こうした蓄積によって、少しずつ変化が起こっているのが「現在」かもしれない。

私は取材中に、60代くらいの男性から、「今の女性はちやほやされたいから働き続けたいなんて言う。そういう女性が増えたから児童虐待が増えた」と言われたことがある。

 それでも、ただの「偏見」としか思えない、様々な「視点」は、今もあちこちで健在で、それを私が知らないのは、中年男性という立場だからで、「偏見」をぶつける人は、その相手を巧妙に選別しているのだろう。

 そして、こういう「60代くらいの男性の偏見」は、著書のこうした指摘↓と関係があるようにも思う。

 抗うことのできないタテ社会の中で、企業戦士という名の奴隷になった男性たちは、誌面上だけでも上司を「いびる」ことで鬱憤を晴らそうとし、そして自分たちにも奴隷が欲しかったんだろうと思う。上司は実際にはいびれないが、女という奴隷をどれだけいびっても大して怒られなかったのだろう。声を上げる女性に陰湿な攻撃が行われるのは、「奴隷が偉そうに」と思っているからだ。
 ご存知のように、奴隷いびりは今も続いている。

変化

 それでも、変わってきたことはある。

個人的な感覚としては、2012年から2014年にかけて少し風向きが変わった感覚があった。安倍政権が「女性が輝く社会」を掲げた。もちろん賛否があるが、これによってマスコミが女性関連の問題や施策を取り上げる機会が増えたのは間違いない。

 そして、何より、著者のような当事者が、発言を続けてきたことで、性犯罪についての社会の関心のあり方は、変わりつつあると思う。

 性被害経験のある人が、それを一番身近な、信頼できる人に話すこと。それだけで少し世の中は変わるんじゃないか。もちろん被害経験のある人全員にそうしろと言いたいわけではない。でも信頼する人に話すことができれば、それによる変化は必ずある。ブログ記事を書いたときから今までずっとそう思っているし、それは楽観だと言われてもなるべくなら相手の知性を信頼することを基準にして行動していきたい。

 特に、性犯罪は自分には無縁だと思っている男性ほど、読んでほしい本だと思います。



(こちら↓は、電子書籍版です)。



(他にも、いろいろと書いています↓。よろしかったら、読んでもらえたら、うれしいです)。



#推薦図書    #読書感想文    #告発と呼ばれるものの周辺で
#小川たまか   #性犯罪   #性被害   #性加害
#裁判   #法律 #常識   #性暴力   

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

記事を読んでいただき、ありがとうございました。もし、面白かったり、役に立ったのであれば、サポートをお願いできたら、有り難く思います。より良い文章を書こうとする試みを、続けるための力になります。