坂の上道太郎

小説好きの丸の内金融系サラリーマン。日々暇すぎて勢いでショートショートを書いてみた。思…

坂の上道太郎

小説好きの丸の内金融系サラリーマン。日々暇すぎて勢いでショートショートを書いてみた。思いつきの掃き溜め場。 伊坂幸太郎とオードリー若林が好き。週に一回は更新したい。

最近の記事

ショートショート王様 #毎週ショートショートnote

またダメか。 平々凡々の大学3年生で就活中の僕は、これまでに50社に書類選考で落とされていた。 ある晩、お酒を飲みながら憂さ晴らしに通販サイトを見ていると面白いものを見つけた。 「ショートショート王様になれる権利」 就活のネタにしようと、よく説明も読まずに勢いで購入ボタンをクリックした。 翌日、応募書類を書いていると、いつもと違う自分に気づいた。400字の志望動機が面白いように書けるのだ。その日に10社分提出したところ、なんと全て書類選考を通過した。面接も、ショートシ

    • 【ショートショート】植物との愉怪な会話

      天才発明家Aは植物と会話できる翻訳機を開発することに成功した。 Google翻訳を少しチューニングすれば容易に実現できる技術で、発明家Aは誰も気付かなかった着目点に気付いた自分の視点に興奮していた。 発明家Aはこの技術で億万長者になろうと考え、手始めに有名になるべく、発明したその日のうちにテレビ局へ売り込みに行った。 発明家Aと話をしたテレビプロデューサーBはこの技術を大いに面白がった。 これは視聴率を狙えるぞと考えたテレビプロデューサーBはその日のうちに、発明家AとA

      • 【ショートショート】命懸けの漫画の連載

        僕は漫画家の「山田X」。大学在学中に大手編集者が主催するコンテストでグランプリを受賞し、作家としてデビューしたのは5年前のこと。 当時は、家族や友人から才能があるともてはやされていたが、なかなかヒット作を出せず、いつしか周りからは腫物を扱うような目で見られるようになっていた。 そんな僕を編集者の田中さんはデビュー当時からずっと支えてくれていた。実は田中さんは僕のペンネームの「山田X」の名付け親でもある。ここ数年は、田中さんと相当に意見を交わし、かなりの量のネームを書

        • 【ショートショート】地球温暖化は勝利のサイン

          ある銀河系に気候が極めて安定した惑星Aが存在した。 そこでは、北半球・南半球を問わずあらゆる場所で季節の変化がなく、気温は25度程度、湿度は60%程度、日差しは良好の気持ちの良い気候が保たれていた。 そんな惑星Aで、ある悪事を企てる悪の組織Bが存在した。 その悪事とは、世界中に超大型空調を設置し冷風を送り続ける事で、惑星Aを氷河期にして、惑星の生物を絶滅させようというものだった。 悪の組織Bは、超大型空調を秘密ネットワークと接続し、きたるXデーに世界中に配置した空調の

        ショートショート王様 #毎週ショートショートnote

          【ショートショート】戦争なんてするもんじゃない

          「諸君、戦争の始まりだ」 R国大統領であるプーテンは開戦を宣言した。反対勢力に加盟する事を決議したU国を許すことは出来ないとして、プーテンはU国に対する侵略を決めたのだった。 一連の宣戦布告の様子はカメラを通じて全世界へ配信され、その映像を見た世界中の人々は今後の行方に目が離せなくなった。 連日、殺される人々、破壊される都市の映像がプーテンには送られ、戦勝報告がなされていた。たまに側近による情報の取捨選択の精度が低く、アベンジャーズの「アイアンマン」が映り込んだ明らかな

          【ショートショート】戦争なんてするもんじゃない

          【ショートショート】イマドキの部下

          上司は部下の事を理解する事は出来ない。古今東西、いつだって上司の悩みは普遍的だ。 それは2100年のA社でも例外ではない。 A社の課長は頭を抱えていた。今年の4月に新しく入ってきた新入社員Bをどう扱って良いのか見当がつかないのだ。自分たちの世代の常識が全く通じず、まさに打つ手なしという状況だった。 課長は自席にドカッと座り貧乏ゆすりをしながら、これまでのBの様子を思い出していた。 * 入社以来、Bは業務中だというのにいつも携帯をいじっていた。B曰く、最近は携帯でメモを

          【ショートショート】イマドキの部下

          【ショートショート】チーズトーストは愛してるのサイン

          自堕落な生活を送っている俺に習慣が出来た。 普段大学に通う以外はサークルにも入らず、バイトもせず、無為に時間を過ごしていた俺にだ。ただ、習慣と言ってもジムや勉強、早起きのような有意義なことではない。それは、シズラーに毎週土曜の夕方に通うことだ。 シズラーとはアメリカ発祥のレストランチェーンで、サラダバーを売りにしている。そして、食事を頼むとタダでチーズトーストが付いてくる。 実はシズラーに通うことが習慣になっていると言ったけど、もっと正確に言うとシズラーでチーズトーストを

          【ショートショート】チーズトーストは愛してるのサイン

          【ショートショート】VR墓参り

          「なあ、今年はこれで済ませないか?」 私はパソコンの画面とVRゴーグルを見せながら、妻に声をかけた。 * 暑さというより痛さを感じる直射日光が降り注ぐ夏がやってきた。 7月の梅雨は長く今年は冷夏だというニュースもあったが、どうやら嘘らしい。 40度近い気温に達する地域もあるようで、どう考えても猛暑だ。 この地域は幸い暑さはそれほどでもないが、直射日光を強く感じる。 また晴れの日が続くので、ちょっと怠惰な私にとっては神様に外出しろと言われているようで、少し後ろめたさを感じ

          【ショートショート】VR墓参り

          【ショートショート】バスの停車ボタンの秘密

          僕はいつものように池尻大橋の大学に行くため、家の前のバス停でバスを待っていた。 昼前の11時13分。それが目的のバスの出発時間だ。 水曜日は午前中の授業がないから、朝寝坊して家を出ることが出来る。 ちなみに池尻大橋に向かうなら三軒茶屋駅で電車に乗れば良いと思うかもしれないけど、駅まで家から徒歩15分はかかる。家の前のバスに乗れば、その時間も短縮できる。 時刻は11時13分。 定刻通り、池尻大橋経由、渋谷行きの13番のバスがやってきた。バス停には僕一人で、僕がバスに乗り込む

          【ショートショート】バスの停車ボタンの秘密

          【ショートショート】少子化の救世主

          赤ちゃんはコウノトリに運ばれてやってくると信じられていたA国の話。 A国では人々の生活は豊かになり、長寿命化、所得水準の向上、晩婚化など、昨今の先進国と同じ変化を経験していた。 そんな中、A国が最も注目している課題があった。それは「少子化」である。 ある日の中央議会にて。 A国国王は頭を抱えながら、腹心の部下である大臣と議論を行っていた。 「大臣。このままでは我が国は少子化が進み、人口減少が大きな問題になってしまう。何とか解決する方法はないだろうか」 大臣は答える。 「

          【ショートショート】少子化の救世主

          【ショートショート】睡眠バブル崩壊

          『7時間』 忙しいサラリーマンや家事・育児で忙しい主婦にとってなかなか確保できないその時間。 そう、睡眠時間のことだ。 そんな多忙な人々の悩みを解消する、ある商品がA社によって開発された。その名も「寝だめマシーン」だ。そのマシーンを使えば、なんと寝だめをした睡眠時間を別の日に繰り越せるようになるのだ。 平日に仕事や飲み会でどうしても睡眠時間が確保出来ないサラリーマンや子育てで忙しく細切れでしか寝ることが出来ない主婦にとっては夢のような商品で、人々の予想通り「寝だめマシーン

          【ショートショート】睡眠バブル崩壊

          【ショートショート】機嫌ペンダントは用法容量を正しく守って使いましょう

          「機嫌ペンダント」 それは着用している人の機嫌によって違った色に変わるペンダントだ。通常は無色透明だが、喜びは黄色、怒りは赤、悲しみは青といったように分かりやすい色に変わる。 感情の感知が必要なこのペンダントは、ネックレスの鎖を首の神経と実際に手術で接続する必要があり、一度着用すると20年間は取り換えが不可能になる。 一見すると恐ろしそうだが、その利便性から国中のほぼ全ての人がこのネックレスを着用しており、生まれてすぐの0歳、20歳、40歳と、20の倍数の歳に手術を受けネ

          【ショートショート】機嫌ペンダントは用法容量を正しく守って使いましょう

          【ショートショート】六本木のタクシーの運転手さんとの思い出

          地方の大学を卒業後、憧れの東京のプログラミング会社に新卒で入社して半年。 研修が終わって初めて任されることになったプロジェクトの初日。僕は午前2時に六本木の会社の前にあるタクシー乗り場にいた。 「ああ、こんな日が毎日続くとしたら体がもたないかもしれない・・・」 そう独り言を呟きながら、僕はタクシーに乗り込んだ。 「中目黒までお願いします」 緊張とストレスで疲労困憊となっていた僕はそう伝えるのでやっとだった。 「わかりました」 タクシーの運転手は穏やかな口調で応じ、タクシ

          【ショートショート】六本木のタクシーの運転手さんとの思い出

          【ショートショート】7:3分けの真実

          「これを着れば良いだけなんて、ホント便利な世の中になったよな」 男は寝ぼけ眼で、緑のスーツをクローゼットから慣れた手つきで取り出した。 時は205X年。あらゆる技術が発展して人々の生活が豊かになった中、ファッション分野についても例外ではなかった。 TV撮影で画像を合成する緑のスクリーンを見たことはあるだろうか。スタジオでは、ただの緑のスクリーンの前にキャスターが立ち原稿を読んでいるが、実際のTV放送になるとキャスターが高層ビルの前に立ってニュースを読んでいるように見える、

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          【ショートショート】歯に支配される人生

          ある著名な研究者が、人の歯形は千差万別であり歯並びがきれいな人ほど魅力的で高い知力と生命力を備え、将来的に大成する可能性が高いという研究結果を発表した。 あるところに歯並びがガタガタの男がいた。 その男はこれまで悪くない人生を送っていた。運動、勉強はそこそこ出来て容姿も悪くなく、友人や恋人にもそこそこ恵まれていた。 ある時までは。そう、歯形に関する論文が発表されるまでは。 その論文が発表された日から、男の人生は急降下だった。職場での評価はがた落ち、恋人からは振られ、当然

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          【ショートショート】いろはすが咲かせた初恋の花

          コンクリートの隙間に咲いている何てことない花。 多分誰もその存在に気づいていないし、僕も普段であれば気づかなかったかもしれない。 その日の僕は気分が最悪だった。テストも部活も上手くいかず、母親の小言を聞くのもめんどくさい。なんとなく気晴らしをしたくて、部活帰りに普段より遠回りして学校から帰っていた。ちょうど学校と家の中間地点の公園。そこに差し掛かった時、出会ったんだ。あの子に。 物凄い美人という訳ではないけど、長い睫毛に白い肌が特徴的だった。公園のベンチに腰掛け本を読む彼

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