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【ショートショート】イマドキの部下

上司は部下の事を理解する事は出来ない。古今東西、いつだって上司の悩みは普遍的だ。
それは2100年のA社でも例外ではない。

A社の課長は頭を抱えていた。今年の4月に新しく入ってきた新入社員Bをどう扱って良いのか見当がつかないのだ。自分たちの世代の常識が全く通じず、まさに打つ手なしという状況だった。

課長は自席にドカッと座り貧乏ゆすりをしながら、これまでのBの様子を思い出していた。

入社以来、Bは業務中だというのにいつも携帯をいじっていた。B曰く、最近は携帯でメモを取るのが普通だそうだ。ノートにペンで書くよりずっと速いらしい。俺らからするとどうしても遊んでいるように見えてしまう。

また、たまにBが話す言葉が理解できないことがある。ぴえん、ぷんぷんまる等、テレビでいくつか若者単語を覚えたが、Bがほかの新入社員と話している会話を聞くとちんぷんかんぷんだ。

さらに、前に個人面談の時にBの働くモチベーションは何なんだという質問をした事がある。Bはただ返答に困ったようだった。どうやら彼女もいらないし、結婚にも興味がないらしい。飲みに行ってじっくり聞くぞという話をすると、汚いものを見るかのような目線で俺を見るのだった。

「はあ、ダメだ価値観が合わなすぎる。俺が新入社員の時はこんなに扱いにくい部下じゃなかったと思うんだけどな。Bはまるで宇宙人だよ。」
課長はそう独り言をこぼし再び頭を抱えるのだった。

こんな話はどこの会社でもありふれているだろう。
しかしながら、A社の課長が思い悩むのも仕方がないのである。

実は、A社に入社した新入社員は実際に宇宙人だからだ。

その昔、政府は人口減少対策として移民の受け入れを進めたが、十分な成果を上げる事が出来なかった。そこで、政府は宇宙人の受入れを開始したのだった。
地球人の観測を至近距離で可能な環境を用意するという事を交換条件に無償の労働力を提供するとの申し出が宇宙人よりあったのだった。

地球人の混乱を避ける為、この事実は公にされていないが、秘密を知らされた一部の企業のトップは、無償で労働力を確保できるとあって宇宙人の積極採用を進めていたのだ。

業務時間中にBが携帯を触っているのは地球語を理解するために同時通訳機使用するためである。また課長が会話を理解できないのは当然である。それが宇宙語だからだ。また、Bが交際や結婚に興味がないのは、宇宙人には恋愛や結婚という概念がなかったからである。

それらの事実を知らない中高年のサラリーマンは、今後もずっと頭を抱え続けるだろう。

「イマドキの新入社員は"宇宙人"だ」と言われるようになって久しいが、実はとうの昔から宇宙人の受入れが始まっていたのかもしれない。

                               (了)

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