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【ショートショート】少子化の救世主

赤ちゃんはコウノトリに運ばれてやってくると信じられていたA国の話。

A国では人々の生活は豊かになり、長寿命化、所得水準の向上、晩婚化など、昨今の先進国と同じ変化を経験していた。
そんな中、A国が最も注目している課題があった。それは「少子化」である。


ある日の中央議会にて。

A国国王は頭を抱えながら、腹心の部下である大臣と議論を行っていた。
「大臣。このままでは我が国は少子化が進み、人口減少が大きな問題になってしまう。何とか解決する方法はないだろうか」
大臣は答える。
「そうですね。我が国も本気で少子化対策に取り組むべき時が来たようです。しかし、他国もこの問題の抜本的な解決方法は持っていないようです」
「そうか・・・」
国王はしばらく沈黙したのち、意を決した面持ちで立ち上がりながら、大臣に言った。
「国中の研究者を招集し、コウノトリがより早く赤ちゃんを運ぶ仕組みを開発してもらおう」


そして招集日のこと。

政府の第一会議室には、生物、化学、機械、AI等、多岐にわたる分野のその道の第一人者がところ狭しと集められていた。

国王は集められた研究者に対し次のように宣言した。
「A国はこの度本気で少子化対策を実行する事に決めた。手段は問わない。一番早く効果的な対策を実現した研究者は国家研究所の所長として迎え入れよう」

それを聞いた研究者たちの間で沈黙が流れた。
しかしそれは一瞬で、次の瞬間には全員が我先にと会議室を飛び出し、研究準備に取り掛かったのだった。


それからというもの、研究者による報告が連日続いた。

ある研究者は、渡り鳥であるコウノトリが途中で疲れて休んでいる時間が赤ちゃんの輸送時間を長くしていると考えた。そこで、飛行中にも補給できるゼリー状の食べものを開発した。

また、ある研究者はコウノトリの飛行速度が遅すぎるのではないかと考え、コウノトリに搭載できる小型エンジンを開発した。

他の研究者は、コウノトリの遺伝子改良を重ね、超人的ならぬ超“鳥”的な飛行速度を実現可能なコウノトリを産み出した。

しかしながら、いずれの開発も国王が期待していたような少子化対策にはつながらなかった。そうこうしている間にもA国の子供は減り続け、街中で子供を見つける事が困難な状況にまでなっていき、研究者からの研究報告も暫くするとなくなっていった。


「A国を救ってくれる天才はどこにもいないのか」
そう呟き、国王が少子化対策を諦めかけていたある日の事。大臣が足早に国王室を訪ねた。


「国王、対策を見つけたというものが現れました」
「何、本当かね。すぐにここに呼びたまえ」
「ただ実は・・・非常に胡散臭いのです。研究者としての実績は何もないようです。しかも見た目が、なんというか研究者の風貌からはかけ離れています」
「ふーむ、この際、国を救ってくれるのであれば誰でも良い。早速研究結果を聞かせて貰おう」

そして呼ばれた男Bは確かに研究者には見えなかった。
短髪に切りそろえた髪に小麦色の肌をしており、隆々とした筋肉を持つ、非常に健康的な印象の男だった。

国王を前にして男Bは言うのだった。
「私は少子化を解決する方法を見つけました。
無人島に同じ世代の若い1組男女とコウノトリを1羽連れていきます。そして、島に着いた後、男女に共同作業をさせるのです。例えばジェンガなどが良いでしょう。その後、夜には焚火を囲ってアルコールを飲みながら毎晩二人で会話をさせ、共通の話題を探させるのです。そして、この生活を1か月ほど続けさせるのです。私はこの実験終了後にその男女を追跡調査したところ高い確率でコウノトリが赤ちゃんを運んでくることを発見しました」

国王は言う。
「コウノトリに対して何もしなくて良いのか」
男Bは答える。
「コウノトリはただそこに連れてゆくだけで良いのです。ただ一つ、注意事項があります。」
「なんだね」
「毎食、食事後にはパイナップルを食べる必要があります。これが非常に大事なポイントですのでお忘れなく」

男Bの話を聞いた国王は半信半疑ながら早速同じ実験を研究者たちに行わせた。すると確かに効果が得られたのだった。
「なるほど、パイナップルか」

国王は意を決して大臣に言った。
「今後、国内では食後にパイナップルを食べることを義務化する」


パイナップル農家で隣国にて“コウノトリ”の仕組みを聞いた男Bは一財を築く事に成功した。
そしてA国は人口減により消滅した。

                               (了)


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