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【ショートショート】戦争なんてするもんじゃない

「諸君、戦争の始まりだ」

R国大統領であるプーテンは開戦を宣言した。反対勢力に加盟する事を決議したU国を許すことは出来ないとして、プーテンはU国に対する侵略を決めたのだった。

一連の宣戦布告の様子はカメラを通じて全世界へ配信され、その映像を見た世界中の人々は今後の行方に目が離せなくなった。


連日、殺される人々、破壊される都市の映像がプーテンには送られ、戦勝報告がなされていた。たまに側近による情報の取捨選択の精度が低く、アベンジャーズの「アイアンマン」が映り込んだ明らかなネットのデマ映像も含まれていた。ミスを指摘するために呼びつけた側近は震えあがり、この世の終わりのような顔をしていたが、勝利を待ちわびるプーテンにとって、自分が映画の中の人になった気がして良い余興となっていた。


そして開戦宣言から5日、プーテンのもとにU国の首都掌握に成功したとの知らせが入った。プーテンはたった5日でU国を手中に収める事が出来た自国軍の強さに満足していた。そこに、デマ情報を報告してしまった側近が失点を取り戻そうと、プーテンにある提案をした。「U国の主権の象徴であるU国議事堂にて、勝利宣言を全世界に配信してはどうでしょう? そのシーンは歴史に残ること確実です」と。プーテンは、それは素晴らしいと考え、善は急げと側近を帯同してU国へ向かったのだった。


道中プーテンは勝利の美酒に酔いつつ、出発の数時間後、プーテンは興奮した面持ちでヘリからU国の議事堂に降り立った。一面がれきの山となった景色を見て、プーテンは勝利を実感していた。そして、議事堂の第一ホールにて、側近が手配したカメラの前で勝利を高らかに宣言しようとした。その時、


「パーン」

銃で撃たれたプーテンは、事態を理解できずにいた。そして、プーテンは意識が薄れゆく中、銃を持った側近を見上げていた。


*


宣戦布告の半年前、平和を望む側近はこの戦争を食い止める方法を必死に考えていた。そして、思いついたアイデアが、A国の大手映画会社マーベルに依頼して、映画でプーテンを騙してしまおうというものだった。


早速、側近はマーベルに連絡を取り、R国のプーテン自らが映画に出演する、さらに最後は殺される役として出るので戦争映画を作ってほしいと打診した。すると、マーベルは二つ返事で快諾したのだった。


宣戦布告の後、側近は半年間にマーベルが作成した戦闘CGを使ってプーテンに戦況報告を行い、上手くプーテンを騙すことが出来ていた。途中で、首都掌握にかかる時間として5日間が現実的なところ、どんなに引き延ばしても2日間分の報告の映像しかないことに気付いた。そこで、一部は明らかなCGである事が分かる映像も織り込み引き延ばすことで、何とかプーテンを騙すことに成功した。


勝利宣言をするためにプーテンが降り立った場所は秘密裏に射殺と死体処理が出来るR国内の処刑場であった。国会議事堂は突貫で建設した撮影セットで、ただのハリボテである。勝利に酔っていたプーテンはまさか自分がヘリで降り立った場所がR国だとは気づかなかったのである。


プーテンが行った宣戦布告の配信は今回の映画の良い宣伝となった。加えて、プーテンが殺されるシーンは非常にリアルだと映画からは高い評価を浴びた事で、今回作品は全世界で記録的な大ヒットとなった。

*

プーテンが死んだ今、側近はプーテンの健在と戦争勝利を疑わない国内を欺く必要があった。今回の映画で味を占めたマーベルに対し、側近は次回作の相談を始めていた。


(了)

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