どこまでも安くなっていく洋服達
アパレル産業が厳しいと言われているのは、もうだいぶ前からだ。
服は生活必需品であり、自分を表現するアイテムの一つでもある。こだわりのある人と無い人の差が激しくて、何着あっても良いし、逆に必要最低限でも良い。
家電みたいに値段が高ければ高いほど性能が良い訳でも無いし、デザインは自由自在だし、流行り廃りもあるし、なんていうか決まり事が少なくて掴み所が無い、そんな必需品。
そんな洋服が好きで、デザイナーに憧れて、せっかく夢を叶えたのに、苦しい経営状況の中で「なんだかなぁ」とモヤモヤした気持ちを抱く日も少なくない。
アパレル産業はとにかく今、苦しい。人ごとみたいに書くけど、赤字だらけらしい。
頭の良くない私だって、「うん、でしょうね」と思う。生産者の身としてつくづく感じる。
だって服、年々ありえないくらい安くなってるから。売っても売っても服が溢れているくらい、在庫があるのだから。
プロがデザインして、パターンを引いて、サンプル作って、生地を織って、染めて、裁断して、縫って、検品して、全国に届ける。
こんなに多くの工程があるものがこんな値段なの?って考えたこと、ある??
○服を作ることも売ることも、結局何なんだろう
ユ○クロで服を買ったことがない人の方がもはや少ないし、Z○RAやG○などのファストファッションはもはや身近になった。
どんなに縫製がボロボロのものが届いて後悔する人が多くとも、口コミが悪くても、韓国通販サイトの可愛い写真に惹かれて買う若者は少なくない。
デザインにこだわらなくても、フォロワー数の多いインスタグラマーがハッシュタグを付けてPRさえすれば若者は買ってくれる。
どんなにこだわったデザインだとしても、「インスタグラマーの〇〇さんがディレクションしています♩」と謳った方が売れるようになってしまった。
色んなコンテンツの力で、知識が無くても誰でも簡単にブランドを作れるようになった。
中国通販サイトを見れば3円とか意味のわからない値段で服は売ってるし、それを卸して販売してやれ、みたいなビジネス本さえ堂々と出版されている。
転売ヤーはアホみたいに増え続て、取締りは追いつくわけもない。ダメと分かっていても客側は物欲しさにまんまと転売サイトから買ってしまう。
「せめてブランドファンなら買わないでよ」って思うこちらの気持ちも、一部の心無い消費者に届きはしない。
「値段が安くてそれなりに可愛い商品」が安かったりちょっと高かったりして似たり寄ったりのデザインで溢れかえっている。「ZOZOTOWN、あんっっっなに服あるのにデザイン5パターン位しか無くない?」ってなったりする。
じゃあ私たちって何なんだろうか。
日々リサーチをして、顧客が何が欲しいか悩み続けて、可愛くて周りと少し差のつく、且つ取り入れやすいデザインを考えて、
着心地が良くて今っぽいシルエットのパターンを模索して、
綺麗で丈夫な縫製を考えて、柄を作ったり生地を作ったり、こだわりを持って作る服。適正な数を作るため、価値観を出す為に少ない数しか生産しないと決めた服。
それらはその全ての工程にお金がかかり、それなりの値段になってしまう。ちゃんと手順を踏んで作ったものが、悲しくも先程の商品たちに負けて売れない、なんて。
真剣に服をデザインしているこっちが馬鹿みたいじゃんか。
そんな風に感じる時が、よくある。
○安くする為に、たくさん作るサイクル
安さとPRの力ばかりで服が売れていくのならば、高くても物づくりにこだわる私たちデザイナーの努力ってなんなんだろうか?
もちろん自分のやっている仕事や業界を否定したい訳じゃない。これらは全てネットやAIで済ませられる現代の便利さが産んだやり方と売り方だし、時代に置いていかれるものの多くは敗者になってしまう。時代に合う売り方が変わってきただけだ。
もちろん私だってファストファッションも韓国サイトからも出所のわからないブランドからも服を買ったことがある。
自分だって利用者の1人だからこそ、便利さも魅力も分かる。パッと見が悪いものには見えないし、なんてったって安い。
服の値段はピン切りだから、「いくらが普通」なんて絶対に言えない。だけど、明らかに安過ぎる服にはその理由が必ずある。
素材が良くない、縫製工程で手を抜いている、どこかが赤字で作っている、違法なルートで作っている、必要以上の枚数を生産している、と安くする方法は挙げたらキリがない。
(ネット販売だけにして人件費を削るとか、頭の良いやり方もきちんと存在するのはもちろんだけど。)
そして近年問題視されているのは、例にも挙げた「必要以上の枚数を生産している」というやつだ。ロットクリア(=何枚以上作るなら安くするよ〜ってやつ)でコストを下げる。
こうして必要以上の枚数を作る→売れ残る→セールで安くする→売れ残る→最悪の場合破棄、のサイクルが生まれる。服、作りすぎなのよ。
○安い服と、安くないと買わない人々
顧客はいつか安くなることを知ってしまうし、安い服に慣れていく。
更に現代人はマジで金がない。日本の物価は決して安くないのに給料はどう考えても高くない。そして税金は高い。金のない若者の払う年金も高い。
そんな私たちが服に費やせるお金なんてたかが知れてる。だからこそ安い服の需要が高いのは当たり前だ。社会がそうさせてる。
ものすごく服にこだわりがない限り、値段ありきで服を買う。なんなら安い中から探す。だって買わないでしょう、自分の収入にそぐわない服は。
こうして服はどんどん、適正価格で売れなくなり、低コストで作ることが必須になっていく。
どこかの生産者が赤字でやってくれているかもしれない。それでも目をつぶってやってもらう。そんな不当なこと、理不尽なことをお願いするのも、同じ生産者だ。
デザイナー経験を積んでいくうちに、気づけばそんな服作りに関与してしまっていたかもしれない。
服が好きでこの業界に入ったのに。
ただ服を作ってるだけなのにな。
○破棄されていく服を産み出しているのは、私でもある
どんなにAIが発達しても、物づくりってたくさんの人が関わって、人々の気持ちが入ってる物だ。目に見えないだけで、たくさんの誰かが色んな気持ちを乗り越えて作ってくれてる。
だからこそ、適正価格がおかしくなって「可愛いけど高いから」という理由で買ってもらえなくなるのは腑に落ちないし、
逆に「超安いから!」という理由で売れている服は、どんなに可愛くても生産ルートのどこかで誰かが物凄く辛い思いをしている可能性もある。
そうやって「こだわりやデザインよりもそれなりの値段を優先する消費者」に合わせて服を作り続ける私達が、服を無駄に生産してしまうことも多くなってしまった。
Win-Winのはずのビジネスが少しずつ傾いていて、そのビジネスに巻き込まれてたくさんの服が破棄されていく。すごくすごく悲しい。
私が作ったものも、誰にも着られないうちに破棄されるかもしれない。その虚しさと言ったら…。
安くなってしまった服たちを、適正価格に戻すことはもう無理だ。一度安くしてしまったブランドは、顧客が離れてしまうと思うともう高く出来ない。一度価格を下げてしまうことは後々大きな致命傷になる。
私にはここに悲しさを書き綴ることしか出来ない。力の無い私には。
高い服を買えとは言わない。
安い服の全てが間違っているわけでは無い。
だけど生産者の中に辛い思いをしている人がいるかもしれないこと、明らかにおかしい値段のものを買わないこと、違法な売り方、買い方はしないこと。
服にこだわりがあっても無くても、少し考えてみて欲しい。
私は服が大好きだから、デザイナーでいたいから、これ以上ボロボロになっていくアパレル業界を見たくない。
「作り手」も「買い手」も、納得するような正しい世界になって欲しいと思う。
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