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歩くと創造性が高まる

歩くと座っている時よりも創造的なアイデアが浮かびやすいという趣旨の論文を読んだのでメモ(1)。

これまでの研究を調べてみると,創造的なアイデアを創出するためには拡散的な思考(制約のない自由な思考)が大きく関連があることが分かっており(2),以下のような行動や環境が創造性を高めることが分かっています。

・少し暗い場所では独創的な考えがしやすい(3
・情報を選び分ける能力が低いと創造性が高くなる(4
・箱の外で考えると創造的になる(5

今回紹介する論文は歩くことで創造的な思考が促進されることを教えてくれます。

2014年にスタンフォード大学のマリリー,オペッゾらが歩くことが創造性に与える効果について調べるために実験を行いました。

実験の対象になったのは大学生38名でした。

実験参加者をランダムに2つのグループに分け,創造性などを測る課題(e.g. 代替用途課題)を受けてもらいました。その2つのグループには,以下のような課題を受けてもらう状態に違いがありました。

<グループ1>
座っている

<グループ2>
歩いている

グループ2はトレッドミルを使って歩いている状態を維持しています。その後,創造性課題の成果物を評価しました。

実験の結果,歩いた状態には座った場合で考えたものと比較して創造的なアイデアを思い付きました。一方で,情報を収束する(まとめる)ような課題での成績に関しては歩いているときと座っているときとには変化がありませんでした。

続く実験2・3では座っている状態から歩く状態に,またその逆の状態の変化を実験的に操作した場合においては,歩く状態に切り替わることで創造的な思考が促進されるという結果を報告しています。

この歩くという動作が創造的思考を喚起する理由として,歩行に伴う体の動きや身体的な動きに付随する空間の広がり(67),ポジティブな感情の喚起などが関連しているのではないかと言われています(8)。

これらの結果から歩くことは情報をまとめるような収斂的思考には変化をもたらさないものの,拡散的思考を触発し,創造性を高めてくれると言えるでしょう。

(1)Oppezzo, M., & Schwartz, D. L. (2014). Give your ideas some legs: the positive effect of walking on creative thinking. Journal of experimental psychology: learning, memory, and cognition, 40(4), 1142.

(2)Guilford, J.P. (1959) Traits of Creativity. In: Anderson, H.H., Ed., Creativity and Its Cultivation, Harper & Row, New York, 142-161.

(3)Stokes, P. D. (2005). Creativity from constraints: The psychology of breakthrough. Springer Publishing Company.

(4)Zabelina, D. L., O’Leary, D., Pornpattananangkul, N., Nusslock, R., & Beeman, M. (2015). Creativity and sensory gating indexed by the P50: Selective versus leaky sensory gating in divergent thinkers and creative achievers. Neuropsychologia, 69, 77-84.

(5)Leung, A. K.y., Kim, S., Polman, E., Ong, L. S., Qiu, L., Goncalo, J. A., & SanchezBurks, J. (2012). Embodied metaphors and creative “acts”. Psychological Science, 23(5), 502–509.

(6)Kaimal, G., Ayaz, H., Herres, J., DieterichHartwell, R., Makwana, B., Kaiser, D. H., & Nasser, J. A. (2017). Functional nearinfrared spectroscopy assessment of reward perception based on visual selfexpression: Coloring, doodling, and free drawing. The Arts in Psychotherapy, 55, 85-92.

(7)Murali, S., & Händel, B. (2022). Motor restrictions impair divergent thinking during walking and during sitting. Psychological research, 1-14.

(8)Miller, J. C., & Krizan, Z. (2016). Walking facilitates positive affect (even when expecting the opposite). Emotion (Washington, D.C.), 16(5), 775–785.

■知識は身体からできているー身体化された認知の心理学/レベッカ・フィンチャー・キーファー (著), 望月正哉 (翻訳), 井関龍太 (翻訳), 川﨑惠理子 (翻訳)

■創造性はどこからくるか: 潜在処理,外的資源,身体性から考える (越境する認知科学)/阿部 慶賀 (著)

■世界はありのままに見ることができない ―なぜ進化は私たちを真実から遠ざけたのか/ドナルド・ホフマン (著), 高橋洋 (翻訳)

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