松下幸之助と『経営の技法』#31
「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
1.3/17の金言
会社をよりよくするという思いに立つ限り、本質的には社長も新入社員も平等ではないか。
2.3/17の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
新入社員は、遠慮しがちだが、会社のためになることであれば、社長も新入社員も平等だ。
長い経験や、仕事を熟知していることから、先輩社員は先入観にとらわれ、現状を当然と考え、改善すべき点に気づかない面があり、他方、新入社員はすべてを新鮮な目で見られる。「ここはこうしたらいいのではないか」と感じることを、どんどん提言してほしい。
3.3/13の金言の確認
ここでは、3/13の金言と同様、新入社員に対し積極的な提言を求めています。そこで、まずは3/13の金言に対する分析を要約しましょう。
すなわち、内部統制(下の正三角形)の観点から見た場合、現場の若い社員の新鮮な視点は、リスクに気づいたり、商売のネタに気づいたりする機会を広げます。さらに、一見素人のような意見も踏まえて検討することによって、検討の幅が広がり、デュープロセスを尽くしたとしてリスクが下がる可能性が高まります。会社がチャレンジしやすい環境に近づくのです。
さらに、ガバナンス(上の逆三角形)の観点から見た場合、特に会社の永続性を重視する場合には、社内のコミュニケーションづくりや若手社員の育成が重要な経営課題であり、それを実践できる経営者を選び、または、そのように経営者に対して働きかけることが重要となります。
4.先輩社員の役割
ここでは、特に先輩社員の役割を考えましょう。
松下幸之助氏は、先輩社員は、長い経験、仕事を熟知、としつつ、反対に、先入観、現状肯定、感覚麻痺、としています(言葉は少し違いますが)。
ポイントは2つあります。
1つ目は、先輩社員は、新入社員の意見を聞き、受け止めなければならない、という点です。特に、ある程度経験を積むと、仕事に自信が生まれてくる時期であり、例えば上司や先輩からの忠告などを煩く感じることもあるでしょう。ましてや、後輩からだと、より話を聞きにくくなりがちです。
けれども、そのような個人的な理由で、組織内の情報流通が滞り、コミュニケーションが悪化し、組織の体力が落ちていくことになれば、経営者として看過できません。せっかく力を付けてきたのですから、先輩社員たちには、過信に陥ることなく、仕事の経験や能力を、良い意味での自信として活用してほしいものです。
2つ目は、どちらが優れている、という問題ではなく、両者を上手に生かす、という発想です。いくら新入社員の話を聞け、と言っても、先輩社員の蓄積を無視するわけではないはずです。
5.おわりに
松下幸之助氏は、新入社員に対して盛んに意見を言うように促します。きっとどこかでバランスを取っているのでしょうから、特にある程度大きくてしっかりした会社になると、常に新入社員をけしかけ続ける程度が、バランスを取るうえでちょうどいいのかもしれません。
どう思いますか?