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松下幸之助と『経営の技法』#106

5/31の金言
 課の責任は課長に、社の責任は社長にある。言い訳をする意思などあってはならない。

5/31の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 課の成績があがらない場合に、自分の課員はもうひとつうまくいかない、というようなことを言ったりする。
 それいう場合、私は、
「君、それはけしからんことを言うじゃないか。課の責任は君一人の力だよ。仮に部下に悪いものがある、適性がないから他に使ってもらいたい、ということであれば、いくらでも会社に言うことができる。それを言わずして、便々と使っているということは、やはり君の責任じゃないか。だから部下が悪いとか、何々に原因があるとかいう言い訳は一切聞かない。これは僕自身が、会社の社長としてうまくいかない場合に、どうもうちの社員が具合が悪いからとか、何々に原因があったから、と言い訳する意思は全然ないんだ。それを同じように君に対しても要求したいんだよ」
 こういうような話をしてきております。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、管理職の在り方が話されています。
 すなわち、この言葉によって、部門のマネージメントをする仕事は、特に日本の場合、与えられたメンバーによって結果を出すことである、という点を明確にしているのです。この背景を確認しておきましょう。
 日本の労働法上、多くの従業員に対し、「解雇権濫用の法理」が適用されるため、会社は従業員を簡単に解雇できません。その代わり、会社は従業員に対して幅広い人事権を有します。
 このことは、従業員を容易に解雇できる国のルールと比較すると理解しやすいことです。
 すなわち、従業員を容易に解雇できる国では、従業員の職種や配属先は従業員との契約で決まります(多くの場合)。従業員が、契約で約束したレベルの仕事ができなければ、その契約を解消するだけのことで、従業員の同意なくその職種や配属先を会社が一方的に変更することは、従業員がわざわざ契約で約束していない限り、不可能です。
 他方、従業員を容易に解雇できない日本では、契約(目標設定など)で約束したレベルの仕事ができない従業員であっても、簡単に契約を解消できません。したがって、会社は、その従業員を何とかして活用しなければならないことになります。そのために、会社は従業員の地位を尊重する代わりに、従業員を他の職種や配属先に変更する権利を有することになるのです(所定の条件は必要ですが)。
 従業員と会社とのこの関係が、管理職の在り方に反映されます。
 なぜなら、管理職は会社から人事権の一部について、会社に代わってこれを行使するように権限移譲されているからです。つまり、駄目な従業員を簡単に解雇したり、放置したりするのではなく、できるだけ使いこなすように工夫しなければならず、それでも合わない従業員には、活用できる場を探す必要があるのです。そのために職種や配置を変更することは、会社=管理職の権利ですが、同時にこれを適切に使いこなすべき能力やスキルが求められるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、このような管理職者を育て、組織の体裁を整え、組織を強くしていくことが、経営者の資質として求められます。特に、複数の階層のある組織の場合、管理職の力量が組織全体の力を大きく左右しますので、管理職に人を揃え、上手に使いこなせる能力が、特に重要となってきます。

3.おわりに
 解雇制限→人事権拡大、という関係性は、わかりやすい反面、会社による人事権の濫用を誘発しかねない心配があるなど、これをそのまま承認することについて反対の意見もあります。しかも、両者の関係は論理必然ではありません。例えば、会社は解雇制限されるうえに、人事権も持たない、というように、会社側に我慢と負担を強いるようなルールを採用することも、理論的には可能です。
 他方、解雇制限と人事権拡大のいずれも、無限定ではありません。悪質な場合、適切なプロセスを経れば、従業員の解雇もできますし、度を越えた人事異動などは人事権の濫用であって、人事権にも限界があります。
 このように見ると、一般的な傾向や、日本のルールの背景を理解するうえで、解雇制限→人事権拡大、という構図は役に立ちますが、それぞれが制限や限界を超えているかどうかは、個別の事案ごとに判断される事柄ですので、結局、このような一般的な理論よりも、個別事案の適切な検討と対応の方が重要となります。専門家のサポートが必要となる理由です。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


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