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松下幸之助と『経営の技法』#165

7/29 心と体の健康管理

~健康管理も仕事のうち。日々心を躍らせて、仕事に熱中したい。~

 趣味やスポーツなどでよく経験することですが、それに熱中し、楽しんでいる時は、他人から見ればずいぶん疲れるだろうと思われる場合でも、本人はむしろ爽快さを覚えていることがあります。心が躍っているから疲れない。あるいは疲れても、それを疲れと感じないわけです。仕事の場合もそれと同じことで、仕事に命を懸けるというほどに熱意をもって打ちこんでいる人は、少々忙しくても、時に徹夜などをしても、そう疲れもせず、病気もしません。反対に、何となく面白くないというような気分で仕事をしていると、その心のすきに病気が入りこんでくる。そんなことをよく見聞きします。
 もちろん人間の体力には、やはり限界があります。いくら心が躍って疲れを知らないという人でも、あまり度を過ごせば、過労に陥ることにもなりかねませんから、そのへんの注意は当然必要でしょう。
 いずれにしても、自分の健康管理も仕事のうちということを考え、心を躍らせて仕事に取り組むことを基本にしつつ、人それぞれのやり方で健康を大切にしていってほしいと思います。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでは、「病は気から」についてではなく、組織について考えましょう。というのも、経営者個人の考え方や言動を、組織として実現するのが会社だからです。
 そこで、ここでは「職場の活気」、という観点から考えてみます。
 すると、松下幸之助氏の言葉は、①活気がある職場では、難しい仕事や大変な仕事もやり遂げてしまう。②活気がない職場では、トラブルが起こりやすい。③職場に活気があるからと言って、やり過ぎは良くない。④職場の活気を維持することも経営の問題として、常に留意しなければならない。以上の、4つの要素に置き換えることができます。
 このうち、①は、松下幸之助氏が一貫して説いている、従業員の自主性の尊重です。
 たしかに、強力なリーダーシップの下、全ての従業員と全ての案件について、経営者自身がコントロールし、従業員には命令を忠実に遂行することだけが期待される組織では、組織の一体性が最も重要なテーマとなり、そのことによって突破力が強力になります。一点集中型の経営戦略であり、それに合致した組織戦略です。
 けれども、対象となるニーズが多様化すると、商品やサービスも多様化しますが、それに合わせて会社自身が多様化しなければ、ニーズに応えられません。また、上司の指示や命令を待つだけの従業員だけだと、会社は経営者のキャパシティーを超えて大きくなることができません。受け身の従業員ばかりになると、従業員は指示や命令があるまで動く必要がない、指示や命令があるまでは待機時間であり、何もすることはない、となってしまい、経営者は管理職者の目の届かない領域で、指示や命令を受けない従業員を無駄に遊ばせてしまう、という非効率さも生じます。
 他方、従業員の自主性を高め、多様性を重視する経営モデルの場合、経営者のキャパシティーを超えた活動が可能になるだけでなく、後継者の育成や、企業体質の強化(リスクセンサー機能の強化、ビジネスチャンスの発見・対応可能性の増加、など)にも役立ちます。経営者のキャパシティーを超えて、会社組織や企業活動を大きくするためには、従業員の自主性を高めることを避けて通ることはできないのです。
 そして、この観点から見た場合、形だけでなく、実際に従業員の自主性が高められているかどうかは、現場の各部門に活気があるかどうかを見るのが、簡単だけれども、制度の高いチェックになるのです。
 次に、②は、社内弁護士や労働法弁護士としての、私自身の経験から見て、明らかです。
 たしかに、例えばハラスメント問題は、特定の管理職者と特定の個人の問題にすぎないようにも見えます。
 しかし、実際にハラスメントが発生し、問題に発展するのは、多くの場合、問題のある部門です。コミュニケーションがうまくいっていて、活気のある健康的な部門では、不思議とこのようなトラブルは発生しません。ハラスメントにしろ、メンタルにしろ、サービス残業にしろ、人事考課への不満にしろ、従業員からの不満が形になる方法が多様なだけで、トラブルの根底には従業員の不満というマグマが溜まっていることが根本原因として存在するのであって、したがって、不健康な部門ではトラブルが発生しやすい、逆に、コミュニケーションが活発で、活気のある職場では、トラブルが少ないのです。
 次に、③は、いわゆるブラック企業の状況に近づいてしまう、という問題です。
 すなわち、手当も十分に支給しないのに、君自身の強さの問題だろう、君の人生への投資じゃないか、君と一緒に盛り上がりたい仲間がいるじゃないか、など、言葉巧みに、割に合わない条件でこき使うのがブラック企業ですが、精神的なメリットだけを根拠に処遇を悪くするのは、このようなブラック企業と、状況が変わりません。
 たしかに、良い意味で活気があるうちは、そこから得られるメリットを会社だけでなく従業員も享受できるので、まだマシです。
 けれども、従業員の自主性が否定される状況にまで追い詰められているのに、おかしな熱狂だけが場を支配するようになれば、いわゆるブラック企業に一歩足を踏み入れたことになるでしょう。盛り上がっているけれども、従業員が受け身であれば、結局、経営に押しつけられたことをやけくそになってこなしているだけだからです。
 つまり、現場にいくら活気があるからと言って、従業員に無理をさせる状況が続けば、気付かないうちに「ブラック企業」と同じ状況になってしまう危険があるのです。
 最後に、④は、従業員個人や、現場の管理職者に押しつける問題ではなく、経営者自身が経営問題として把握し、コントロールすべき問題である、という意味です。
 これは、会社組織を人体に例えれば、容易に理解できます。従業員のモチベーションや、現場の活気は、月曜日の朝に元気よく仕事に出かけられるような活力があるのか、そうでないのか、という問題と同じであり、組織の健全性の問題なのです。
 もし、好物を美味しく食べれず、大好きなお酒がまずく感じられれば、体のどこかに問題がある、ということは、例えば大好きな晩酌のビールがまずく感じたので精密検査を受けたところ、癌が発見された、という高名な評論家(記者出身)の経験談など、数多くその症例が報告されています。
 上記①~③で検討したように、現場や従業員たちの活気が会社にとってじゅうようなもんだいですから、これは会社自身の問題として、経営者も常に意識すべき重要な問題なのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は現場や従業員たちが遣り甲斐をもって取り組める仕事を見つけ、それに専念して取り組めるような環境を作る役割りを負っている、ということが理解できます。
 これは、7/24の#160でも検討したように、ビジネスの主役は現場であること、その現場が実力を発揮できるように環境作りするのが経営者であること、からも理解できることです。
 すなわち、単に自主性を持って仕事に取り組め、と命令しているだけでは駄目で(というよりも、自主性を持てと命令している時点で、何か矛盾が生じています)、実際に現場や従業員たちがその気になって主体的意欲的に取り組める仕事を見つけ、環境を作るべきである、ということは、特に説明するまでもなく誰でも理解できることなのです。

3.おわりに
 組織論に話が向かいましたが、従業員個人の問題として見ても、健康問題は重要です。自分の生活全てを会社に捧げた結果、身も心もボロボロになりました、という状況は、今日、美談でも何でもありません。
 むしろ、他人(会社)を助けるためには、まずは自分自身の生活が安定し、余裕のあることが必要、ということは、常識と言えるでしょう。自分や家族の生活を維持し、守れない人が、他人のために貢献することなど、到底期待できないからです。
 この意味で、個人の問題として見た場合には、個人の健康管理の重要性が指摘されているのであって、身を削ってでも奉仕せよなどと言っていないことを、正しく理解しましょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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