横尾圭祐

1995年生。小説家を目指しています。

横尾圭祐

1995年生。小説家を目指しています。

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自己紹介

 はじめまして。横尾圭祐(よこおけいすけ)と申します。  これから note の場をお借りして、小説を書いていこうと思います。よろしくお願いします。  書いているのは純文学と呼ばれている小説です。純文学とは一般的に娯楽性より芸術性を重視する小説と理解されています。またざっくり直木賞か芥川賞かでいうと、芥川賞の方にあたります。  昔から心に浮かんだ様々なことを言葉にするのが、僕にとって大切なことであり、またとても自然なことでした。今振り返ると、言葉にすることで日々の現実を理

    • 短編_金の雨降り

       雨水が流れ込む排水口には溺死した蝉の死骸が溜まっていた。コーヒーを蒸らすわずかな時間、智晴はふとキッチンの小窓を眺めやってその様子に気づいた。そして顔を近づけて蝉の数を数えようとした。だがとめどなく窓を伝って流れる雨水のせいで、景色は海面のようにゆらゆらと揺らいでいた。ただ山盛りになった蝉たちのシルエットが見えるだけだった。  智晴は二つのマグカップにコーヒーを移しながら考えた。これだけ大量の蝉の死骸を一度に見たことはなかったが、この雨ならあり得ないことではなかった。異常

      • エッセイ_横須賀ドライブ

         海沿いの134号線は相変わらずの渋滞だった。江ノ島を越えて、二車線の道路が一車線になると道路は必ず混雑し、ひどい時は由比ガ浜を抜けるまでたらたらと走らなければならなかった。真横を走る江ノ電に追い越されることも稀ではないし、こんなスピードではいくら窓を開けてもせっかくの潮風は入ってこなかった。  僕はアルバイトで横須賀に行く途中だった。市内の小中学校を回って尿検査の検体を回収して会社まで戻るのが仕事だ。車の運転はそこまで苦ではないし、正直バイトなんてなんでもいいと思ってやり

        • 短編_2L入りの宇宙 4/4

           噴水のある駅前の広場には既に松永さんの姿があった。松永さんはイベントの会場設営の責任者で、二人をこのバイトに誘ってくれた人でもあった。 「二人とも、悪いがまず一仕事頼まれてくれないか」  松永さんはにやにやと笑いながら、手に持ったビニール袋から2L入りの水を取り出した。夏生と龍は思わず声をそろえて言った。 「おお、2L!」 「そんなに珍しくないだろ。これで向こうのキラキラを流してきてほしいんだ」 「キラキラ?」 「行けばわかる。ほら、あそこの鳩がたかっているところだよ」  

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        自己紹介

          短編_2L入りの宇宙 3/4

           駅前のベックスコーヒーに戻ると、龍はコーヒーを飲みながら窓の外を見ていた。その視線はまたしても改札口の売店に注がれていた。 「なあ、お互いに一つだけ真剣な話をしない?」  と龍は言った。 「なんだよ急に」 「実は、ずっとあの売店の子が気になってるんだ。ほらあの手前側のレジに立っている子だよ」 「知ってるよ、そんなこと」 「え! なんで?」 「あのなあ、お前がずっと売店の方を見ているのなんてバレバレだぞ」 「じゃあ話が早いな。お前がタバコを吸いに行ってる間に、俺は決めたんだ。

          短編_2L入りの宇宙 3/4

          短編_2L入りの宇宙 2/4

           モーニングを半分ほど食べ進めたところで、龍が現れた。龍は改札口の真隣にある売店に目を遣りながら、こっちに向かって歩いてきた。夏生と目が合うと、龍は一瞬我に返ってから手を上げた。 「ちゃんと5時30分に起きたんだよ。気づいたら目が閉じてた」 「それを寝坊って言うんだよ」 「わりぃ」  先に食べ終わった夏生は周りを見渡した。だんだんと増え始めた客は咲さんの前でオーダーを済ませると、席へ流れていった。スーツ姿の若い男はホットドックを頬張り、角の席に座った初老の女性は小さく畳んだ新

          短編_2L入りの宇宙 2/4

          短編_2L入りの宇宙 1/4

           先に着いたのは今日も夏生の方だった。土曜日の朝の静かな改札口、夏生は電光掲示板の時計を見上げた。6時50分を過ぎた頃だった。あと少しで集合時間だというのに、ベックスコーヒーの窓際の席に龍の姿は見当たらなかった。今日もいつもと変わらない土曜日になりそうだった。店に入ると、咲さんは相変わらずテキパキと働いていた。 「夏生くん、おはよう! 今日もバイトなの?」 「そうなんです。だいたい毎週イベントがあるので」 「朝から働くね。龍くんは?」 「あいつは今日も寝坊です」 「まったく」

          短編_2L入りの宇宙 1/4

          短編_ボール・ラブ・ラーメン

          「ダメだな、動く気がしない」  ヒロはそう言って車のエンジンを止めた。 「このままじゃ頭がおかしくなる」 「仕方ないだろ、事故なんだから」 「一体どんな事故だよ。人でも死んだのか?」  高速道路の上で立ち往生してから、かれこれ30分以上が経っていた。たしかにヒロの言う通り、僕らはそろそろ我慢の限界だった。代り映えのしない景色にはうんざりしていたし、腰とお尻は座り疲れて痛くなっていた。 「ちょっと行ってくる」 「どこに?」 「あのトラック」  ヒロは車を飛び出し、数台先のトラ

          短編_ボール・ラブ・ラーメン

          【ワンシーン小説】fall

           男は最後のドアを開け、ある商業ビルの屋上に出た。  目の前には夜の都市が広がっていた。人々が灯すきらびやかな光は遥か遠くまで続き、時折吹く強いビル風が男を襲った。  すべてはあと数分で終わるはずだった。それが現実になるか否かを決めるのは男自身だった。そう思うと、男の脳はまるで別の生物にでもなったかのように、不気味に動き始めた。  男はポケットからスマートフォンを取り出し、都市に向かって投げた。スマートフォンは都市の光に揉まれながら落ち、次第に回転の速度を早めて消えていっ

          【ワンシーン小説】fall

          短編_パラソルの下で 2/2

          「鳩山先生、パパ来るって」  鳩山は口の中の物を飲み下しながら目を大きく見開いた。その表情が可笑しくて、春世は少し意地悪な噓をついてみたくなった。 「この前の論文についてちょうど聞きたいことがあったんだって」 「本当ですか?」  鳩山は食べる手を止め、咳き込みながら言った。 「おじさーん!」  ちょうどその時、制服を着た二人の高校生がやって来るのが見えた。それはすぐ近くの高校に通っている真司の兄の息子の涼と、涼の彼女らしい女の子だった。 「涼じゃないか。今日は学校?」 「い

          短編_パラソルの下で 2/2

          短編_パラソルの下で 1/2

           海に繋がる最後の歩道を、真司は少し後ろからついてくる妻の春世とともに渡った。海沿いの国道は相変わらずの混雑で、二人は渋滞にはまって動かない車を尻目に、悠々と歩道を越えて砂浜に向かった。手にはアウトドア用のキャリーカートを曳き、その上にはグリルや炭やクーラーボックスが載っていた。  砂浜に着くと、真司は脇に挟んでいた大きなパラソルを開いた。パラソルの場所が定まると、春世も折りたたみ式の小さな机を開いて、その上にクーラーボックスから取り出した食材を載せた。二人はテキパキと準備を

          短編_パラソルの下で 1/2

          短編_タンポポ作戦 2/2

          【あらすじ】  乗客からある物を受け取ったハルカはリクのクローンと奇妙な喧嘩を始めた。そんな最中、突如アナウンスが入る。二人が目にした作戦の顛末とは―。 (文字数:約3700字。文庫本で8ページ程度、15分程で読み終わります)  リクに課された任務は人間の作成だった。彼はまず、人間たちの細胞をランダムに交配して子どもを作成する技術を生み出した。この技術の最大の魅力は、交配の際に知力と体力の元となる物質を注入することで、これまでより強い生命力を持った人類種を作成した点だった。

          短編_タンポポ作戦 2/2

          短編_タンポポ作戦 1/2

          【あらすじ】 宇宙船シルバーシップは予定通りタンポポ作戦を遂行するはずだった。だが予想外の出来事が乗組員たちを襲う。作戦は中止になるのか、ハルカとリクの真の目的は何なのか ― 謎が謎を呼ぶSF小説の前編。 (文字数:約2800字。文庫本で6ページ程度、10分程で読み終わります)  宇宙船の逆噴射が終わると、画面には正常を知らせる緑色の枠線が点灯した。船内の酸素濃度やエネルギー状況は何一つ問題なかった。隣の画面には宇宙船の位置を示す地図が座標の数値とともに映し出されていた。ヨ

          短編_タンポポ作戦 1/2

          掌編_我が白原

           彼が向かいの檻から出ていってしまったことを、私はまだ受け止め切れていなかった。私は一人地べたに座って、力なく顔を上げた。檻の鉄格子はしなびた花のように折れ曲がって固まり、いつまでも彼の不在を示し続けていた。  彼と私はずっと一緒だった。二人でいたからこそ、この不自由な檻の中での生活にも耐えることができた。互いの境遇を慰め合い、励まし合う時、私は彼の言葉が嬉しかった。脱出の方法について真剣に議論をする時でさえ、私には楽しいひとときだった。結果的に私たちは、檻に鍵穴が付いてい

          掌編_我が白原