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異世界人だって恋がしたい!!|『カサブランカ』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「カサブランカ」をベースに新しい物語を妄想します。

※「カサブランカ」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「カサブランカ」は、失恋で心に傷を負い、「もう他人と関わりたくない……」と思っていた男が復活を遂げる物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『カサブランカ』 ~『ヤクザ』編」、「『カサブランカ』 ~『ヤクザの娘』編」の2案でした。


案③


嘉村 それでは「案③」にまいりましょう!

三葉 はい。「案③」は、「『カサブランカ』 ~『異世界の王女』編」です。


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嘉村 異世界の王女……?

三葉 詳細をご説明する前に、「カサブランカ」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて……「案③」!「カサブランカ」と比較すると以下のようになります。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。主人公は男子高校生です。

嘉村 ふむ。

三葉 彼は、困っている人を見過ごせぬいいヤツです。道端で捨て猫を見つけると放っておくことができず、思わず拾ってしまうタイプですね。

嘉村 なるほど。

三葉 そしてその日も、彼は拾いものをしました。しかし猫ではない。女の子です。

嘉村 ……女の子。

三葉 土砂降りの雨の中、びしょ濡れになってうずくまっている少女(以下、Aさん)がいた。主人公は声をかける。具合が悪いのだろうか?何か落とし物?それでも家出少女?主人公は問うが、Aさんの返事は要領を得ない。「何だか変な子だなぁ」と思う。だが変人だろうが何だろうが、放置はできぬ。「家はどこだい?送るよ」。Aさんは首を横に振る。「警察は……嫌だよね。わかったよ」。マンガやアニメの主人公が往々にしてそうであるように、この主人公も高校生でありながらなぜか独り暮らしをしている。

嘉村 あー……。

三葉 主人公は、Aさんを家に連れて帰りました。Aさんは味噌汁を飲んだことがないとか、テレビや冷蔵庫を初めて見るとか、ほとんど漢字を書けないとか、本人はカツラで隠しているつもりでしょうが、じつは見事な銀髪だとか、あるいは右目は緋色、左目は金色のオッドアイだとか、いろいろと気になるところはあるが……悪い人ではないようだ。主人公とAさんは1つ屋根の下で暮らし始め、すぐに親しくなり、やがて互いに恋心を抱くようになる。

嘉村 ふむふむ。

三葉 2人は、相手が自分に好意を抱いていることにも気づいています。真面目な主人公は、「なぁなぁはよくないからな。まずはしっかり告白をしてカップルになり、そして手を繋いでみたりして……よし!さぁ、何て告白しようかな」なんて考えていたのですが……。

嘉村 ええ。

三葉 そんなある日、ふいにAさんが姿を消す。テーブルの上にはメモ。ミミズが這ったようなヘタクソな字で、「いままでありがとう。帰ります。さようなら」と書いてあった。

嘉村 ほぉ。

三葉 主人公はショックを受けます。頭が真っ白になり、どす黒い感情が体を貫く。そして……彼は変わった。他人と深く付き合うのを嫌がるようになったのです。トラブルを見かけても、「面倒ごとはご免だよ」と言って関わろうとしない。友人らは驚く「お節介焼きで、お人よしだったお前が……どうしたんだよ!?」。しかし主人公は、「何でもないよ」と一言。

嘉村 ふーむ。他人と深く関われば、また裏切られるかもしれない。だから関わることを恐れる……一種のトラウマと言うべきでしょうか。

三葉 ええ、その通りです。かくして主人公は、孤独を愛する暗い少年になったわけですが……それから半年経って、突如Aさんが戻ってきた!主人公は驚く。頭に血が上る。目には涙が浮かぶ。様々な感情が去来し、言葉を失う。Aさんが目を伏せる。短い沈黙。主人公は努めて平静を装い、問うた「用件を聞こう」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 Aさんはポロリと涙をこぼし、語り始めた。すなわち……彼女は異世界人でした。

嘉村 異世界人!?

三葉 ええ。しかも、ただの異世界人ではない。異世界の王女だったのです。

嘉村 王女!

三葉 Aさんは、「王家の者は1度は人間界に留学すべし」という伝統に則ってこの世界にやってきたのです。

嘉村 あー、なるほど。「魔法少女もの」などでよく見かける留学制度ですね。「魔女の宅急便」もそうだし、「姫ちゃんのリボン」もそんなノリでしたよね。


三葉 そしてAさんは主人公と出会い、恋に落ちたわけですが……ところが、ふいに帰還命令が下った。留学は中止です。なぜならば、ゴブリンやらドラゴンやらが祖国に侵攻、戦争が始まったのです。

嘉村 ほぉ。

三葉 帰還の時、Aさんは迷った。真実を告げるべきか否か。本当は伝えたかった。愛する人にすべてを打ち明けたかった。しかし、言えなかった。「だって……異世界の王女だなんて重すぎるじゃない!」。

嘉村 まぁ確かに……平々凡々たる高校生相手に「異世界の王女」ってのは重いですよねぇ。

三葉 Aさんが泣く「あなたに嫌われたくなかったんだもん!」。主人公は彼女をガバっと抱き寄せ、「そんなことで嫌いになるもんか!」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 とまぁ2人は愛を確かめ合ったわけですが……気になるのは、これからのことです。「で、そのゴブリンやらドラゴンやらとの戦争はもう終わったのかい?つまり……留学が再開となり、戻ってくるってこと?」。主人公の声は弾む。しかし、Aさんは首を横に振った。彼女曰く……戦争はまだ続いている。しかも、Aさんの祖国は敗色濃厚だと言う。「祖国では、勇者を召喚することにしたの」「勇者か!そりゃ心強いな!もう目星はついているのかい?」「うん」「そりゃよかった!」「えーと……つまり、あなたなんだけどね」。

嘉村 なるほど。

三葉 異世界の占い師は、主人公こそが救国の勇者に相違ないと言ったそうだ。……自分が勇者だと言われてもちっとも実感はなく、まるでキツネにつままれたような心持ちだが、まぁ目の前に異世界の王女がいるのだ。何があっても不思議はない。そして、愛するAさんの祖国のためである。否も応もない。主人公は、急ぎ異世界に転移する。

嘉村 おー。

三葉 そして……なるほど、占い師は正しかったようです。どういう原理かわからぬが、転移した途端、主人公はチート能力を身につけていた。彼は王らに挨拶した上で伝説の剣を引き抜き、究極の黒魔術の使い手や、精霊の祝福を受けた巫女、この世のすべてを知る賢者らを仲間に迎え入れ、ゴブリンやらドラゴンやらを片っ端から討伐していった。かくして平和が戻ったのである。

嘉村 ふむ。

三葉 平和が戻ったということは……つまり、主人公が元の世界に戻る時がやってきたということです。Aさんが言う「私も一緒に行くわ。そして……もう離れない!」。しかし、主人公はかぶりを振った「きみはここに残るんだ。賢者に聞いたよ。異世界人との恋は重罪。追放を食らうんだろ?」「でも……」「辛い戦いが終わり、これから復興が始まるって時だ。……あちこち旅してよくわかったよ。国のみんなが、きみを愛している。きみは希望の象徴だ。きみは、この世界に必要な人なんだ」「……」「いまはいいだろう。でもオレと一緒に来れば、いつか必ず後悔する日が来る。きみは、国を捨て民を捨て、そして自分1人だけ幸せになるなんてできない人だからね。オレにだって、それくらいはわかるさ」……こうして2人は別れ、物語は幕を閉じます。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は自分のことよりも、「異世界の人びとの幸福」や「Aさんにとっての本当の幸福」を優先した。つまり、「捨て猫を放っておけないいいヤツ」に戻ったというわけです。


案④


嘉村 続いて、「案④」にまいりましょう。

三葉 はい。「案④」は、「『カサブランカ』 ~『異世界の王子』編」です。


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嘉村 今度は王子!

三葉 さて……前回も申し上げた通り、「『カサブランカ』をリスペクトした物語」を作る際に特に気を配る必要があるのは、「ヒロインの行動の理由 = 動機」です。

嘉村 ふむ。

三葉 「案③」であれば、「Aさんが主人公のもとを去った理由」、そして「ヨリを戻した理由」。これらが明確で、かつ共感できるものでなければ、鑑賞者は「随分身勝手な女だな!」「売女かよ!」と悪印象を持つでしょう。さらに、そんなヒロインに惚れる主人公も阿保に見えてくる。すべてが茶番になってしまうわけです。

嘉村 確かに。

三葉 「案③」では、「Aさんが主人公のもとを去った理由」は「祖国で戦争が始まり、帰還命令が下ったから」。また、「ヨリを戻した理由」は、「祖国を救う英雄を召還するために、主人公の前に戻ってきた。そして、1度顔を見たら感情が抑えられなくなったから」です。

嘉村 ふむふむ。

三葉 でね。

嘉村 ええ。

三葉 他にどんな「理由 = 動機」であれば、鑑賞者の共感が得られるか考えてみたんですよ。

嘉村 ふむ。

三葉 例えば、こんなのはいかがでしょうか?すなわち……Aさんは、じつは男性だった!

嘉村 ……ん?

三葉 Aさんは男性でした。ところが、主人公に恋をしてしまった!主人公はAさんを女性と勘違いし、恋愛感情を抱いている様子。Aさんは動揺する。彼は異性愛者でした。それなのに……この胸のときめきは何だろう!オレは一体どうしてしまったんだろう!?Aさんは、「いかん!このままでは間違いを犯してしまう!」ということで、異世界に戻った。……これが、「Aさんが主人公のもとを去った理由」です。

嘉村 ははぁ……。

三葉 しかし、嗚呼、抑えがたきは恋心!Aさんは、どれだけ離れていても主人公を忘れられぬ。やがてAさんは腹を決める「愛の前には性別なぞ関係ない!」。ということで再び主人公の前に姿を現した。……これが「ヨリを戻した理由」ですね。

嘉村 なるほど……。

三葉 いかがでしょう?納得感があるでしょう?

嘉村 まぁ確かに……「そういう事情があるなら致し方がないか」という印象で、Aさんに「身勝手なヤツ」という印象は抱きませんね。

三葉 以上、「『カサブランカ』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「カサブランカ」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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