アニメ「Kanon」第15話を5つの視点から分析する👀
引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第15話。第14話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!
分析対象
あらすじ
【ポイント①】ストーリーを整理する
本話は、これまでのエピソードと比べて何が起きているのか理解しづらいように思う。
おそらくは、
・1:他のエピソードと比べて、ファンタジー色が強いから(魔物、奇跡の力 etc.)
・2:他のエピソードと比べて、語られるストーリーの量が多いから(魔物との戦い → 舞の過去(約10年分) → 舞に事情を説明 → 舞の自殺 → 舞の復活)
・3:他のエピソード同様に、登場人物の説明的なセリフ・モノローグではなく、描写(登場人物の表情、仕草 etc.)のみで鑑賞者に伝えようとしているから
……といった辺りが理由だろう。
いくつかの感想ブログ・考察ブログを拝見したが、混乱している方、誤解していると思しき方も少なくなかった。
もちろん、<鑑賞者を敢えて混乱させる物語/その混乱を楽しむ物語>だって世の中にはある。また、<誤解だろうが何だろうが当人が楽しければそれでいいのだ>とも言える。
つまり、鑑賞者を混乱・誤解させる物語は決して悪いものではない。
が、しかし。
物語を分析するにあたっては、そこでどのようなストーリーが紡がれているのか、できる限り正確に把握する必要がある。
ということで、まずはストーリーを整理しておこう。
▶STEP1
舞の母は重い病気を患っていた。
▶STEP2
母は衰弱の一途をたどった。母自身も医師も「もうダメだ。手の施しようがない」と諦めてしまう。
だが、舞だけは諦めなかった。<希望>を捨てなかった。そして奇跡が起きた……!
舞の力によって母は回復し、やがて退院に至った。
※補足:以上の描写より、舞の力が<希望>に由来するものだとわかるだろう。<希望を実現する力>、あるいは<希望そのもの>と言うべきかもしれない。
▶STEP3
舞は力のせいで恐れられ、疎まれる。
かくして元々住んでいた街を去り、いまの街にやってきた。
▶STEP4
引っ越し先の街で、舞は孤独だった。
なおこの時点では、舞は自身の力に対して愛憎半ばだったと推測される。すなわち、「こんなものがあるから私は独りぼっちになってしまったんだ」と疎ましく思いながらも、同時に「力がお母さんを救ってくれた。力があってよかった」という感謝の念だって抱いていたに違いない。
▶STEP5
舞のもとに祐一がやってくる。祐一は舞の力を恐れることなく、2人は遊び友達になった。
※補足:舞が特別な力の持ち主であり、そして彼女が<孤独を抜け出したい>と願っていたことを考えれば、舞と祐一の出会いは偶然のものではないだろう。おそらくは、力が祐一を呼び寄せたのだ。
▶STEP6
夏休み終盤。祐一が帰宅する日がやってきた。
だが、舞は祐一に傍にいてほしい。だから嘘をついた。「麦畑に魔物がくるの!2人で守ろう!」「魔物と戦って待ってるから!戻ってきて!」と。
▶STEP7
しかし、祐一は帰ってしまう。
かくして舞は、「祐一も他の人と同様だった。私を恐れ、疎み、逃げていった」と誤解した。
※補足:第13話、舞はあゆと会った後にこんなことを言っている。「あの子は強い子。私は待つことができなかったけれど、あの子は待ち続けている」。要するに、舞はかつての友(= 祐一)を待ってはいない。もう戻ってくることはないだろうと諦めてしまったのだ。
この時、舞は絶望したに違いない。「私は誰にも受け入れてもらえないんだ」「このままずっと孤独なんだ」と。
ところで……絶望とは<希望を失う>ことだ。
かくして、<舞の力 = 希望>は舞自身から切り離された。そして舞の嘘に従って、魔物と化した。
▶STEP8
その後、舞は魔物と戦い続けた。
なお舞は、魔物の正体が自身の力だとは気づいていない。
▶STEP9
約10年後、高校3年生になった舞に初めて<仲間>が現れた。祐一だ。
ただし、祐一は過去の記憶を失っている。舞も祐一がかつての少年だと気づいていない。
▶STEP10
そして本話。
魔物(= 舞の力)が祐一に語りかけた。
※補足:魔物は以前から、舞の周囲の人(祐一、佐祐理)にコンタクトを取ろうとしていた。事情を伝え、「舞を助けてやってほしい」とSOSを出そうとしていたのだろう。だが魔物は強すぎた。だから上手くコンタクトできず、傷つけてしまっていたのだ。そして最後の1体となったいま、ようやくコミュニケーションできるようになった次第である。
かくして祐一は舞の過去を知り、またかつて自分と舞が出会っていたことを思い出し、さらに舞が誤解していることに気づいた。
▶STEP11
祐一が、魔物から聞いたことを舞に伝える。舞は困惑するが、やがて祐一の説明を信じる。
▶STEP12
祐一が説得する「あの頃に戻るんだ。自分の力を受け入れて、そして剣を捨てるんだ」。
だが舞は「剣は捨てられない。私はずっとこれに頼って生きてきたから」「剣を捨てた私は弱い。祐一や佐祐理に迷惑をかけてしまう」と躊躇した。
※補足:舞は、約10年間魔物と戦い続けてきた。換言すれば、魔物と戦うだけの日々だった。彼女は戦い以外を知らない。だから、<戦いを止めること = 剣を捨てること>を恐れるのだ。
しかし、祐一は言った「構うものか!俺も佐祐理さんもお前が大好きなんだから!」。
祐一の言葉に、舞は笑顔になった。
舞は嬉しかったに違いない。
何しろ祐一は「魔物を生み出す奇妙な力を持っていようが、弱かろうが、迷惑をかけようが、そんなの構わないさ = そのままの舞をすべて受け入れるよ」と言ってくれたのだから。
そう、舞を恐れることなく受け入れてくれる人がいたのだ!かくして舞は、この時、10年ぶりに<絶望>から脱したのだった。
▶STEP13
ところが……その直後、舞は自殺を図った。
なぜ自殺を図ったのか?おそらくは、<自分(= 魔物)が、大切な人(= 祐一、佐祐理)を傷つけていた>と知ったからだろう。舞なりの「けじめ」とでも言おうか。
▶STEP14
瀕死の舞。
そこに幼い舞(= 魔物 = 舞の力)が現れ、傷を塞いだ。そして幼い舞は言った「私は舞の中に戻る。いまなら受け入れてもらえると思うから」。
上述の通り、舞は10年ぶりに<絶望>を止めた。だから<力 = 希望>は舞の中に戻っていけるのだろう。
▶STEP15
最後に祐一が言う「舞、起きろよ。夢から覚める時間だぞ」。
この10年間、舞は魔物と戦い続けてきた。同い年の子どもが様々なものを吸収し、成長していく時期に、彼女は<自分の力 = 自分の一部>を否定するだけの日々を送ってきた。
だから、舞は妙に幼いのだ(他人とのコミュニケーションが極度に下手、動物に「さん」を付ける etc.)。戦闘力を除けば、彼女は子どものままなのだ。
だが、いますべてが終わった。舞の誤解は解け、魔物は消え、彼女の力は彼女の中に戻っていった。さらに、舞は<そのままの自分を受け入れてくれる友人>を得た。いまこそ前を向いて歩き出す時だ。
だから祐一は言った。「夢から覚める時間だぞ」と。
【ポイント②】舞のエピソードからファンタジー色を取り除くとどうなるか?
<1>
上述の通り、本話(というか舞にまつわるエピソード全般)はファンタジー色が強い。
すなわち、魔物、奇跡を引き起こす力、剣などなど。
では、そういったファンタジー的なものをすべて取っ払ってみたらどうだろう?何が残るのだろうか?
<2>
ファンタジー的なものを取り払ってみると……舞のエピソードは、<強烈なトラウマ・コンプレックスを抱えた人の物語>と言えそうだ。
というか、【<強烈なトラウマ・コンプレックスを抱えた人の物語>にファンタジー風の装飾を施すと舞のエピソードになる】と言うべきかもしれない。
以下、詳しくご説明する。
<3>
そもそも……<強烈なトラウマ・コンプレックス>を抱えた人は、そのトラウマ・コンプレックスに囚われ、前に進めなくなるものだ。
例えば、相貌コンプレックス。
自身の顔を醜いと感じ、それをひどく気にしている人は、相貌のことで頭がいっぱいだ。
・例1:人と会う → 相手が自分の顔をどう思っているか気になる
・例2:人と揉める → 俺が醜いから見下しているんだろうと勘繰る
・例3:何か失敗する → 私がブサイクだからだと考える
・例4:大きなチャンスがやってくる → 醜怪な俺にはどうせ無理さと諦めてしまう
「お前はそんなにブサイクじゃないよ」「顔のことをとやかく言う奴なんてごく一部。そんな下劣な連中とは関わらなきゃいいんだよ」なんて励ましても無意味だ。当人は「へっ!お前はブサイクじゃないからいいよな」といじけるばかりだ。
かくして彼は30歳になっても40歳になっても、相貌のことばかり考え続けるのである。当然、周りは呆れるだろう。「お前、思春期の子どもじゃないんだからさぁ……」と。
あるいは、彼は美容整形をするかもしれない。整形、結構なことだ……それでコンプレックスが消え失せ、幸せに暮らせるようになるならば。
だが残念ながら、美容整形はクセになるようだ。1度では収まらず、2度、3度と繰り返す人もいると言う。
根本にあるコンプレックスが解消されていないゆえ、目の次は鼻が気になる、鼻の次は口が気になるというように、いつまでも満足できないのだと思われる。
<4>
あるいは、学歴コンプレックス。
自身の学歴の低さを気にしている人は、学歴のことで頭がいっぱいだ。
・例1:人と会う → 相手の学歴が気になる
・例2:人と揉める → 俺の学歴を見下しているんだろうと勘繰る
・例3:何か失敗する → 俺の学歴が低いからだと考える
・例4:大きなチャンスがやってくる → 低学歴の俺にはどうせ無理さと諦めてしまう
「社会に出てからも学歴のことをとやかく言う人はごく一部。そんな人とは関わらなきゃいいんだよ」「学歴が気になるなら、その分仕事を頑張って見返してやろうぜ!」なんて励ましても無意味。当人は「へっ!お前は学歴が高いからいいよな」と思うだけだ。
かくして彼は30歳になっても40歳になっても、学歴にこだわり続けるのである。当然、周りは呆れるだろう。「お前、いつまで学歴の話をしているんだよ」と。
さらに、だ。彼は自分の子どもに高学歴を求めるようになるだろう。彼は子どもに言うのだ「学歴は大切だ」「お前のために言っているんだ!言うことを聞け!」「お前には、俺のように苦労させたくないんだ!」。
彼は、子どもを使って自分のコンプレックスを打ち消そうとしているのだ。
<5>
とまぁこのように、強烈なコンプレックス・トラウマを抱えた人はそのコンプレックス・トラウマに囚われ、前に進めなくなるものだが……舞もこれと同様だと思うのだ。
・STEP1:<奇跡の力を持つがゆえに人びとから恐れられ、疎まれた>という経験は、舞をひどく傷つけた。これが彼女のトラウマだ
・STEP2:かくして、舞は自身の持つ<奇跡の力>を忌み嫌うようになる
・STEP3:ということは、つまり……<奇跡の力>のことで頭がいっぱいになる。「この力さえなければ!」と考えるようになる
・STEP4:そしてその後、10年に渡って舞は魔物と戦い続けた。自分の中の<奇跡の力>を打ち消そうとしているのだ。だが、戦いは終わらない……!
これ、【相貌コンプレックスを抱える人が化粧や美容整形に精を出すものの、いつまでも幸せになれない】、【学歴コンプレックスを抱える人が、子どもに勉強させまくっても必ずしも幸せになれるわけではない】というのと同様の構図と言えるだろう。
<6>
では、強烈なコンプレックス・トラウマを抱えた人はどうすれば幸せになれるのだろうか?
おそらくは……「俺にはダメな部分もある。でもまぁいいや」というように、ダメな自分を受け入れるしかないのだろう。
だから、【<幼い舞 = 魔物 = 力>が舞の中に戻っていくシーン】、すなわち【舞が祐一の言葉をきっかけに<奇跡の力>を持つ自分を受け入れたシーン】が、本話のラストシーンなのだ。
つまり本話は、舞が不都合な自分を受け入れるエピソードと言えるだろう。
【ポイント③】舞と佐祐理の関係
<1>
上述の通り、舞は長らく<奇跡の力を持つ自分>を受け入れられずにいた。また、祐一や佐祐理を傷つけたのが自分(の力)だと知ると、自殺を図ろうとした。
潔癖というか自分に厳しいというか……。
そんな舞がようやく<不都合な自分・不都合な過去>を受け入れ、前を向いて歩き出すところで本話は幕を閉じるわけだが……本作にはそんな舞と対になるキャラ、というか、舞の一歩先をいくキャラがいる。
佐祐理だ。
<2>
第14話で、佐祐理が悲しい過去を抱え、いまも苦しみの中にいることが明らかになった。
しかし、彼女はこう言った。「この曲、パッヘルベルのカノンです。同じ旋律を何度も繰り返しながら、少しずつ豊かに、美しく和音が響き合うようになっていくんです。そんな風に、一見違いのない毎日を送りながら、でも少しずつ変わっていけたらいいですよね」「いつか一弥のことも悲しい気持ちだけじゃなく……思い出せるようになるかもしれない」と。
佐祐理は受け入れがたい過去を受け入れ、どうにか前に進もうとしている……。舞はいま、佐祐理に並んだのだ。
【ポイント④】言葉が足りず悲劇が起こる
<1>
第14話を分析した記事で申し上げた通り、舞ルートのテーマは<言葉が足りず悲劇が起こる>である。
そもそも舞は致命的に言葉が不足しているキャラだし、第13話では祐一の言葉の不足が原因で祐一と舞が衝突してしまった。また第14話では、やはり祐一の言葉が足りなかったせいで佐祐理が魔物に襲われた。
<2>
では、本話はどうか?
ご注目いただきたいのは、<幼い祐一が去り、舞が誤解するシーン>である。
このシーン、あまり詳しく描かれていないのだが……祐一が「夏休みだから家に帰る。でもきみのことは大切な友達だと思っている。だから来年、また来るよ」としっかり伝えるか、あるいは舞が「ずっと傍にいてほしい。寂しい」と素直に告げていれば、舞が誤解することはなく、その後の悲劇も防げたように思う。
あるいは、実家に帰った祐一が舞に手紙を出したってよかったはずだ(2人は、「のんのんびより」のれんげとほのかを見習うべきだ!)。
つまり本話でもやはり、<言葉が足りず悲劇が起こる>が描かれているのだ。
【ポイント⑤】舞はなぜ自暴自棄なのか?
<1>
舞は、自暴自棄な少女である。
<自分を守る>というのは生き物の本能のようなものだと思うが、舞はこれが抜け落ちているのだ。
▶例1:魔物との戦い
魔物との戦いはいつも捨て身だ。舞は剣を持つが、盾は持たぬ。鎧も着ない。突撃あるのみ。
本話では特にこの傾向が強く、舞は<足が上手く動かない → 屋上から飛び降りて特攻する>という戦法に出る。まったく常軌を逸している。自殺念慮があるようにしか見えない。
▶例2:退学
自身が退学になりかけた時(第13話など)。心配する祐一や舞とは対照的に、舞は<別にどうでもいいよ>といった態度を取っていた。
<2>
はて。舞は、なぜ自分を守ろうとしないのか?なぜいつも捨て身なのか?
ご注目いただきたいのは、舞が絶望しているという点だ。
上述の通り、舞は10年前からいまに至るまで「自分を受け入れてくれる人はいない」「この世界に自分の居場所はない」という絶望に囚われ続けてきた。
ゆえに、舞は「私なんてどうなってもいい」と考えているに違いない。自己評価が極端に低いのだ。
だからいつも捨て鉢で、自分を守ろうとしないのだろう。
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(担当:三葉)
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